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固定価格買取制度:平成28年度の買取価格および制度改善への提言

当研究所は、固定価格買取制度(FIT制度)の平成28年度の買取価格および制度改善について、下記の提言をパブリックコメントへの意見として2016年3月7日に提出をしました。

提言のポイント

  1. 事業用の太陽光発電の買取価格はきめ細かく規模別に設定し、地域主体の取り組みに支援をすべき
  2. バイオマス発電の買取価格は燃料種別や設備規模、燃料の持続可能性や熱供給の有無などを考慮してきめ細かい制度を設けるべき
  3. 風力、地熱、中小水力発電は実態を踏まえた買取価格の設定と適切な支援をすべき
  4. 設備認定や運転開始をした発電設備やコストデータの情報公開を徹底すべき
  5. 10kW未満の住宅用の太陽光発電も全量買取に移行すべき

まさに5年前の東日本大震災と福島第一原発事故がおきた2011年3月11日の午前中に法案が閣議決定され、2012年7月1日に施行された固定価格買取制度(以下、FIT制度という)が、運用開始から4年目を迎え、太陽光を中心とした自然エネルギーの急速な普及と共に多くの課題が見えて来た。2015年10月までの設備認定(移行認定含まず)は8500万kW以上に達しているが、そのうち93%を太陽光発電が占めている。実際に運転を開始している設備は2400万kW以上で設備認定の約29%となっている(移行認定を含まず。2015年10月末。図1参照)。その状況の中で、制度開始から5年目となる平成28年度の調達価格等の見直しの検討のため、調達価格等算定委員会が2016年1月からスタートし、わずか3回の審議を経て本年2月22日に「平成28年度調達価格及び調達期間に関する意見」を公表した。その後、わずか13日間という非常に短い期間のパブコメを経て、平成28年度の買取価格が決定される。ISEPではこれまでもFIT制度を取り巻く様々な課題を踏まえ、FIT制度を含めた自然エネルギー政策への様々な提言をしてきており、国会で審議されているFIT制度の見直し法案に関連する提言も本年1月に行っている。そこで、平成28年度の買取価格および今後の自然エネルギー普及政策に対して以下の提言をする。

図1図1:FIT制度による設備認定の推移および導入量(2015年10月末)
資源エネルギー庁のデータよりISEP作成

平成28年度の買取価格への提言

(1) 太陽光発電の買取価格はきめ細かく規模別に設定し、地域主体の取り組みに支援をすべき

10kW以上の非住宅用太陽光では、出力規模により発電のコスト構造が明らかに異なるため、新たな調達価格の区分を制度開始当初から設けるべきだった。未稼働案件への対応で、FIT制度の見直し法案の中で入札制度の導入などが検討されているが、規模別の買取価格の設定や予見可能な価格設定などFIT制度の改良を検討すべきである。さらに今後は、地域毎の実態を把握・情報を公開すると共に、電力系統の容量に対して大きな影響を及ぼす大規模な設備について特に精査をする必要がある。その一方で、1000kW未満の地域分散型の小規模な設備に対して現状の課題を把握し、地域主体の取り組みについては買取価格以外にも各種の手続きや人材育成、資金調達など十分な支援を行うべきである。

10kW以上の非住宅用太陽光については、その出力規模により異なるシステム費用となっていることが運転開始設備のデータからすでに明確になっている。平成27年度Q3(10-12月期)は1000kW以上のシステム平均価格が下げ止まり、50kW未満のシステム費用との差が5万円以下に縮まったとされる (図2)。このシステム費用の平均価格の差は、2年前の平成24年度Q3には、約15万円もあったため本来は平成25年度調達価格の決定の段階での見直しが必要だったことになる。これらのシステム費用のデータは、その分布が委員会資料として公開されているが、費用データそのものを情報公開すべきである。

