REN21「自然エネルギー世界白書2022」公表
2022年6月15日
国際的な自然エネルギー政策ネットワーク組織 REN21(本部:フランス、パリ)は、2022年6月15日「自然エネルギー世界白書 2022」を公表しました。
世界の自然エネルギーは記録的な成長をしたもののグリーンエネルギーへの歴史的な転換の機会を逃した
- 自然エネルギーの発電設備容量は記録的に増加したが、世界での発電シェアは増加しなかった。
- 自然エネルギーは成長したが、それ以上にエネルギー消費量と化石燃料の使用量が増加した。
- ロシアのウクライナ侵攻が世界的なエネルギー危機を悪化させ、化石燃料の大手企業に多大な利益をもたらす一方で、何十億人もの人々がエネルギー貧困の危機にさらされている。
パリ、2022年6月15日 – 2年間の新型コロナの世界的な大流行後、主要各国はグリーンリカバリーの機会にすると約束していたが、この歴史的な機会は活かされなかった。REN21の「自然エネルギー世界白書2022(GSR2022)」は、エネルギー転換が起こっていないと明確に警告する。2021年後半には、史上最大ともいえるエネルギー危機が始まり、ロシアのウクライナ侵攻がそれを悪化させたことで、世界的に空前の燃料価格の高騰を引き起こした。
「温室効果ガス排出ゼロ(ネットゼロ)を約束した国は2021年にかなり増えたが、現実には、このエネルギー危機に対して、多くの国が化石燃料の新たな供給源の開発に逆戻りし、より多くの石炭、ガス、石油を燃やしている」とラナ・アディブREN21事務局長は語る。
自然エネルギー世界白書(GSR)は毎年、世界の自然エネルギー源の導入状況を報告している。17年目の本報告書(GSR2022)によれば、最終エネルギー消費量に占める自然エネルギー全体のシェアはあまり増加しておらず(2009年の8.7%に対し2019年は11.7%)、自然エネルギーへの移行が進んでいないという専門家の警告を裏付けている。
電力分野では、設備容量(2021年の新規導入315.5GW、2020年から17%増)の記録的な増加および記録的な発電電力量(年間7,793TWh)となったものの、前年比6%増の電力消費量の増加を打ち消すことはできなかった。熱利用分野では、最終エネルギー消費量に占める自然エネルギーのシェアは10年間で9.8%増加し、2019年には11.2%のシェアとなった。世界のエネルギー消費の32%を占める運輸部門においては、2019年の自然エネルギーのシェアは3.7%(10年間で12.5%増)であり、進展がないことが特に懸念される。※赤字を修正
GSRでは今回初めて、国ごとのエネルギーのシェアを世界地図で示し、いくつかの先進国の進捗状況を強調している。
ネットゼロへの新しい約束は数多いが、その政治的な気運は現実の行動を伴っていない
COP26開催までに、過去最多の135カ国が2050年までにネットゼロを達成することを約束した。しかし、これらの国のうち、国全体の自然エネルギーの目標を掲げていたのは84ヵ国、自然エネルギー100%の目標を掲げていたのは36ヵ国に過ぎなかった。グラスゴー気候変動会議は、気候変動の首脳会議の歴史上初めて、石炭の使用を減らす必要性に言及したが、その廃止とすべての化石燃料の削減の必要性を呼びかけることには失敗した。
GSR2022は、ネットゼロの約束を実現するには膨大な努力が必要であることを明らかにし、新型コロナへの対応を活かせずに終わってしまったことを示している。グリーンリカバリー政策が重要だったにもかかわらず、世界の実質GDPが6.1%成長するという力強い経済回復が見られるなか、最終エネルギー消費量が4.6%増加し、自然エネルギーの増加を上回った。中国だけで、最終エネルギー消費量は2009年から2019年の間に10%増加した。エネルギー消費量の増加分のほとんどは化石燃料でまかなわれ、その結果、世界のCO2排出量は前年の2020年から20億トン以上増加し、史上最大の増加量となった。
旧来型のエネルギー体制の崩壊が世界経済を脅かす
2021年は、1973年の石油危機以来、最大のエネルギー価格の高騰があり、安価な化石燃料の時代の終わりを告げた。ガス価格は年末までに欧州とアジアで2020年水準の10倍に、米国でも3倍に上昇し、電力市場の高騰を招いた。ロシアのウクライナ侵攻はこのエネルギー危機を深刻化させ、世界の成長に重くのしかかる空前の燃料価格の高騰を引き起こした。136カ国以上が化石燃料の輸入に依存している。
石炭、ガス、石油産業は、この間に利益を倍増させ、この危機の主な受益者となっている。英国のように巨大エネルギー企業への課税を発表した国もあるが、同時にほとんどの国が新たな化石燃料への補助金を制定している。「旧来型のエネルギー体制は目の前で崩壊しつつあり、世界経済も崩壊しつつある」とアディブREN21事務局長は述べた。「しかし、この危機への対応と気候変動対策は相反するものであってはならない。自然エネルギーは最も安価な選択肢であり、価格変動を抑制するのに最適なものだ。 自然エネルギーのシェアを高め、経済・産業政策の優先事項としなければならない。これ以上火に油を注ぐようなことはできない。」
