【プレスリリース】「エネルギーミックス」への政策提言「歴史的な流れに従ったエネルギー大転換を」
2015年4月28日
「エネルギーミックス」への政策提言
歴史的な流れに従ったエネルギー大転換を
2015年4月28日
認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)
■プレスリリース本文:PDF
総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会では、2030年のエネルギーミックスとして、「ベースロード電源」比率を6割以上とする案のほか、原発を2割以上維持しつつ自然エネルギーを24%未満に抑え込む事務局案が示されている。この事務局案は、福島第一原発事故の教訓からいっさい学んでないばかりか、グローバルに進みつつあるエネルギーの歴史的な大転換に対して完全に逆行している。
3.11直後から「エネルギーシフト」の国論をリードしてきた当研究所として、日本が目指すべきエネルギーシフトの方向性をあらためて提言する。
【要旨】
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(1) 自然エネルギー・エネルギー効率化・地域主導を「三本柱」とすべき
グローバルに進みつつあるエネルギーの歴史的な大転換の「3本柱」は、第1に人類史「第4の革命」と呼ばれる自然エネルギーの飛躍的成長であり、第2に環境・エネルギー・経済のトリプル・デカップリング(切り離し戦略)を実現しつつあるエネルギー効率化であり、そして第3に大規模集中独占型から地域主導・分散ネットワーク型へのパラダイムシフトである。
(2) 省エネ・効率化の深掘りとトリプル・デカップリング(切り離し戦略)を
3.11後の節電・省エネルギーの実績を踏まえた省エネルギー・エネルギー効率化のさらなる徹底が必要である。2011年以降、毎年夏の最大電力需要時の10%以上の節電を達成しており、年間の電力需要量も5%程度削減している[1]。こうした成功を踏まえ、今後は「経済成長にはエネルギー消費量の増大が避けられない」という「神話」(ドグマ)から脱却する必要がある。成熟社会の日本としては、環境・エネルギー・経済のトリプル・デカップリング(切り離し戦略)を目指すべきである。
- エネルギー成長と環境負荷のデカップリング
- 経済成長とエネルギー成長のデカップリング
- 「豊かさ」と経済成長のデカップリング
先行するドイツやデンマークなどの欧州各国では、1990年代以降、こうしたデカップリング(切り離し戦略)の傾向がはっきりと見て取れる。
(3) 自然エネルギーを基幹エネルギーに位置づけるべき
「純国産エネルギー」である自然エネルギーを基幹エネルギーに位置付け、発電量比率で2030年までに自然エネルギー50%とする導入目標を定めるべきである。省エネルギーにより2030年までに約3割の電力需要の削減を行うとともに、自然エネルギーの発電量を3500億kWh以上とすれば十分に可能な目標値である[2]。
この目標値を実現するためには、送電インフラ整備や規制改革など様々な課題を克服する必要があり、そのための新規投資を必要とする。しかし、さまざまな恩恵のある自然エネルギーの導入「コスト」は、持続可能な未来を実現するためにインフラ投資として欠かせないと捉えるべきであるだけでなく、長期的な視点に考えれば、もっとも安いエネルギー源である。
(4) 地域主導・分散ネットワーク型エネルギーへの大転換へ
世界全体で各地域のステークホルダーが関わる自然エネルギーによる地域主導・分散ネットワーク型エネルギー体制(ご当地エネルギー、コミュニティパワー)への大転換が進んでおり、日本でも会津電力(喜多方市)やほうとくエネルギー(小田原市)などそうした取り組みが全国各地で次々と広がってきている。それに伴って、コミュニティパワーとエネルギー自治の重要性[3]、地域の経済・雇用効果への大きな効果が期待されている。地方の創生のためにも、現状の集中独占型から地域主導・分散ネットワーク型への転換は避けて通れない。
(5) 「3.11福島第一原発事故」の教訓を踏まえた現実的な脱原発を
3.11福島第一原発事故の教訓を踏まえた原子力政策の根底からの見直しが大前提となる。原発を「重要なベースロード電源」と位置付けた国のエネルギー基本計画は、3.11以前の「原発神話」をそのまま復活させたものでしかない。
