1.6 電力自由化と再エネ重視電力会社の選択 〜パワーシフトの現状と課題〜
2016年4月から始まった電力小売全面自由化。震災・原発事故を受けて決まった電力システム改革の一つのステップであり、市民・消費者にとって大きな変化である。1年半経って、どこまで進んだのか、何が課題なのか見ていきたい。
電力小売り全面自由化の進捗状況
2017年9月末時点で、低圧分野のスイッチング(旧一般電気事業者から新電力への切り替え)件数は、全国で約458万件、全体の7.3%となった。地域別には東京電力管内が10.5%、関西電力エリアが9.8%と高くなっている[1]。
ただ、切り替え先を見てみると、その上位はガス会社系や携帯電話会社系、石油会社系などの新電力が占めている。
一方販売電力量で見ると、新電力のシェア(低圧・高圧全体)は自由化前(2016年3月)の約5%から2017年8月時点で12.1%まで高まっている。これは、当初の想定(経済産業省は、2020年時点の新電力シェアを10%と仮定していた)よりは高いということができる。
再生可能エネルギー(FIT電気含む)を重視する新電力の登場と現状
電力自由化に伴い、環境・エネルギー政策の観点から注目されたのは、再生可能エネルギーを重視する新電力の登場と、消費者による選択である。
再生可能エネルギーを重視する新電力は、電力自由化開始当初は多くはなかったが、その後各地に続々と登場している。以下、その特徴により四つに分けて見ていく。
自治体系新電力
自治体が出資もしくは運営に関与する電力会社である。各地に誕生、さらに多くの自治体が検討を行っている。自治体の公共施設などへの供給を中心として一般家庭への供給を行うところはまだ少数だが、2015年に発足した中之条パワーやみやまスマートエネルギーに続き、将来的には住民への供給を視野に入れるところも多い。目指すところは再生可能エネルギーの地産地消であるが、域内を中心とした再エネ調達の確保が課題である。公共施設等での太陽光発電に加え、清掃工場の廃棄物バイオマス発電や域内の水力発電、連携する他自治体の協力を得られるか、などがカギとなっている。また、地域の高齢者の見守りサービスや子育て支援、社会福祉など、地域の課題解決と結び付けやすいことが特徴である。
民間事業者による地域新電力
地域のガス会社や再エネ事業者など民間会社が既存顧客のつながりも活かして運営する地域新電力。地域活性化や地域の再エネ利用を掲げている場合が多い。ガス会社等が将来を見据えた経営の多角化のための新電力事業も開始する場合や、再エネの設備等を扱う会社が新電力事業を開始する場合等がある。自治体の公共施設への供給など、自治体系新電力に近い形で自治体と連携する場合も多い。
生協系新電力
生活協同組合が運営する新電力。消費者が組合員として出資運営する生協組織では、食の安全を確保するために共同購入を実施する中で、環境やエネルギー問題についても、運動として取り組まれてきた。電気についても原子力や化石燃料ではなく自然エネルギーを中心とした電気の共同購入は自然の流れであり、各地の生協が次々と電力販売を開始している。事業所の屋根の太陽光発電や組合員の出資による自然エネルギーなどを調達・販売する場合が多い。販売対象は組合員のみである。
再エネ事業者等による地域横断的新電力
再エネ事業者等の民間会社による地域横断的な新電力。再エネ設備事業などによる既存の地域横断的な、もしくは全国的なつながりをベースとしている場合が多い。比較的規模の大きい会社やベンチャーとして成長している会社などがあり、再エネ比率やサービス、広報宣伝、独自の環境取り組みなどで独自色を打ち出している。
再エネを重視する新電力を評価するポイント
再エネ重視を打ち出す新電力は多数あるが、それらを比較評価するうえで重視するポイントがある。
電源構成などの情報開示
電源構成などの透明でわかりやすい情報開示は、「環境にやさしい」電気を選びたい消費者にとって前提となる重要事項である。電力自由化に向けた制度設計にあたって、多数の消費者団体や環境団体も、電源構成開示を義務化すべきと訴えてきた。
ところが現在、再エネや地産地消を掲げる電力会社の中にも、電源構成情報が未開示もしくは開示しない方針であるところも少なくない。電力会社の積極的開示を求めるため、消費者からの声も引き続き重要である。
