5.2.3 国内での100%自然エネルギー地域への取り組み
日本国内でも、東日本大震災と福島第一原発事故から5年が経過し、幾つかの地域が100%再生可能エネルギーを目指しはじめている。その中で、2040年までに100%自然エネルギーの地域を目指すという都道府県レベルでは初めてとなるビジョンを決定している福島県が、2014年1月に福島県で開催された「コミュニティパワー国際会議2014 in 福島」[9]や「100%自然エネルギー世界キャンペーン」[10]などで、世界的に高く評価されている。
福島県は震災以前の2009年に「いきいき ふくしま創造プラン」内で低炭素・循環型社会への転換を重点施策に設定しており、自然エネルギーへの取り組みについて2011年3月に「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」を策定した。
しかし、その直後に震災が発生し、福島県における自然エネルギー導入政策も復興計画を踏まえたものへと変化した。2012年3月に「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン(改訂版)」が策定され、導入目標の見直し等が行われました。この推進ビジョンでは2011年から2020年までの期間の計画を定めており、その具体的な施策を定めた2013年2月策定の「再生可能エネルギー先駆けの地アクションプラン」[11]では、2020年目標を射程に2015年までの期間の具体的施策を定めている。
推進ビジョンでの具体的な計画は2020年までだが、自然エネルギー導入目標については2030年までの具体的数値が示されている。さらに、この推進ビジョンでは2040年頃を目処に福島県内のエネルギー需要量の100%以上に相当するエネルギーを自然エネルギーで生み出す県を目指すとしている(図5.9)。
図5.9 福島県再生可能エネルギー推進ビジョンの導入見込量と進捗度|出所:福島県資料
100%自然エネルギー地域の実現は、気候変動政策としてだけではなく、地域経済の自立という面でも重要である。しかし、現状では日本国内の自然エネルギー資源が豊富な地域であってもエネルギーの供給の大部分を地域外に依存しており、地域経済の自立が困難な一因になっている。地域資源である自然エネルギーを地域が主体となって活用し、地域で必要なエネルギーの全てを賄うことができ、かつ付加価値のあるエネルギーとして地域外に供給できれば、その経済効果は短期的なものではなく、長期的に次世代まで受け継がれるものとなるはずである。
100%自然エネルギー地域に向かう際の地域経済効果について、福島県再生可能エネルギー推進ビジョンに基づく試算を行い、その課題を検討している。自然エネルギー発電設備の導入シナリオについてこれまでの導入実績や目標値に基づいて作成し、2040年度までの年度毎の地域経済効果の評価を行っている[12]。
投資段階での地域経済効果は比較的早い時期に効果が表れるが、投資金額に比べると1割程度である。投資段階の地域経済効果を高めるためには、地域の金融機関や工事会社が関与するだけではなく、設備そのものを地域の企業が何らかの形態(メーカーや代理店など)で取り扱う産業化を少しでも進める必要がある。
一方、事業運営段階の地域経済効果は、投資段階に比べて数倍の大きな金額になり、その効果は長期間に渡り継続的に表れるが、そのための地域での長期的な基本計画やロードマップの策定を前提に、10年程度の長期で評価をする必要がある。よって事業開発から設備導入までの投資段階だけではなく、20年間の長期に渡る事業運営段階においては地域主導での事業が長期的に継続されることが重要であり、地域経済効果に二倍以上の違いがあると試算されている。
長野県では、「第三次、長野県地球温暖化防止県民計画」の中で「長野県環境エネルギー戦略」[13]を2013年2月に定め、より実効性の高い地球温暖化対策を展開している。省エネルギーと自然エネルギーの推進に加え、エネルギーの適正利用を図る施策や過度なピークの抑制を図る施策、地域主導のエネルギー事業による地域の自立を図る施策を統合的に実施することにしている。
基本目標として「持続可能で低炭素な環境エネルギー地域社会をつくる」とし、温室効果ガス総排出量、最終エネルギー消費、最大電力需要、自然エネルギー導入量および発電設備容量の5指標について2020年度(短期)、2030年度(中期)、2050年度(長期)の目標値を定めている。さらにこれらの指標から自然エネルギー(大規模水力を含む)によるエネルギー自給率を算出し、2030年度にエネルギー需給量で19%、最大電力需要に対する発電設備容量で100%を目標としている。
(ISEP 松原)
5.2.4 エネルギー永続地帯
自然エネルギーにより持続可能な地域を将来に渡り増やしていくため、都道府県や市町村毎に自然エネルギーの割合を推計して自然エネルギー100%地域を見出し、評価する取り組みが10年前から継続的に行われている。永続地帯研究会(千葉大学倉阪研究室と環境エネルギー政策研究所(ISEP)の共同研究)では、2007年から毎年、「永続地帯」として日本国内の地域別の自然エネルギー供給の現状と推移を明らかにしてきた[14]。
地域における自然エネルギーの割合が、その地域の持続可能性の指標として有効であり、その地域の特性に応じて太陽光や風力、小水力、地熱、バイオマスなどの様々な自然エネルギーを導入した実績を指標として評価することにより、これまで経済的な指標などでは捉えられなかったその地域の持続可能性を評価することが可能となる。
2018年3月に「永続地帯2017年度版報告書」で公表されたエネルギー永続地帯のデータ(2016年度推計)より、地域別の自然エネルギーの電力の供給割合から各地域の特徴をみていく。
