EVバス・タクシー普及調査結果ブリーフィング 2023(研究報告)
2024年1月18日
当研究所は、電気自動車(EV)の普及拡大に向けた取り組みを推進していくための基礎的情報を整理するため、国内のEVバス・タクシーの普及実態調査をおこないました。今回の調査から、国内の導入事例はこの数年で増えつつあるものの、ほとんど進んでいないことが明らかになりました。
EVバス・タクシーに関する国内の取り組み
世界ではEV(電気自動車)の普及が加速しており、自家用車だけでなく公共交通である路線バスやタクシーのEV化も進みはじめている。
日本においては、国や各自治体によってEVバス・タクシーの導入加速事業が実施され、2023年には日本バス協会から「2030年までにEVバスを1万台導入する」という目標が示されるなど、EVバス・タクシー普及への注目が高まる一方で、その普及はほとんど進んでいないのが現状である。
EVバスの導入数は2021年度末時点で約24万台の全国のバス保有台数のうち149台であり普及率は0.1%以下となっている。また、EVタクシーの導入数は2022年度末時点で約24万台の全国タクシー保有台数のうち210台であり、普及率はバスとほぼ同様の0.1%程度となっている。
EVバス・タクシーの普及政策は、都市の交通計画など、さまざまな要因と密接に関係するため、ひとつの方法が他の国や地域で同じ効果を発揮するわけではなく、また、各国・各都市が現在進行形でさまざまな方法を試行する段階であり、ベストプラクティスが定まっているわけではない。
今後、乗用車のEV化と並行してEVバスの普及も進むことが予測される中で、補助金のみでの政策には限界があり、必然的に地域の文脈を踏まえた導入のあり方を模索する必要性が高まるだろう。電動モビリティへの転換の黎明期においては、そのような地域の試行錯誤をトラッキングし、個々の経験を公共的な知識として社会的に共有していくことが重要であり、そのためにも早い段階で基礎となる情報を整備していく必要がある。
以上のことから、当研究所では、国内の公共交通、特にEVバス・EVタクシーに関する基礎情報を整理することを目的として、それぞれの普及の実態調査をおこなった。
調査方法
今回の調査では、EVバス・タクシーの導入実態、支援事業について調査した。「電気バス」「EVバス」「電気自動車」「EVタクシー」や自治体名をキーワードとして組み合わせてインターネット検索し、Webページやインターネット記事の内容を整理した。調査は2023年11〜12月におこなった。なお、本調査は必ずしもすべての取り組みを網羅しているわけではありません。
調査結果
EVバスに関する調査結果
2023年12月時点において導入が確認された95事例(171台)を対象とし、導入の実態に関する調査をおこなった結果、国内のEVバスの導入状況は下記のような概要となった。
- 2010年代以降、リチウムイオン二次電池を使用したEVバスの導入が始まり、2012年からは国土交通省による「電気自動車による公共交通のグリーン化促進事業」の補助金等が活用されるなどして各地でEVバスの導入が進められてきた。しかし、2011〜2019年における年間の導入台数は0〜4事例と少ない。2020年代になり、2020年は9事例、2021年は11事例、2022年は10事例と若干の導入台数の増加が見られる。さらに2023年(11月時点)は49事例と前年までの導入台数と比較すると大幅に増加している。これは、国土交通省による助成率が車両本体価格の1/2から2/3に増加したことや、EVバスの導入支援のための助成をおこなう自治体が増えたことが要因と考えられる。
- 自治体とバス事業者が共同してEVバスの導入をする事例が見られる。栃木県の日光国立公園内バスや新座市のコミュニティバスでは、県や市によってEVバスが購入され車両が貸与されている。また、伊勢市、東大阪市、飯田市では、バス事業者と地域の環境対策に関する協定が締結され、その取り組みの一環としてEVバスが導入されている。さらに、山梨県や四日市市では、災害時にEVバスを電力供給源として活用する協定を締結している。