石炭火力や原子力の調達に関する方針
大手商社やガス会社、石油会社等で、再エネの開発や調達に積極的な一方、石炭火力発電の開発や調達にも関わっている場合もある。ベースロード電源市場や非化石価値取引市場を通じて原子力の調達も視野に入れている場合もある。現在調達している再エネ(FIT 電気含む)の割合だけでなく、総合的に判断する必要がある。
調達する再エネの持続可能性
FIT 制度により近年、パーム油バイオマス発電やパーム椰子殻(PKS)発電、輸入の木質バイオマス発電など、持続可能とは言えないバイオマス発電の認定が急増している課題がある 。また一部、山林を開発するような大規模なメガソーラー発電も問題となっている。「再エネを重視する新電力」といっても、これらのような再エネが中心となっていないか、注意が必要である。
このように、まずは電源構成などの情報開示を前提としたうえで、その数字だけで判断するのではなく、電力会社の中長期的なビジョンや再エネ調達方針などを確認する必要がある。
再エネを重視する新電力会社が抱える課題
再エネを重視する新電力は各地に立ち上がっているが、多くの課題を抱えていることも事実である。
一つは再エネ調達の壁である。日本で再エネの設備容量はようやく増えてきたもののまだ全体の約8%(2016年度、大型水力を除く)である。しかもそのほとんどを旧一般電気事業者が持っているため、再エネ新電力の多くが調達に大変苦労しているのが実情である。連携による共同調達や自治体の再エネ電源の調達、新規開発などに取り組んでいるが、容易ではない。
もう一つは、顧客獲得の壁である。資本力の差により大々的な広告宣伝ができず、価格競争では大手にかなわない中、どう差別化するか。再エネを重視する顧客に出会うのは、通常は容易ではないため、消費者や環境団体などが再エネ新電力を応援したり、情報共有の場を作ったりしていくことが引き続き欠かせない。
2015年3月に環境団体・消費者団体のネットワークでスタートしたパワーシフト・キャンペーンでは、再エネを重視する電力会社を可視化し、消費者の選択を促すことを目指し、活動を続けている[2]。
2017年11月現在24社の電力会社を紹介し、各電力会社の特徴やインタビュー記事をウェブサイトで公開している。消費者の関心は比較的高く、各地で関連したセミナーや勉強会が開かれている。趣旨に賛同する企業も複数あり、2017年度は「パワーシフトした企業・事業所」の促進と可視化に注力し、交流会等を開催している。このような市民、事業者による連携した取り組みが重要である。
電力自由化の負の側面
電力自由化が再エネの拡大につながるかと言えば、必ずしもそうではない。競争が生まれることで、各社とも「少しでも安く」販売しようとし、そのために安価な電源を求める。電力システム改革、電力自由化の議論が始まった2012年以降、燃料費が安いとされる石炭火力発電の新規建設計画が相次いでいる。2017年10月現在、46基(うち4基はすでに稼働)、原発約20基分(約2,000万kW)にも相当する計画が日本全国にひしめいている 。石炭火力発電は、SOx、NOxや水銀、PM2.5の排出で大気汚染・健康影響が懸念される。また温室効果ガス排出も、「高効率」と言われるものでも天然ガスの約2倍である。仮に日本で40基以上の石炭火力発電所がこれから建設されるとすれば、パリ協定の実現に世界が動く中、国際的にも先進国としての責任を放棄することとなってしまう。
電力業界は、「非化石電源」を活用し、発電1kWh当たりの温室効果ガスの排出を天然ガスレベルに抑えていくとしているが、この「非化石電源」には原子力が含まれる。この大義名分により、原子力の再稼働や40年超の運転も推進されようとしている。日本では石炭火力発電の新規建設と原子力とがセットで推進されるという構図が鮮明であり、世界の流れとは全く逆行している。
消費者の「安さ」の選択が、こうした流れを後押ししてしまう恐れがある。だからこそ、安さではなく再エネや地域を重視するビジョンで選ぶ消費者の姿勢が重要であり、そのような選択を広げていく必要がある。
(国際環境NGO FoE Japan 吉田明子)
[1] 総合資源エネルギー調査会、電力・ガス基本政策小委員会(第6回)資料3-1「電力小売全面自由化の進捗状況」