今なお混沌とした状況の続く福島第一原発事故の処理は、半永久的に続くおそれが大きい。また、事実上の倒産会社である東京電力も、今からでも破たん処理されるべきであり、経営者および規制当局の責任が追求されなければならない。さらに本来必要な水準の原子力損害賠償措置への見直しを踏まえれば、脱原発こそがもっとも経済的で現実的な選択肢であることは明らかである。
脱原発を前提に、廃炉や核のゴミ、実質的に破たんしている核燃料サイクルの後始末など原発が直面している難題に向き合って、国民的な対話で合意と改善を目指す必要がある。
(6) 気候変動問題への国際的な責任を果たすエネルギー転換を
省エネ余地の大きい多くのエネルギーを消費している産業部門や業務部門の省エネ対策を根本的に見直す必要がある。それにより2030年までには電力需要の3割削減(2010年比)を目指し、熱や燃料需要についても根本的な削減を目指す必要がある。加えて、自然エネルギーを電力需要の50%まで導入することで、温室効果ガス削減目標は40%以上(1990年比)を目指すべきである[4]。
また、世界全体で2度以下を目指す気候変動対策の努力を無視した、無責任な石炭火力建設ラッシュを緊急に差し止める必要がある。
(7) 国民参加の開かれた議論の場の必要性
エネルギーミックスを巡る国の提示の仕方は、国民を欺く詐欺的な方法が重ねられてきた。
そもそもエネルギー基本計画で示された「原発は重要なベースロード電源」自体が、3.11以前の「原発神話」(安全、安価、安定)をそのまま復活させたナンセンスなものであった[5]。さらに、原発比率をむき出しで議論することを避けるために、「ベースロード電源」という「包装紙」で原発を包み込んでその比率を定め、そこから逆算するかたちで一定比率の原発を維持が必要という論理を押し通そうとしている。なお、欧州などでは「ベースロード電源」という概念が消えつつあり、今回の「国の論理」が時代遅れといえる。また、2014年末の系統接続問題に端を発して定められた太陽光発電や風力発電の「接続可能量」は、自然エネルギーを封じ込めるための「トリック」である[6]。こうして振り返ると、国は不透明・不誠実な議論のプロセスを重ねてきており、国民参加や透明性ある議論とは対極にあり、今日の熟議民主主義の時代における政治や政府の姿勢とはかけ離れている。
エネルギーの選択は、国の専管事項でもなければ産業界の要望だけで決められるべきものでもない。地域分散型自然エネルギーが急速に進み、気候変動問題の大きなリスクに直面し、そして3.11福島第一原発事故を経験した私たち日本に住むすべての人々が参加し、議論し、合意を重ねて選び取るべきものである。
(8)ISEPが提言する「エネルギーミックス」(自然エネルギー100%を目指す)
2030年の目指すべき電源構成「エネルギーミックス」として、ISEPでは図のように2030年に電力需要(発電量)全体を3割削減(2010年比)した上で、自然エネルギーの発電量の割合を50%以上とするエネルギーシフトを提言する。さらに、2050年までには、電力需要(発電量)全体を50%以上削減(2010年比)し、自然エネルギー100%を目指すべきである。
[1] ISEPブリーフィングペーパー「九州も四国も関西も再稼動は要らない」(2014年5月) https://www.isep.or.jp/library/6330
[2] 環境省「平成26年度2050年再生可能エネルギー等分散型エネルギー普及可能性検証検討委託業務報告書」(2015年3月) http://www.env.go.jp/earth/report/h27-01/
[3] 全国ご当地エネルギー協会ホームページ http://www.communitypower.jp/
[4] CAN-Japan 「新しい日本の気候目標への提言(改訂)」(2015年3月) http://www.can-japan.org/advocacy/1795
[5] ISEPプレスリリース「エネルギー基本計画の「5つの大罪」~白紙撤回し、ゼロから出直せ~」(2014年4月) https://www.isep.or.jp/library/6159
[6] ISEP「固定価格買取制度の運用見直し等に対する意見と提言」(2015年1月) https://www.isep.or.jp/library/7159