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東北・四国・中国電力による太陽光・風力の出力抑制は十分に避けられた(提言)

2050年カーボンニュートラルに向けた「柔軟性・再エネ最優先・再エネ100%」実現への改善提言

四国・東北・中国の各電力エリアにおいて2022年4月上旬に初めて再生可能エネルギー(太陽光および風力)の出力抑制が実施された。北海道電力も続くと報じられている。しかし、再エネ最優先ルールに沿って対応すれば、いずれも出力抑制は十分に避けられた可能性が高く、前例づくりのための「お試し出力抑制」の可能性が疑われる。

脱炭素とエネルギー自給拡大が待ったなしの状況に対して、太陽光と風力は最大・最速の対応策であるにもかかわらず、このようななし崩しの出力抑制が広がる現状は、真逆の対応である。加えて経済産業省や広域機関も、未だに再エネ出力抑制に対して、再エネタスクフォース[1]で指摘された経済的補償を含む再エネ最優先ルールの徹底や十分な柔軟性への転換が行われていない。

再生可能エネルギー最優先の原則のもと、「柔軟性・再エネ優先・再エネ100%」実現へ改善すべき点について、各電力エリアでの出力抑制の分析を行った上で、重ねて以下の提言を行う。

【提言要旨】

[提言1] 「再生可能エネルギーを主力電源として最優先の原則」という政策目標を具体化する

[提言2] オンライン制御を義務化し、出力抑制に対して経済的に補償する

[提言3] 地域間連系線の運用枠拡大と増強

[提言4] 揚水発電の最大限の活用

[提言5] 石炭火力(電源I・II・III)の停止・早期廃止

[提言6] 原発稼働スケジュール(定期点検計画など)を見直す

[提言7] 旧ルール・指定ルールの廃止

[提言8] 優先給電(出力抑制)ルールを見直す(再エネVRE最優先へ)

[提言9] 「柔軟性」(フレキシビリティ)に必要な本格的対策(蓄電池の大規模導入、需要側管理市場など)

[提言10] VREを熱・交通分野等で活用するセクター・カップリング(P2X, V2X, グリーン水素化)に向けた準備

【出力抑制の分析の要旨】

  • 四国電力は4月9日に初めての出力抑制を実施した。四国電力は、再エネより原発が優先される日本特有の「原発最優先ルール」のもとで原発1基が昨年末から稼働しているとはいえ、当研究所の考察では、火力発電を事前に抑えつつ、会社間連系線を活用すれば、太陽光および風力の出力抑制は十分に回避できた可能性が高い。

図1: 四国エリアでの需給バランスの推計(2022年4月9日)

  • 東北電力は4月10日に初めての出力抑制を実施し、24日までに4回の出力抑制を実施している。東北電力は原発を1基も稼働しておらず、これも当研究所の考察では、火力発電の事前抑制と、特に東京エリアとの間で揚水発電の広域での運用や連系線の活用がおこなわれていれば、出力抑制は十分に回避できた可能性が高い。

図2: 東北エリアの需給バランスの推計(2022年4月10日)

  • 中国電力は4月17日に初めての出力抑制を実施した。中国電力も原発は1基も稼働しておらず、東北電力と同様に、試運転火力を含む火力発電の事前抑制と連系線や揚水発電の活用がおこなわれていれば、出力抑制は十分に回避できた。

 

図3: 中国エリアの需給バランスの推計(2022年4月17日)

  • 九州電力は、2021年度以降、オンライン制御を中心とした出力抑制の回数が増加しており、出力制御ルールの見直しも実施されているが、2030年に向けて全国の電力エリアにおいて出力抑制が10%以上に増加する見通しとなっている(特に北海道、東北、中国、九州エリア)。そのため、供給側の火力の最低出力、連系線の拡充および需要側の対策が必要である。

【出力抑制の詳細分析】

2022年4月上旬から四国電力、東北電力および中国電力の各送配電エリアにおいて変動性再生可能エネルギーVRE(太陽光および風力)の出力抑制が初めて実施された。これらのエリアでは、すでに出力抑制を行っていた九州エリアと同様に太陽光発電の導入量が最小需要をすでに超えていたが、OCCTOの定めた優先給電ルールに基づく需給調整が行われてきた (図4)。四国エリアではVRE比率が、2021年には全国で最も高くなり、年平均で16.0%に達していたが、2021年度までは出力抑制は実施されなかった(原発は2021年12月から1基が再稼働)。東北エリアの2021年のVRE比率は14.7%、中国エリアは13.3%だったが、原発は稼働しておらず、2021年度まではVREの出力抑制は行われていなかった(表1)。

表1:各エリアのVRE比率とVRE出力抑制の状況と見込み
(出所:一般送配電事業者データおよび系統ワーキンググループ資料より作成)

送配電エリア 再エネ
比率
(2021年)
VRE比率
(2021年)
原発比率
(2021年)
出力抑制率
(2021年)
出力抑制率
見通し*
(2022年度)
出力抑制

回数**
(2022年)

