3.4 地中熱
世界的に見ると2015年に発表された地中熱ヒートポンプの年間利用実績は325PJとなっているが、我が国では2012年の実績が0.292 PJと極めて普及が遅れた状況にあり、先進的な米国や中国と比べると、3桁低い状況にある。国内産業として見たとき、現在、地中熱利用を中核において営業している企業は少数であり、一般が入手できる地中熱専用のヒートポンプを製造しているメーカーは、国内で7社程度である。
しかし、地中熱ヒートポンプの生産台数は着実に伸びてきており、トップメーカーであるサンポット社の生産台数が、2012年末に累計で1,000台に達した。このように市場が拡大する傾向を見せている中で、空気熱源のヒートポンプメーカーも、地中熱への関心を示してきている。
また、地中熱交換器については、導入当初は孔井の中に設置するボアホール方式のもののみであったが、近年は基礎杭を用いた工法が、国内のゼネコン及び鋼管メーカー等により開発されてきており、東京スカイツリーや羽田の国際線ターミナル等幾つかの大型建築物への適用も見られるようになっている。このほか水平方式の地中熱交換器の設置も行われるようになり、小田急線の地下化に伴い、トンネルに地中熱交換器が敷設され、東北沢駅の空調に用いられている。
一方、ヒートポンプを用いない地中熱利用として、空気循環や熱伝導を利用するタイプのものがあり、戸建住宅、学校などで用いられている。これらの地中熱エネルギーの利用量はヒートポンプを用いたものと比べて少ないが、普及件数はヒートポンプを大きく上回っている。住宅産業の中で注目される分野である。
1980年頃から導入の始まったヒートポンプを用いた地中熱利用は、しばらくの間、年間数件の実績で推移していたが、2000年頃より増加傾向をたどっており、最近5年間では毎年20%前後の伸び率で推移している(図3.9)。地中熱ヒートポンプシステムには、地中熱交換器に水/不凍液を循環させて熱交換をするクローズドループと、汲み上げた地下水と熱交換するオープンループとの2つのシステムがあるが、図3.9に示されているように近年はクローズドループの増加傾向が顕著である。
地中熱ヒートポンプは北海道から普及が始まったが、環境省がヒートアイランド対策として、夏季の冷房時に大気中への排熱のない地中熱ヒートポンプシステムに注目し、クールシティ推進事業、環境技術実証事業で取り上げる中で、東京などの大都市圏でのシステム導入も増加してきている。これから予想される大規模な地中熱利用を前にして、2015年に環境省は「地中熱利用にあたってのガイドライン」を改訂している。
2016年は経済産業省と環境省の補助金の枠組みが大きく変更になり、両省が連携して自家消費の再生可能エネルギーの発電と熱利用の導入支援を行っている。経済産業省の補助金は民間事業者が、環境省の補助金は地方自治体と非営利団体が対象となっている。また、2014年からは5年間の予定で始められたNEDO事業再生可能エネルギー熱利用技術開発は、2016年時点で20テーマが実施されており、それらのうち15テーマが地中熱利用に関連するものとなっている。
建物の標準仕様の中にも地中熱ヒートポンプが入ってきている。2013年に国土交通省は、公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)に地中熱交換井設備の項目を追加するとともに、「官庁施設における地中熱利用システム導入ガイドライン(案)」を公表している。さらに、2017年4月の省エネ基準適合義務化を控え、2016年4月には地中熱ヒートポンプの一次エネルギー消費算定プログラムが建築研究所から公表され、地中熱も他の熱源機器同様に省エネ基準(非住宅)での評価ができるようになっている。
(地中熱利用促進協会 笹田政克)
[1]環境省「平成28年度地中熱利用状況調査」https://www.env.go.jp/press/103827.html