【プレスリリース】エネパネ「IEA事務局長の日本の原発シナリオの問題点」
2011年11月28日
■ 概要
2011年11月16日、IEA(国際エネルギー機関)事務局長ファン・デル・フーフェン氏が、総合資源エネルギー調査会基本問題小委員会において、日本の見通しとして3つの原発シナリオを示した。環境NGOなどで構成するエネルギーシナリオ市民評価パネル(エネパネ)では、このシナリオを分析し、問題点を明らかにした。分析では、今回のシナリオが、産業革命前から気温上昇を2度にとどめる目標を確認したことは評価できるものの、福島原発の被災者、日本国民への配慮はうかがえず、気候変動の悪影響を訴えながら、原子力拡大を進めようとする内容で、日本で取り入れることはほぼ論外だと結論づけた。
■ IEA事務局長シナリオの問題概要
・IEA事務局長が示した「エネルギー基本計画」シナリオ、「新政策シナリオ」、「低原子力シナリオ」は、いずれも当面は原子力拡大を前提としている。福島原発事故をふまえ、日本におけるこれからの原発シナリオとして現実的な選択肢である「再稼働なし」「2020年頃の脱原発」、安全性をシビアに追及した限定的再稼働ケースといった想定は一つもない。
・各ケースの日本のCO2排出量見通しについては、2020年の日本のCO2排出量は90年の排出を上回る約11億トン、2035年には新政策シナリオが約9.2億トン、低原子力ケースが約9.7億トンになるとの試算で、IEA事務局長の試算は政権交代前の麻生政権時代の中期目標を根拠にしている可能性が高い。省エネや燃料転換、再生可能エネルギーの普及もほとんど進まないことを前提としている。
・低原子力ケースの日本の石炭・天然ガス輸入量・金額について、新政策シナリオと比較して、天然ガス需要が約2000万石油換算トン増加し、輸入額は140億ドル増加するとしている。しかし、この試算も、原発発電量が低下する際に、省エネ対策や再生可能エネルギー普及の積み増しをほとんどせずに火力発電に委ねている点で問題である。
・IEA事務局長のシナリオは、産業革命前から気温上昇を2度にとどめる目標を確認したことは評価できるが、(1)安全性の前提の欠如、(2)社会性・倫理性の欠如、(3)政策全面変更の検討の欠如、(4)実現可能性の検討の欠如、(5)原発による実際のCO2排出増減の検討の欠如、(6)経済性の検討の欠如、と問題点が多い。