図2図2:非住宅用太陽光発電のシステム価格の推移
出典:調達価格等算定委員会のデータよりISEP作成

すでに1000kW以上のメガソーラーと呼ばれる大規模な太陽光の設備認定が4100万kW以上に達しており、低圧連系の50kW未満の設備認定も2600万kW近くあるが、高圧連系の50kW以上1000kW未満の設備認定は860万kWしかなく、大きな偏りを見せている(図3、2015年10月末現在)。出力50kW以上の高圧連系の設備では設備規模が大きいほど事業性が高いことが原因として考えられる。一方、1000kW以上のメガソーラーで認定された設備のうち約18%しか運転を開始していないが、系統接続に関する様々な制約が未稼働の要因となっている可能性がある。50kW未満の低圧連系の設備についても30%程度しか運転を開始しておらず、地域が主体となった小規模な発電事業者についても様々な課題を抱えていることが考えられる。

図3図3:太陽光の設備認定と運転開始状況(2015年10月末現在)
出典:資源エネルギー庁データよりISEP作成

(2) バイオマス発電の買取価格は燃料種別や設備規模、燃料の持続可能性や熱供給の有無などを考慮してきめ細かい制度を設けるべき

使用する燃料の種別やコストが大きく影響するバイオマス発電については、規模や燃料種別等によるきめ細かい条件を定め、それごとに認定条件や買取価格の設定が必要である。特に、木質バイオマスについては、設備費用や燃料調達コストを含む運転費用などを踏まえた上で、発電規模の上限(例えば2万kW程度)を設定とすることや、燃料調達のトレーサビリティやその持続可能性を把握すると共に、発電規模に応じた調達価格を定めるべきである。特に一般木材が対象としている輸入材については、EUやISOの固体バイオマスに対する持続可能性基準なども参考に、認定や調達時の基準を設定すべきである。

平成27年度の買取価格において地域の森林資源を適切に活用できる2000kW未満の中小規模の木質バイオマス発電について新たな調達区分を設けたことは評価できる。しかし、比較的コストが低く、事業採算性の高い大規模な石炭混焼発電については、FIT制度の対象外とするか、新たな区分を設け、そのコストを反映した調達価格を定めるべきである。さらに、単なる燃料種別や規模別の買取価格の設定だけではなく、熱電併給や最終的に燃料となる木材のカスケード利用を推奨し、支援する制度を拡充する必要もある。

全国で、木質バイオマス発電の計画が設備認定ベースで全国で120件以上あり、その設備容量は230万kWを超えている(バイオマス比率を考慮)。特に全国的に一般木質による設備認定が増加しており、国内での原料調達の制約から輸入材の急増が懸念され、その持続可能性に関する基準作りが急務である (図4)。未利用木質についても、すでに地域によっては燃料の安定供給に対する懸念が生じており、木質バイオマス資源の特性から、地域の森林資源の活用が前提となることため、大量の燃料を必要とする大規模な設備に対しては、一定の制限が必要である。

図4図4:バイオマス発電の設備認定の状況(2015年10月末)
出典:資源エネルギー庁データよりISEP作成

 (3) 風力、地熱、中小水力は実態を踏まえた買取価格の設定と適切な支援をすべき

風力発電について、平成28年度の買取価格は導入状況に配慮し、地熱や中小水力と共に、そのまま維持されることになったことは一定の評価ができる。しかし、実際の導入があまり進まない中で、システム費用は未だ買取価格を算定する際の想定を上回る状況が続いており、将来に渡り予見可能な買取価格の設定が引き続き求められている。さらに、風況や電力系統への接続制約などの立地条件や環境アセスメントなど調達価格以外の事業へのハードルが高い。指定電気事業者の指定を受けた電力会社毎に「接続可能量」が設定され、それを超えた風力発電設備については無制限・無保証の出力抑制が求められているが、この様な「接続可能量」を定める制度を廃止し、出力抑制分を補償するなど制度の見直しが必要である。さらに、電力系統への接続費用についても、全て発電事業者の負担としている制度を見直し、電力システム改革の中で、他の再生可能エネルギーを含めてできるだけ一般送配電事業者による「一般負担」とし、再生可能エネルギーの本格的な導入に対応できる電力系統の整備を進める必要がある。