日本国内では、自然エネルギーの全発電量に占める割合がようやく2016年度に14.8%になったレベルだが、都道府県別にみると、大分県、秋田県、鹿児島県、宮崎県、群馬県の5つの県で、民生(家庭、業務)および農林水産用の電力需要と比較した自然エネルギー供給(大規模水力は除く)の割合が30%を超えている(図5.10)。
図5.10:都道府県別の自然エネルギーの供給割合のランキング(2016年度推計値)|出所:永続地帯研究会(千葉大学倉阪研究室+環境エネルギー政策研究所)
さらに21の都道府県で、その割合が20%を超えているが、都道府県毎に特徴がある(表5.3)。第一位の大分県では地熱発電が16%になる一方、太陽光発電の割合も18%と高くなっており、同じ九州の鹿児島県や宮崎県も太陽光発電の割合が20%を超えており、群馬県や三重県で太陽光の割合が20%を超えている。
表5.3 県別の電力需要に対する自然エネルギーの割合(トップ5)
都道府県 |
太陽光 |
風力 |
地熱 |
小水力 |
バイオマス |
再エネ |
大分県 |
18.3% |
0.2% |
15.7% |
5.6% |
5.1% |
44.9% |
秋田県 |
3.8% |
15.6% |
11.0% |
9.9% |
3.6% |
44.1% |
鹿児島県 |
20.6% |
5.3% |
3.3% |
4.4% |
3.7% |
37.2% |
宮崎県 |
21.0% |
0.4% |
0.0% |
2.7% |
8.9% |
33.0% |
群馬県 |
21.0% |
0.0% |
0.0% |
8.3% |
1.3% |
30.5% |
全国 |
7.8% |
0.9% |
0.4% |
2.2% |
1.7% |
13.0% |
出所:永続地帯研究会
また、九州では宮崎県と大分県、その他の地域では、島根県と岩手県でバイオマスの比率が5%以上と高くなっている。一方、第二位の秋田県では太陽光の割合は低く、11%の地熱発電や10%の小水力に加えて風力の割合が15%と高くなっている。小水力では、第6位の富山県で23%、長野県で14%と高くなっています。風力では、青森県が13%と秋田県に次いで高くなっている。
さらに、135もの市町村では電力需要に対して100%を超える割合の自然エネルギーが供給されていると推計されている。風力発電だけでも100%を超える市町村は25あり、地熱発電では5市町村だが、小水力発電では62市町村あることがわかった。
2012年にFIT制度がスタートして太陽光発電の導入が急速に進み、15の市町村では太陽光発電だけで100%を超えている。これらの発電設備のほとんどは、地域外の企業が所有・運営しており、地域の自然エネルギー資源を地域主体で活用するコミュニティパワー(ご当地エネルギー)としての取り組みが求められている。また、地域での普及の遅れがみられる自然エネルギーの熱利用(太陽熱、バイオマス、地中熱など)への本格的な取り組みも期待されている。
一方、東京都や大阪府など大都市では、エネルギーを大量に消費しているため、太陽光発電の導入がある程度進んでいるにも関わらず、自然エネルギー供給の割合が数%以下と非常に小さいことがわかった。
この推計では、都市部で重要な自然エネルギー源として期待される自治体の廃棄物発電施設を含めており、生ごみなどをバイオマス資源として算入している。さらに、都市部において自然エネルギーの供給の割合を増やすためには、電力自由化や環境価値取引の仕組みなどにより、自然エネルギーが豊富で供給が可能な地域と都市との連携の取り組みが期待されている。
[1] Building Blocks – http://www.go100re.net/the-campaign/building-blocks/
[2] Global Renewable Energy Solutions Showcase –https://www.globalrenewable.solutions
[3] Energy Watch Group –http://energywatchgroup.org
[4] The Local Dimension of NDCs: 100% Renewable Energy – http://www.go100re.net/the-campaign/cop23/
[5] ドイツdeENet「100%自然エネルギー地域」http://100ee.deenet.org
[6] IdE ”RegioTwin” http://www.regiotwin.de/
[7] 地域再生可能エネルギー国際会議2017http://local-renewables-conference.org/japan
[8] ライン・フンスリュック郡の気候変動対策計画(ドイツ語)http://www.kreis-sim.de/leben/klimaschutz/
[9] ISEP「コミュニティパワー国際会議2014 in 福島」http://www.isep.or.jp/library/4772
[10]「100%自然エネルギー世界キャンペーン」”Global 100% RE” http://www.go100re.net
[11] 福島県(2013)「再生可能エネルギー先駆けの地アクションプラン」(2013)
[12] 松原弘直、Jörg Raupach-Sumiyaほか,(2015)「福島県再生可能エネルギー推進ビジョンに基づく地域経済効果の評価」環境経済・政策学会2015年大会
[13]「長野県環境エネルギー戦略」2013年2月http://www.pref.nagano.lg.jp/ontai/kurashi/ondanka/shisaku/senryaku.html
[14] 永続地帯ホームページ http://www.sustainable-zone.org