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「原発救済策」6つの大罪〜反民主主義・無責任・反原則・自己矛盾・過誤の上塗り・不正義(プレスリリース)

当研究所は、国(経済産業省)が、今、どろ縄的かつ乱暴に進めている「原発救済策」に反対します。本件は、仮に「原発を支持するかどうか」という論点を切り離したとしても、「誰が負担するか」という問題もさることながら、より根源的・本質的な問題を孕んでいることに対する批判であり、当研究所はとうてい同意できません。その「より根源的・本質的な問題」を「6つ大罪」と呼び、以下、その要点と背景を説明します。(本文PDFはこちら

6つの大罪

 1.民主主義に反すること
 2.無責任であること
 3.資本主義や市場の原則に反していること
 4.自己矛盾していること
 5.過去の過ちを未来に上塗りしようとしていること
 6.不正義であること

大罪その1:民主主義に反すること

現在、議論が進められつつある「原発救済策」は、以下の表のような論点毎にバラバラに議論されており、ほとんどの国民にとっては、何がどこで議論されているのか理解できません。むしろ国が、意図的に国民が理解できにくいように論点を細切れにして、バラバラに議論しているようにさえ見えます。しかも、あれだけ国民に甚大な影響を与えた東京電力に関する議論については、あろうことか非公開で行われています。

表:原発救済・延命策の全体像

委員会名 論点 効果
東電委員会 事故炉廃炉費用 東電救済
損害賠償費用 東電を含む原子力事業者保護
貫徹小委 財務WG 一般廃炉関連費用(減価償却費、引当金)
市場整備WG 原子力のための市場創設(「ベースロード電源市場」「非化石価値取引市場」
原子力損害賠償制度専門部会 将来の事故費用:損害賠償の有限責任化

出所:大島堅一立命館大学教授による第61回 国会エネルギー調査会(準備会)「原発事故費用は誰が負担するのか」(2016年11月17日)の資料より

当研究所は、こうした議論の進め方そのものが、今後の国民負担を議論する枠組みとして、そもそも民主主義の基本原則に反していると考えます。具体的には、東京電力福島第一原発事故を筆頭に国民にもたらした影響の甚大さに加えて、あまりにも拙速・泥縄的・乱暴であること、委員構成の適正さへの疑問、事務局を務める経済産業省への国民不信、非公開で行われることの不当性などです。本来であれば、全体として統合的・総合的に、また誠実に国民にさまざまな選択肢を提示し、熟議を重ねて議論すべきであると考えます。

大罪その2:無責任であること

当研究所は、東京電力福島第一原発事故の深刻さから考えて、現状の推計値20兆円超ではとうてい収まらず、最終的には国民負担は避けられないと考えています。したがって、国民負担の是非だけを取り上げて批判するものではありません。しかし問題の本質の一つは、国民負担を議論する前に「負担の責任順位」が議論すらされていないことだと考えます。負担の責任順位は、資本主義や市場の原則に照らして、明らかに以下の順位になるはずですが、責任順位の重い最初の3つが見過ごされています。

  • 最優先責任  東京電力の自己資産・経営者・管理職・社員
  • 第2責任順位 株主
  • 第3責任順位 銀行債券
  • 第4責任順位 東京電力の電力料金(託送料金ではなく)
  • 第5責任順位 国民負担(税金等)

なお、2013年の電気料金制度の改悪によって、すでに東京電力福島第一原発事故処理費用は「廃炉」という名のもとで、電気料金に負担が転嫁されていることを指摘しておきます。

大罪その3:資本主義や市場の原則に反していること

当研究所は、今回の措置は、いくつもの原則に反していると考えます。

第1に、今回の措置を認めてしまえば、今日の日本社会・日本経済が依って立つ資本主義の原則・市場の原則を根底から否定することになると考えます。

第2に、会計原則に反しています。もともと、原子力損害賠償・廃炉等支援機構による東京電量への支援(交付金)や廃炉原発の減価償却費用化を認めた2013年の電気料金制度改悪が会計原則に反したものであった上に、今回は、それをさらに歪めようとしています。

第3に、送電部門の費用ではない事実上の「原発補助金」(事故炉廃炉費用や廃炉の)を託送料金(送電費用)から徴収することは電気料金原価としても会計ルールとしても、明らかに逸脱しています。本来、国民負担を議論するのであれば国会で審議する「税」による徴収を検討すべきところを、託送料金では国会のチェック機能が働かず、経費も不透明で膨張はさけられない。事実上、所管官庁の経産省にとって「取りやすいところから取る」かたちで、託送料金を都合良く「目的税化」しているように見えます。