- 国立公園などの自然公園におけるEVバスの導入も見られる(陸中海岸国立公園内路線バス、尾瀬国立公園シャトルバス、やんばる黄金号、日光国立公園内バスなど)。尾瀬国立公園シャトルバスの事例では、事業者が県や村と協議し、「クリーンで先進的な尾瀬」のイメージづくりや観光・地域創生の効果も視野に入れた取り組みとしてEVバスを導入している。観光・地域創生という観点からも、環境に配慮した車両で、走行音が静かであるEVバスが着目されている。
※ 個別事例の詳細は、EVバス普及調査データベースを参照
EVタクシーに関する調査結果
2023年12月時点において導入が確認された29の事業者の事例、また2022年から2031年までの計画である「タクシー産業GXプロジェクト」を対象とし、導入の実態に関する調査をおこなった結果、国内のEVバスの導入状況は下記のような概要となった。
- 本調査で導入が確認された29事業者のうち、22社が2023年にEVタクシーを導入しており、路線バスと同様に2023年になって導入が加速している。
- 2031年までにEVタクシー2,500台をリースで供給、充電器2,900台を設置する計画である「タクシー産業GXプロジェクト」(NEDOによる支援を活用)が2022年から実施されている。中小の事業者が多いタクシー業界においてEV化を推進する大規模な業界横断プロジェクトであり、今後のEVタクシー普及加速に寄与することが期待される。
- タクシーのEV化にともない、高級タクシーの運用という特徴ある取り組みも見られる。米ウーバーテクノロジーズは、日の丸交通と提携してテスラの「モデルY」を導入し、環境意識の高いインバウンド層や富裕層の取り込みを目指している。
※ 個別事例の詳細は、EVタクシー普及調査データベースを参照
まとめ
EVバス・タクシーの導入事例はこの数年で増えつつあるものの、現状国内ではほとんど進んでいない。また、補助金による支援はあるものの、地域の導入目標や充電ステーションの整備方針といった中長期的な計画が不在のまま散発的に取り組みが進んでいる状況である。その背景には、EVのコストや運用上の課題など、黎明期にゆえに不確実な要素が多いため、導入に向けた見通しを描くこと自体に課題があると考えられる。
このような状況では、先駆的に取り組みを進めるバス・タクシー事業者およびステークホルダーの経験がきわめて重要であるため、事業者間での経験・情報を共有するネットワーキングが大きな意味をもつ。その際に、個々の地域の文脈を踏まえた上で、成功要因のみならず、失敗要因についても率直に共有することで、後発の取り組みがリスクを回避することができる。
今後、高齢化により自動車が利用できない市民が増加することや、運輸部門の脱炭素化への対応の観点からも、路線バスをはじめとする公共交通の役割はますます重要になる。EVバス・タクシーへの転換にあたっては、地域のステークホルダーの協働のもと、地域の将来の交通のあり方も見据えた導入のあり方を模索していく必要がある。当研究所では、今後もEV普及に関する動向調査をおこなっていきます。
補足
2024年に導入が予定されているEVバスとして、下記の3件が確認されている。
- 神奈川中央交通:市民バス「まちっこ」1台を2024年3月に導入予定
- 富山県立山町:町営バス伊勢屋線の1台をEVバスに更新予定
- 東京都清瀬市:コミュニティバス「きよバス」1台を2024年2月に更新予定
調査データ
今回の調査で取り上げたEVバス・タクシーの取り組み状況の調査データは以下のデータベースからご覧いただけます。
※ 本調査の内容について、修正・追加を希望される事業者は当研究所Webサイトのお問い合わせフォームからお知らせ下さい。
著者
この研究報告は下記のISEP研究チームが作成しました。
- 高久ゆう 環境エネルギー政策研究所 研究員
- 古屋将太 環境エネルギー政策研究所 研究員
協力
本報告書の作成には、ISEPインターン生が協力しています。また本報告書の作成は、環境エネルギー政策研究所の会員、サポーターの皆様からのご支援によって可能になりました。持続可能なエネルギー政策を実現するための研究や政策提言を続けていくために、みなさまのご支援・ご寄付をお待ちしています。
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