自然エネルギーは、より大きな正義と自立への機会となる
特に欧州向けの天然ガスや石油の重要な輸出を停止するというロシアの脅威は、自然エネルギーへの移行の緊急性を際立たせている。この危機に対処するため、欧州連合(EU)や各国・自治体はクリーンエネルギーの目標を更新し、エネルギー転換を加速させるための数々の施策を推進しているが、一方で、旧来の手法に頼ることも続けている。英国など一部の国はエネルギーメジャーへの新たな課税を発表しているが、ほとんどの国は同時に化石燃料への新たな補助金を導入している。石炭、石油、天然ガス産業は、エネルギー危機と政府の対応から利益と影響力のいずれも増した、主要な受益者となっている。
GSR2022によると、気候変動に関する目標を新たにしたにもかかわらず、化石燃料の生産と消費に対する補助金は、エネルギー危機の影響を緩和するために各国政府が最初に選択している。2018年から2020年の間に、化石燃料への補助金にGDPの7%(18兆米ドル)という莫大な額を費やし、時には自然エネルギーへの支援を減らすことと同時に行われた(例:インド)。
こうした状況から、目標と行動の間に深刻な差があることが明らかとなり、地域に根ざしたエネルギー生産とバリューチェーンによる多様でより包括的なエネルギーガバナンスを含めた自然エネルギー主体の経済と社会がもたらす機会の大きさを無視していることは明らかである。総エネルギー消費量に占める自然エネルギーのシェアが高い国は、より高いレベルのエネルギーの自立と安全保障を得ることができる。
「自然エネルギーを後回しにし、化石燃料の補助金に頼って人々のエネルギー料金を削減するのではなく、政府は脆弱な家庭への自然エネルギー技術の導入に直接資金を提供すべきなのです。初期投資は大きくても、結局、自然エネルギーの方が安くつくのです」とアディブREN21事務局長は言う。
REN21 と自然エネルギー世界白書 2022(GSR2022)について
REN21(21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク)は科学者、学術機関、政府、NGO、産業団体などの自然エネルギーの専門家による唯一の国際的なコミュニティである。私たちのコミュニティは、私たちのデータと報告文化の中核を成している。自然エネルギー世界白書2022を含むすべての知的活動は、REN21 が中立的なデータと知識の仲介者として世界的に認知されることを可能にした独自の報告プロセスに従っている。REN21 の署名が押されたすべての文書は、6 つの柱からなるプロセスに従って作成されている。
- 多様な分野の専門家からなる世界的なマルチステークホルダーコミュニティを基盤としたデータ収集により、しばしば統合されておらず収集が困難な、分散したデータや情報へのアクセスが可能となっている。
- 広範な情報源から収集した公式(オフィシャル)および非公式(ノンオフィシャル/従来型ではない)なデータを、幅広い参照などを用いて、協力的かつ透明性のある方法で関連付ける。
- オープンなピアレビュープロセスによるデータおよび情報の補完と検証
- 対象年の自然エネルギー動向に関する専門家の意見を得るため、REN21 チームと著者の間でインタビューや個人的なコミュニケーションを行う。
- エネルギー転換に関する世界及び地域の議論を形成し、進捗を監視し、意思決定プロセスに情報を提供する、検証されたデータ及び情報、事実に基づく証拠に基づく物語を提供する。
- 自然エネルギーを推奨するための活動を支援する、公開された透明性の高いデータと情報
GSR2022 には 650 名を超える専門家が、国際的な執筆チームや REN21 事務局と共に貢献した。
レポート本文、インフォグラフィック、図、国および地域のファクトシートはREN21のWebサイトからダウンロードできます(英語)。また、GSR2022に関するウェビナーが開催されます。
REN 21 自然エネルギー世界白書 – www.ren21.net/reports/global-status-report/
環境エネルギー政策研究所(ISEP)は、本白書の日本関連データの取りまとめを行うと共に、飯田哲也所長がREN21の理事を務め、エリック・マーティノー(シニア・リサーチフェロー)が、この「自然エネルギー世界白書」の2005年の発行から中心的な役割を担ってきました。
さらに2013年1月にはREN21と共同で「世界自然エネルギー未来白書」を編纂し、発行しています。自然エネルギー世界白書」特集ページからもダウンロードできます。ISEPによる日本語翻訳版もあります。
日本国内の自然エネルギー関連の情報についてはISEPが2010年から毎年発行している「自然エネルギー白書」および「自然エネルギー・データ集」をご覧ください。
このプレスリリースに関するお問い合わせ
特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)
担当:松原、山下
お問い合わせフォーム: isep.or.jp/about/contact
TEL: 03-3355-2200 FAX:03-3355-2205