2.9 自然エネルギーの普及策

グリーン電力証書

グリーン電力証書は、自然エネルギーの持つ環境価値として、地球温暖化対策としての日本国内でのCO2削減効果のほか、大気汚染防止、放射性廃棄物減少、地域の活性化、エネルギー自給率の向上、新規産業の育成など、さまざまな価値を含んでいる。グリーン電力証書を利用することにより、国内の自然エネルギーを積極的に選択し、その普及の後押しをすることができる。個人のほか企業や団体、地方自治体などがCSR活動の一環として積極的かつ継続的にグリーン電力証書を購入使用している。

通常の電力は電力会社から購入するが、グリーン電力証書の仕組みでは、電力そのものを届けるわけではなく、証書の購入者は証書発行事業者から証書の発行を受けることによりグリーン電力の利用が可能となる。一方、証書発行事業者は自らの自然エネルギー設備による発電、もしくは自然エネルギーの発電事業者に対して発電委託をし、発電の実績に基づき自然エネルギーによる環境付加価値の証書化を行う。

2012年6月まで日本では自然エネルギーの発電事業者の多くはRPS法に基づき、電力そのものと共にその環境価値を一般電気事業者やPPS(新電力)などの電力事業者に販売してきた。RPS制度で環境価値を手放していない部分(多くの場合は自家消費電力分)の環境価値は自然エネルギー発電者の手元に残っているとみなされていた。発電事業者はその残った環境価値をグリーン電力証書向けに販売することによって追加的な収益を得ることができた。発電事業者は新しい発電設備の導入や維持にこのグリーン電力の販売収益を活用することができるようになり、さらなる自然エネルギー普及拡大につながるとされていた。しかし、3.11を契機に国民や企業のエネルギーに対する意識が、いわゆる環境問題からより切実なエネルギー問題に変わり、さらに2012年7月からのFIT制度の開始と共に、より事業性を重視する様になったため、新規の発電事業者は基本的にFIT制度での全量売電を行うことになり、環境価値をグリーン電力証書として販売する取組みは難しくなった。ただし、既存の発電所の自家消費分の環境価値は引き続き、グリーン電力証書として販売することができるため、RPS制度からFIT制度への移行の中で市場規模は縮小しながら継続している。

2010年4月から開始された東京都の「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」第1期間(2010年度~2014年度)の対象事業者は、グリーン電力証書やグリーン熱証書を「再エネクレジット」の一つとして削減義務に活用できるようになっている。これにより初めて、いわゆるコンプライアンス(遵守目的)需要が生み出されるとともにグリーン電力証書への認知度も高まった。しかし、5年間の遵守期間の中で東日本大震災が発生し、多くの企業が節電や省エネルギーを徹底するようになり、削減義務の達成が容易になったことからグリーン電力証書の需要は想定よりもかなり減少した。この傾向は2015年度からスタートした第2期間(2015年度~2019年度)でもあまり変わっていない。

グリーン電力証書の普及とともに証書を発行する事業者(グリーン電力申請者)も一時期は増加していたが、3.11以降は減少傾向にあり、これまで最大で59事業者だったものが、2017年度には27事業者(企業のほかNPO法人や地方自治体も含まれる)にまで減少している。これまでのグリーン電力の設備認定実績は最大で累積設備容量が600,129kW(1195件)になっていたが、東日本大震災の影響やFIT制度開始などにより、設備認定の取消が270,553kWにのぼり、2017年3月末現在の設備認定の容量は329,576kW(383件)となっている。2012年以降は風力発電とバイオマス発電を中心に設備認定の取消が多くあり、2016年度には新たな設備認定はわずか52kW(1件)に留まっている。しかし、2017年度に入って2018年3月末での時点で設備認定の容量は333,606kW(362件)となりバイオマス発電を中心に4076kW(4件)増加した。また、2016年度のグリーン電力の認証量は3億1130万kWhとなり、前年度に比べ約45%の増加となり、2012年度以降減少が続いていたものが増加に転じている(図2.21)。2017年度も順調に認証量が増えており、2018年2月末の段階ですでに前年度の認証量を超えて3億5700万kWに達している。ただし、2017年度は認証量の内訳として太陽光と風力が減少し、比較的単価の安いバイオマスがかなり増加している。これは外資系企業を中心に使用電力中の自然エネルギーの割合を高める取り組みが進みだし、日本国内で調達可能な自然エネルギー由来のクレジットとしてグリーン電力証書やグリーン熱証書を調達しているためと考えられる。