大罪その4:自己矛盾していること

全般的に論理が自己矛盾しています。国も電力会社も「原発は安いベースロード電源」と位置づけて一定比率の原発電源の維持を目指す一方で、こうしたかたちで「原発補助金」を設けることは、明らかな自己矛盾と言えます。

原発が事故リスクを含めても「安いベースロード電源」であるのなら、原発事故の負担をすべて保険でカバーするなどを含めて、すべて自己責任による負担の構図を検討することが妥当でしょう。そうしたリスクとコストを国民負担しなければ維持できない電源なのであれば、国は「安いベースロード電源」としての位置づけを撤回し、原発に代わる再生可能エネルギーを軸とするエネルギー計画に見直した上で、「過去の残債」についての国民負担を率直に求めていくべきと考えます。

大罪その5:過去の過ちを未来に上塗りしようとしていること

そもそも問題の原点は、本来、破たんさせるべきであった東京電力の破たんを回避した2011年に遡ると考えています。これは、当時の民主党政権による歴史的な過誤であるとはいえ、国家的な未曾有の危機の大混乱の中で、松永和夫経産省事務次官(当時)と勝俣恒久東京電力会長(当時)が東電破たん回避の「密約」を交わし、しかも国家的な未曾有の危機の最中でありながら菅直人政権(当時)が退陣に詰め寄られていたという状況の中では、当時の「誤った判断」は1万歩譲って目をつぶらざるを得ないかもしれません。

しかし、現在は違います。東京電力を破たんさせても、停電がおきることは考えられませんし、東京電力福島第一原発事故の処理を進める体制も維持することは問題なくできるはずです。むしろ、この「過去の過ち」を固着し拡大することで、福島第一原発事故の処理はますます見通しが立たたない上に、日本の電力市場の方も現状の「東京電力」という歪んだ存在によって、未来永劫、歪んだままとなることは避けられません。東京電力は、本来、電力自由化市場でフェアに競争すべきなのに、実態は国の資金(交付国債等)という「生命維持装置」を付けられていて、けっして倒産しないし、国も今の構造のままでは東京電力を破たんさせることもできません。今後、事故処理や損害賠償費用などがいくら膨れあがっても、交付国債や託送料金でそれを充当することができるため、今の構図のままでは、今後、過去の過ちが未来に向けてますます大きな歪みとなることは避けられません。

大罪その6:不正義であること

最後に、もっとも重大な「大罪」は、現在検討されている「原発救済策」が社会的な不正義であるということだと考えます。そもそも責任を負うべき人が負っていないどころか、今もなお権限を振るうという、不正義がまかり通っています。刑事責任や民事(賠償)責任は別としても、せめて結果責任として、経営責任と政治責任と政策責任のある人々は、経営陣や公職から追放されるべきであると考えます。さもなければ、過ちは拡大再生産されることは必定です。

現状のように「誰も責任を取っていない」まま、本来責任を取るべき人たちによって、以上に述べてきた「大罪」を内包するかたちで国民負担が押しつけようとしていることは、重大なモラルハザードに他なりません。

日本社会を「社会」として維持・発展させていく上でも、こうした不正義やモラルハザードは、けっして容認してはならないと考えます。

問題の背景と解説

1. 東電救済策の問題点

2011年3月11日の東日本大震災により発生した東京電力福島第一原発事故から5年が経ち、すでに東京電力が負担すべき福島第一原発の損害賠償費用およびメルトダウンした事故炉の廃止費用などは合わせて約15兆円にまで膨らんでおり、その金額はさらに20兆円を超えると想定されている。本来は東京電力が全ての損害を賠償すべきところを、一時的に国債による資金を投入して原子力損害賠償・廃炉等支援機構による支援(交付金)でまかなってきたが、それも限界を迎えていることが明らかになった。損害賠償費用はすでに6兆円を超えてさらに増え、福島第一原発の廃止費用は東京電力が当初想定した2兆円から大きく膨らむ見込みである。

非公開で開催されている「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)では、これらの費用増大に対応して実質上すでに破綻をしている東京電力を存続させるためのさらなる救済策のみが検討され、福島第一原発事故の本来の責任を東京電力や国に問わないままに、その費用負担を電力消費者のみに負わせようとしている。

