4.7 自然エネルギー熱
概況
日本国内における自然エネルギーの熱分野での活用について整理する。熱分野では、大きく3種類の自然エネルギーが利用されている。ひとつは最もポピュラーな太陽熱、そして温泉熱として身近な地熱や地中熱、最後に森林資源を活用したバイオマス熱利用である。太陽熱以外は、国内での統計情報が非常に少なく、その普及状況を示すデータは少ない。
太陽熱利用については、オイルショック後の1980年代に太陽熱温水器の普及が進んだが、その普及過程で品質面などへの信頼性が失われ、その後の販売では低迷が続いている。その一方、他の熱源との組み合わせが可能なソーラーシステム機器が登場し、一般家庭だけではなく、業務用などでもさまざまな組み合わせでの普及が期待されている。
地熱の熱利用については、古くから温泉の浴用としての利用がある。この熱量は、本来、化石燃料で加熱すべき浴用のお湯を、温泉を使うことにより化石燃料の利用を削減していると見なすことができる。また、地中の安定した温度を活用して、地中熱として利用することにより、冷房や暖房および給湯のエネルギー効率を高めることができる。
バイオマス資源の熱利用については、古くは薪の利用なども含まれたが、ここでは、木質ペレットや木質チップなどを専用の燃焼機器で利用することを想定している。さらにバイオマス資源を利用した製紙会社などの大型ボイラーやCHP(熱電併給システム)についても対象となるが、ほとんどが自家消費のため、その供給量を把握することは容易ではない。
太陽熱
太陽熱設備の国内での導入状況については、 「3.7 太陽熱」を参照のこと。
地熱直接利用
地熱の直接利用として温泉浴用利用のエネルギー的な貢献について、温泉浴用利用による節約熱エネルギーを、「温泉を浴用利用することによって節約される、浴槽水を日本の平均気温15℃から、日本人の浴用嗜好温度42℃まで熱することに要する熱エネルギー」と定義する。環境省の調査による2015年3月末現在で約3万か所の温泉について、温泉を浴用に利用することにより節約できた熱エネルギーを約23.4PJと推計している[1]。それ以外に、農業用温室などの浴用以外の目的で使われている温泉熱が1.3PJ、地中熱利用が0.60PJあると推計されている。図4.23には、都道府県別の地熱直接利用の熱量を示す。なお、地中熱の利用状況については、「3.5 地中熱」を参照のこと。
バイオマス熱利用
木質バイオマスの熱利用としては、製紙工場や製材工場等に併設される大型のバイオマスボイラーや施設に設置される木質チップやペレットによるボイラー、そして家庭等に設置される薪や木質ペレットによるストーブの熱利用などさまざまな種類がある。
この中で化石燃料を代替する固形のバイオ燃料として注目されている木質ペレットは、1980年代に石油ショックの影響で一時生産が増加した時期があったが、1990年代に入ると石油価格が下がりペレットの生産も大きく減少した。その後、2000年代になって、環境問題や地域資源の見直しなどで再びペレット生産が増加してきており、2016年度には年間生産量が12万トン程度となっている (表4.8)。ただし、欧州のペレット工場と比べて1か所あたりの規模が小さく、全国148か所のペレット工場の平均的な規模は年間生産量が1,000トン程度となっている。
表4.8 ペレットおよび薪の生産量
年 | ペレット | 薪 |
2009年 | 3.7万トン | 5.1万m3 |
2010年 | 5.8万トン | 8.5万m3 |
2011年 | 7.8万トン | 8.8万m3 |
2012年 | 9.8万トン | 6.2万m3 |
2013年 | 10.7万トン | 8.5万m3 |
2014年 | 12.6万トン | 8.5万m3 |
2015年 | 12.0万トン | 7.2万m3 |
2016年 | 12.0万トン | 8.2万m3 |
出所:特用林産物生産統計調査
木質ペレットの生産を効率化し、普及につながる価格に下げるには、木質ペレットの原料の調達方法や生産方法に課題が多い。原料調達面では、製材工場等の残材が44%を占める一方、36%を占める林地残材では、間伐材の破砕や乾燥から行う必要があり、製材工場などにペレット製造工場を併設することによるカスケード利用が期待される。
林野庁が公表した「平成28年 木質バイオマスエネルギー利用動向調査」[2]によると、平成28年に全国のボイラー等を有する事業所でエネルギー利用された木質バイオマスとしては、木材チップ、木質ペレット、薪、木粉(おが粉)などがあり、その内訳を表4.9に示す。
表4.9 事業所における木質バイオマスエネルギーの利用量(2016年)
原料 | 単位 | 熱利用のみ | 発電および熱利用 | 発電のみ | 合計 |
木材チップ | (絶乾)万トン | 124.0 | 252.5 | 396.9 | 773.4 |
木質ペレット | 万トン | 4.2 | 0.5 | 16.6 | 21.4 |
薪 | 万トン | 4.8 | 0.2 | 0.0 | 5.0 |
木粉(おが粉) | 万トン | 15.4 | 10.8 | 6.1 | 32.3 |
その他 | 万トン | 30.2 | 17.9 | 7.9 | 55.9 |
出所:林野庁データより作成
熱利用のみされている木材チップは124万トンだが、発電と熱利用を同時に行う熱電併給を含めると376.5万トンとなっている。熱電併給を含めて熱利用された木質ペレットについては4.7万トン、薪は5.0万トンとなっている。製材工場などでは木粉(おが粉)が26.2万トン熱利用されている(熱電併給を含む)。図4.24には、2016年の都道府県別の木質バイオマス燃料(木材チップ、木質ペレット、薪、おが粉)の利用量を示す。とくに木質バイオマス燃料の利用量の多い県は、茨城県、福島県、静岡県、宮崎県、北海道、岐阜県などである。
[1]「永続地帯2015年度版報告書」永続地帯研究会
[2] 林野庁「平成28年 木質バイオマスエネルギー利用動向調査」