図2.21 グリーン電力認証量および証書発行量の推移(グリーンエネルギー認証センター資料よりISEP作成)

証書発行量についても2016年度は3億1600万kWhと前年度から7割以上も増加しており、前回のピークだった2011年度の2億9600万kWを超えた。2017年度の証書発行量も順調に推移しており、第3四半期(4月~12月)で2億7200万kWに達している。2012年度からは地球温暖化対策推進法における報告制度の中で、このグリーン電力証書を使うことができることになった。そのためのCO2価値の認証制度「グリーンエネルギーCO2削減相当量認証制度」が創設され、認証が始まっている[1]

2012年7月から施行された固定価格買取制度(新制度)では、住宅等における小規模な太陽光発電を除き、自然エネルギーによる発電の全量買取が基本となっている。新制度では原則「全量買取」となるため、自然エネルギーによる環境価値も電力そのものと共に電力会社に売却・移転すると一般的には考えられている。ただし、特定契約により月毎の環境価値をFIT制度による売電側とグリーン電力との切り替えることは制度的に可能となっている。すでにグリーン電力証書制度の認定を受けた発電設備からは、今後もグリーン電力証書が創出されることになるが、設備認定の取り消しも増加しており、グリーン電力証書制度の存続に対しては、他のクレジット制度との住み分けなどが求められる。さらに、2017年度以降、FIT制度のFIT電気に対して創設される予定の「非化石価値取引市場」について、「非化石証書」として環境価値を電気と切り離して新電力に対して取引が可能となることから、電気需要家に対して環境価値を取引するグリーン電力証書との調整も必要となってくると考えらえる。電力小売全面自由化後、再生可能エネルギー100%あるいはCO2排出ゼロの電気を求めるユーザは確実に増えており、グリーン電力証書やJクレジットを使ってそのような電気の販売を始めている小売電気事業者(新電力)が現れている[2]

なお、グリーンエネルギー認証センターは、これまで日本エネルギー経済研究所の附置機関として運営されてきたが、2018年3月末で一旦解散をし、全ての業務をJQA(日本品質保証機構)が引き継ぐことが決まっている[3]

グリーン熱証書

グリーン熱証書については、2011年3月までに民間の第三者認証機関であるグリーンエネルギー認証センターによって制度化されている。木質バイオマスによる温水利用、そしてコジェネレーション(熱電併給)の場合の木質バイオマスの蒸気利用に対してグリーン熱の認証基準が2010年度に確立している。2011年度末までにバイオマス熱によるグリーン熱の設備認定は累計7件で 108,061kWまで行われていたが、2016年度までに3件で105,332kWに減少している。2012年度以降、新たに認定されたグリーン熱の設備はほとんど無く、グリーン熱の熱量認証が木質バイオマスを中心に行われている。2016年度は1億8062万MJのグリーン熱量が認証され、2015年度の1億6900万MJから増加している。さらに2017年度は2018年2月末までに174GJのバイオマス熱の設備認定があり、5億2520万MJのグリーン熱量が認証されており、すでに前年度の3倍近くとなっている。これらの大量のグリーン熱は、数年前の未認証のグリーン熱を認証したものである。これだけグリーン熱の認証量が増加した理由はグリーン電力証書と同様に外資系企業を中心に自然エネルギー由来のクレジットを大量に調達しているためと考えられる。なお、これらの認証されたグリーン熱は大規模な木質バイオマス(蒸気供給)設備が大半を占めていると考えられる。グリーン熱の販売量の実績も2016年度は1億4900万MJと、2015年度の半分以下となったが、2017年度は認証量から考えて大量のグリーン熱証書が2017年度末までに販売される可能性がある。ただし、2014年度まで5社の証書発行事業者があったが、2016年度には2社にまで減少している。

(ISEP 松原弘直)


[1] 「グリーンエネルギーCO2削減相当量認証制度」http://www.enecho.meti.go.jp/energy/newenergy/green_energy_co2.htm

[2] ネクストエナジー「GREENa」https://ne-greena.jp/

[3] 日本品質保証機構(JQA) 「グリーンエネルギー認証事業 事業譲渡に関するご案内」 http://www.jqa.jp/service_list/environment/topics/topics_env_31.html