2.5 自治体の自然エネルギー政策

2016年4月からの電力小売全面自由化により自治体新電力の設立が相次ぎ、検討中の自治体を含めると、その数は100を超えている。当研究所で把握している基礎自治体が直接的または間接的に出資している新電力を図2.17に示す。基礎自治体が直接出資していなくとも、連携を行う宮古新電力株式会社(岩手県宮古市)、合同会社北上新電力(岩手県北上市)、東松島新電力(東松島市)などもある。また都道府県レベルではやまがた新電力があり、東京都環境公社は公共施設向けにFIT電気を供給するモデル事業を行い、再エネ割合の高い電力供給事業を普及させるため、そのノウハウをセミナーやマニュアルを通じて紹介している[1]

図2.17 基礎自治体による自治体新電力(ISEP作成、間接的な出資も含む)

また全国市区町村再生可能エネルギー政策アンケート[2]において自治体新電力設立を設立済み、検討中と回答した115の自治体で新電力の設立を進める理由(複数回答)を図2.18に示す。回答割合が高い順に「エネルギーの地産地消(域内の再エネ電源の有効活用)につながるから」(90%)、「地域の活性化につながるから」(64%)、「地域の雇用を増やすことにつながるから」(46%)、「公共施設の電気料金の低減につながるから」(45%)となる。

「エネルギーの地産地消につながるから」と回答した自治体が多いものの「温室効果ガスの排出削減につながるから」(31%)と回答する割合が低いのは、既存の再エネ電源は活用するものの、新たに自治体新電力として再エネ電源を促進し、供給を増やしていくという展開は想定されていない可能性が高い。また地域の活性化や雇用については、新電力事業のサポートを行う民間事業者が受給管理などを行う場合も多く、必ずしも地域活性化や雇用に結びついていないケースも散見される。また、「自治体内の民間事業者・住民への安価な電気の供給につながるから」(33%)という項目よりも、公共施設の電気料金の低減の方が高い回答割合を示している。これは、現時点では地域内の電力消費者への電力小売りを実施している自治体新電力が少なく、廃棄物発電や自治体所有の太陽光発電を中心に公共施設の電気代削減を狙う事例が多いことの証左となっている。先行するドイツのシュタットベルケ(都市エネルギー公社)はバーチャルパワープラントなどの新たな事業モデルにも積極的に取り組んでおり、それ自体は大いに参考になるが、制度的な違いを十分に考慮した上で取り入れる必要がある。多くの自治体新電力が参加して新たに設立された一般社団法人日本シュタットベルケネットワークのような団体がハブとなることで、今後の発展が期待される。

図2.18 自治体新電力の設立を進める理由(出所:全国市区町村再生可能エネルギー政策アンケート)

自治体新電力は地域の持続可能性を高めるための新しい自治体政策ツールとなりうる。再エネ電源の開発、調達した電気の販売、その収益による住民サービスの向上を結びつけることができ、今後も新たなビジネスモデルが開発されるであろう。さらに民間事業者との提携や自治体新電力同士の連携もバリエーションが広がり、新電力事業開始のハードルは大きく下がっている。だからこそ重要なのは、地域のために何を目指して自治体新電力を立ち上げるのかを明確にし、その方針を具体化するための検討を行うこと、ひいては自然エネルギーを自治体政策において戦略的に位置付けることである。

(ISEP 山下紀明)


[1] クールネット東京ウェブサイト「再生可能エネルギー由来FIT電気供給モデル事業」https://www.tokyo-co2down.jp/action/efforts-renewable/fit-2/index.html (2017年10月20日閲覧)

[2]一橋大学自然資源経済論プロジェクト・法政大学持続性学研究会・ISEP・朝日新聞社が全国市区町村再生可能エネルギー政策アンケート(1382団体が回答、回収率79%)