2. 原子力損害賠償制度の問題点

さらに、原子力損害賠償・廃炉等支援機構に対して全ての原子力事業者が一般負担金(2015年度は約1600億円)を共済方式で収めているが、これは新たな原発事故の損害賠償の「保険」という位置付けだったはずである。本来、東京電力が負担すべき福島第一原発の損害賠償費用は、東電による「特別負担金」で回収されるはずだが、一向に進んでいない。この「過去分」の損害賠償費用の一部を全原子力事業者の一般負担金(電気料金に含まれる)として回収するだけではなく、全ての小売電気事業者が負担する送配電の費用である託送料金にも上乗せして回収しようとしている。これらの電力料金や託送料金で回収しようとしている損害賠償費用などは20兆円を超える膨大な金額になり、もはや原発の電気は「安価」ではないことは明白である。

3. 電力自由化の下での原発救済策の問題点

国のエネルギー政策が大きく見直され、電力システム改革が進む中、2016年4月から電力小売全面自由化がスタートした。これまで国策民営として国の原発推進政策と共に大手電力会社において原発の導入が推進され、様々な補助金に加えて電力自由化前の規制料金制度のもと電気料金などで原発関連費用を回収して維持されてきた。しかし、電力自由化後は2020年までに電気料金としての規制料金制度は撤廃され、送配電の費用を回収する託送料金のみが規制料金制度の対象として残ることになる。この託送料金(送配電費用)は、原発を抱えている大手電力会社(原子力事業者)だけではなく、新たに参入した新電力を含む全ての電力会社の消費者が負担をするため、高い透明性と公平性が求められる。

それにも拘わらず、本来、原子力事業者だけが負担すべき廃炉費用だけではなく、東京電力が負担すべき福島第一原発事故の莫大な損害賠償費用や事故炉の廃止費用までをもこの託送料金に上乗せして回収しようとしている。これまで原子力事業者が規制料金制度のもとで電気料金により回収してきた廃炉費用や損害賠償費用の一部(一般負担金)など様々な原発関連費用をこの託送料金で回収する検討が経産省の「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」(貫徹委員会)の財務会計ワーキンググループ(WG)で進められてきている。そもそも事故炉(福島第一原発)の廃炉(事故収束廃止)費用に通常炉と同じ廃炉会計を適用して償却したり、福島第一原発事故の損害賠償費用を過去に遡って託送料金制度の活用によって費用回収はすべきではないことは明らかである。もちろん、通常の原発の廃炉費用の引き当て不足額の回収や、廃炉時の一括償却回避措置分の費用回収も託送料金制度を活用すべきではない。

4. 電力市場での原発救済策の問題点

一方、貫徹委員会の市場整備WGでは、自由化後の市場メカニズムの最大限の活用として「ベースロード電源市場」や「非化石価値取引市場」などで原発の維持を前提とした検討が行われている。ベースロード電源市場では、競争活性化のための制度として新たに参入した新電力に対して、見かけ上だけ「安価」な原発や石炭からの電気の調達を可能としようとしているが、その前提条件として原発関連費用の託送料金への上乗せが検討されている。

さらに非化石価値取引市場は、自然エネルギーおよび原発を合わせて非化石電源と位置づけて、その価値のみを市場で取引しようとする制度で、原発についての様々な問題やリスクを棚上げしてCO2削減価値のみに注目しようとしている。いまや原発の電気はコストやリスクがもっとも高く、市場性は無いと言えるが、実際に2015年度の原発の発電量比率は1%未満に留まる。よって、非化石価値取引市場において原発の電気は扱うべきではなく、自然エネルギー(FIT電気および非FIT電気を含む)の環境価値の扱いのみを明確にすべきである。容量市場における容量メカニズムによる調整用電源および既存電源の維持は、自然エネルギーの普及に沿った形で行われるべきであり、決して安易な既存電源(化石燃料による火力発電など)の維持の口実にしてはならない。

参考情報

(1) 電力システム改革貫徹のための政策小委員会

http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/18.html#denryoku_system_kaikaku

(2) 東京電力改革・1F問題委員会

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment.html#touden_1f

(3) 国会エネルギー調査会(準備会): 第59回「正当性なき原子力延命策を問う」(2016年10月18日) 、第60回「原発の後始末費用は誰の負担か?」(2016年11月1日)、第61回「原発事故費用は誰が負担するのか」(2016年11月17日) – https://www.isep.or.jp/library/5024