風力発電への環境アセスメント(法アセス)の審査手続きが700万kW以上に達しているが、風力発電の設備認定が2015年10月末で230万kWに達したものの、実際の運転開始は設備認定の約17%に相当する38万kW程度に留まっている(国内の累積導入量は2015年末でようやく300万kWに達した)。風力発電の設備認定や運転開始のペースは環境アセスメントなどの準備期間の長さにより太陽光発電に比べるとまだまだ遅い状況であるため、環境アセスメント手続きの期間短縮や対象規模の見直し、アセス情報の共有化、ゾーニングの制度化などを行う必要がある。

地熱発電の設備認定は2015年10月末で7万kW程度に留まる。地熱発電については、調達価格が比較的高く定められており、特に1.5万kW未満は各地で数千kW規模のバイナリ―方式を含む比較的小型の発電設備の事業化計画が前に進む一方で、本格的な数万kW規模の地熱発電設備については、資源調査から環境アセスメントまで非常に長期に渡る調査や手続きが必要となり、運転開始までには10年程度かかるとも言われており、事業化のための調査への支援や環境アセスメントの手続期間の短縮化などをさらに進める必要がある。

小水力発電については、2015年10月末時点の設備認定が約71万kWに達し、件数も450件を超えているが、運転開始は約12万kWと18%程度に留まっている。特に1000kW未満の小規模な水力発電については、工事費を含む初期のシステム費用が想定よりも高くなっており、適正な買取価格の設定と共に、事業化に必要な調査や資金調達などの面でさらに支援が必要である。

(4) 設備認定や運転開始をした発電設備やコストデータの情報公開を徹底すべき

認定設備や運転開始設備の一覧等も定期的(4半期に一回程度)に公開するべきである。RPSから本制度への移行した設備も含め、事業者のノウハウを活かしつつ、新たな設備導入へのインセンティブを生み出す仕組みとするためにも、既存設備を認定する際には、今後の新規事業の参考にもなるように、これまでの運転データ(発電量など)を蓄積してできるだけ公開する必要がある。2014年4月末時点から市町村別の設備認定および運転開始状況を公表していることや、自治体に対しての情報開示の方向性は評価できるが、これまで設備認定された設備については、該当する市町村だけではなく、必要に応じて発電事業者や研究者が実績データを活用できる仕組み(データベース)を作るべきである。さらに設備認定や運転開始状況、運転データ(発電量)などを集計して、できるだけ詳細な統計データを整備して公開すべきである。

FIT制度に関するデータは、2014年4月末時点から市町村別の設備認定および運転開始の状況が公表されるようになったが、多くの国民が費用負担を含めて関わりを持つ制度として情報公開の課題は多い。さらに再生可能エネルギーの統計データは、これまで系統的に整備されておらず、ドイツのAGEE-statの様な体制整備が必要である。

発電事業者や電力会社(系統運用者)、制度運用者の予見性を高め、適切な制度運用をおこなうため、特に太陽光の普及に伴う導入コストの低減に伴い、原則年度毎に設定される新規の発電設備に対する調達価格を、予見性をもって低減していく必要がある。予め翌年度の調達価格の逓減率を定める方法が望ましいが、予見が可能な様にコストデータなどを積極的に集計し、情報公開すべき。そのためには、調達区分や調達価格を定めるその際のコストデータを着実に集積し、できるだけ頻繁に公表(ホームページ等)・活用する仕組み(データベース等)を整えるべきである。さらに設備認定や運転開始に伴うコストデータだけではく、それ以外の市場データについても集計・分析を行う仕組みを整備する必要がある。

(5) 10kW未満の住宅用の太陽光発電も全量買取に移行すべき

住宅用の太陽光発電(出力10kW未満)については、2015年10月末までの導入量が360万kW(移行認定分を含めて830万kW)と、事業用と比べて低い導入ペースに留まっている。現状の余剰電力の買取制度を継続することがこれまでの経緯に配慮した形としてスタートした。しかし、実際に10kW以上の非住宅用の急速な導入増加に比べ、10kW未満の住宅用についてはFIT制度開始前のペースでの導入に留まっているのが現状である。導入を加速するには10kW未満の住宅用の太陽光発電も全量買取に移行すべきである。

自然エネルギーの本格的導入に向けたFIT制度見直しへの提言

自然エネルギーの導入量について、2012年の固定価格買取制度のスタート以来、太陽光発電を中心に導入量が増加しているが2014年度でも全発電量に占める割合は12.5%程度であり、太陽光と風力を合わせても3%に満たない。総合資源エネルギー調査会の「再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会」で検討されたFIT制度を含めた自然エネルギー導入促進のための制度改革では、経産省が2015年7月に決定したエネルギーミックスを前提とした自然エネルギー導入の仕組み、国民負担抑制の観点からの効率的な導入の仕組みや電力システム改革での効率的な電力取引・流通の実現などが論点となった。この小委員会が2015年12月に公表した報告書に基づき閣議決定されたFIT制度の見直し法案が国会で審議されている。環境エネルギー政策研究所(ISEP)は、この報告書案に対して2016年1月に意見を表明すると共に、自然エネルギーの本格的導入を実現するための方策を以下のとおり提言している[1]

  1. 地域エネルギー事業を潰す入札制度に強く反対しFIT改良で「コスト効率化」を提案する
  2. パリ協定の実現を目指す、自然エネルギー導入のより高い導入目標値を目指すべき
  3. 認定制度の見直しと未稼働案件への対応はきめ細かく行うべき
  4. FIT制度の買取義務者の制度変更は慎重に行うべき
  5. 自然エネルギーの電力系統への「優先接続」ルールを確立すべき

太陽光発電の「接続可能量」の算定とそれに基づく出力制御(抑制)ルールについては、これまでの設備認定や系統接続に対して電力会社や政府が十分な対応をしてこなかった結果の現れであり、すでに設定されていた風力発電の「接続可能量」と同様に、今後の本格的な自然エネルギーの導入にブレーキをかける可能性が高い。自然エネルギーの本格的導入を実現するための方策を以下の14項目を2015年1月に提言している[2]

①      自然エネルギー導入を最優先とするべき

②      自然エネルギー導入の野心的な目標値を設定すべき

③      徹底的な透明性と説明責任を求める

④      そもそも「接続可能量」は撤廃すべき

⑤      太陽光発電の「接続可能量」の算定方法に関する問題

⑥      太陽光発電・風力発電の出力制御(抑制)が最小限にすべき

⑦      地域型バイオマス発電の出力制御は不要とすべき

⑧      遠隔出力制御システムの導入義務づけは段階的かつ慎重に行うべき

⑨      接続枠の空押さえの防止では、中小規模の発電事業者への考慮が必要

⑩      接続可能量を前提とした「指定電気事業者制度」は撤廃すべき

⑪      変更認定の対象拡大や買取価格関係の運用見直しはきめ細かく行うべき

⑫      福島および東北地方への特別な対応と共に地域主導型自然エネルギー事業を支援すべき

⑬      系統接続費用の負担原則を「シャロー接続方式」(送電部門負担)に転換すべき

⑭      今後の導入拡大策のロードマップを明確にすべき

[1] ISEP提言「固定価格買取制度の運用見直し等に対する意見と提言」 https://www.isep.or.jp/library/7159

[2] ISEP提言「地域エネルギーを潰す入札制度ではなくFIT改良で「コスト効率化」を目指せ」https://www.isep.or.jp/library/8930