出力抑制率
見通し***
(2030年度)
北海道エリア 30.0% 13.3% 0.0% 0.0% 0回 49.3%
東北エリア 35.1% 14.7% 0.0% 0.0% 0.33% 2回 41.6%
東京電力エリア 13.6% 8.0% 0.0% 0.0% 0回 6.3%
中部エリア 18.6% 10.3% 0.0% 0.0% 0回 5.8%
北陸エリア 35.6% 5.6% 0.0% 0.0% 0回 3.7%
関西エリア 15.3% 5.9% 20.2% 0.0% 0回 8.8%
中国エリア 22.1% 13.3% 0.0% 0.0% 0.06% 1回 28.6%
四国エリア 30.8% 16.0% 1.8% 0.0% 0.01% 3回 2.1%
九州エリア 25.8% 15.6% 38.5% 4.2% 5.20% 32回 34%
沖縄エリア 8.3% 5.7% 0.0% 0.0% 0.20% 0回 1.7%
東日本エリア 19.4% 9.8% 0.0% 0.0% 2回
中西日本エリア 20.9% 10.6% 12.8% 1.2% 32回
全国合計 20.2% 10.1% 7.0% 0.6% 32回

*一部オンライン化・連系線利用率100%の場合 ** 2022年4月20日まで ***対策前

図4: 各電力エリアでの系統接続の状況(2021年末)
出所:一般送配電事業者データ等より作成

四国エリアでは、2022年4月9日(土)に、初めて出力抑制が実施されたが、前日指示の抑制量が41万kWに対して、当日は変更が出来ないオンフラン制御15万kWに留まった(図5)。制御対象がオンライン制御のみであれば、当日の需給バランスにより出力抑制の中止が可能であり、出力抑制は必要なかったと考えられる。さらに、出力抑制が行われなかった昨年2021年5月と比較すると、原発1基の稼働が大きく影響していると考えられると共に、域外送電が連系線の運用容量260万kWに比べ半分程度の130万kW程度と低くなっており、連系線を活用して、より広域での需給バランスの調整を可能とする検討が必要である。

図5:四国エリアの出力抑制の実施状況(出所:四国電力送配電のデータより作成)

東北エリアでは、2022年4月10日(日)に、初めて出力抑制が実施されたが、原発は再稼働しておらず、2021年5月と比べると前月の地震の影響で地域間連系線(東北東京間)の運用容量が465万kWから294万kWに減少したりしたが、制御対象がオンライン制御のみであれば、当日の需給バランスにより出力抑制の中止が可能であり、出力抑制は必要なかったと考えられる。さらに、4月17日には揚水発電が十分に活用できなかったこと等が要因となり、130万kWの出力抑制が実施された (図6)。東北電力の揚水発電は、第二沼沢46万kWと下郷25万kW(電源開発)が活用できるとされているが、エリア内にはその他にも電源開発の揚水発電が200万kW以上あり、それらの広域での融通も検討する必要がある。

図6: 東北エリアの出力抑制の実施状況(出所:東北電力ネットワークのデータより作成)

中国エリアでは、従来、2022年度は出力抑制は実施されない見込みだったが、揚水発電設備(30万kW)の故障と、大型石炭火力(100万kW)の試運転がこの時期に実施されたため、2022年4月17日(日)に初めて出力抑制が実施された(図7)。連系線による域外送電については、関西中国間連系線の運用容量(最大430万kW)のうち、九州エリアから135万kW、四国エリアから145万kWの送電可能量が確保されているため、130万kWまでしか使えないことになっている。本来、試運転を含めて石炭火力発電の運転については停止する方向で調整をすべきであり、連系線による再生可能エネルギーの調整については、九州・四国・関西などのエリアを含めて、より広域での調整を進め、連系線をさらに活用できるようにすべきである。

図7: 中国エリアの出力抑制の実施状況(出所:中国電力ネットワークのデータより作成)

九州エリアでは、これらのエリアに先行して2018年10月からVREの出力抑制が始まっていたが、これは日本全体から見て 「柔軟性・再エネ最優先・再エネ100%」実現への試金石となっている(図8)。この出力抑制を最小化するため、電力システムの柔軟性に関連するほとんど全ての要素(石炭、地域間連系線、揚水発電、原発、オンライン制御等)がすでに九州エリアには存在している。九州電力は、急増する太陽光発電や風力発電を最大限、導入できるように努力を重ねてきていることは評価できるが、当研究所からは「柔軟性・再エネ最優先・再エネ100%」実現への改善提言をしている[2]。九州エリアでは、VRE比率(出力抑制後) が需要に対して15.6%(2021年)と四国エリアに次いで高く、さらに原発比率も38.5%と全国で最も高くなっている[3]。その結果、九州エリアでの2021年の年間のVREの出力抑制率は4.2%となった。

図8: 九州エリアでの出力抑制とVREおよび原発の割合の月別推移
出所:九州電力送配電データよりISEP作成

2021年4月以降の系統接続に対しては、全電力会社(一般送配電事業者)において「無制限・無補償の出力抑制」が適用されており、再生可能エネルギーへの投融資と事業化が停滞し、日本全体で再生可能エネルギーの導入目標達成やカーボンニュートラルの実現を困難にする恐れが出てきている。出力が自然変動するVREに対して、必要最小限の出力抑制をすることは一般的には合理的であるため、九州エリアで2018年から始められているようなVREの出力抑制を直ちに否定する立場を取るものではない。とはいえ、これまでに九州エリアで行われてきたVREの出力抑制については、すでに提言している改善すべき点があると考えられ、新たに出力抑制を開始した四国、東北、中国の各エリアにおいても同様の改善が必要である。現状のままでは、「再生可能エネルギー拡大を前提とした合理的な出力抑制」ではなく、「再生可能エネルギー抑制のための出力抑制」に陥りつつあるように思われる。世界各国ではすでに九州エリアよりも高いVRE比率でも出力抑制率を5%未満に低く抑えており[4]、その中でもデンマークでは50%を超えるVRE比率を電力市場や電力システムの様々な柔軟性の手法により実現している[5]

【提言内容】

四国電力送配電(株)、東北電力ネットワーク(株)、中国電力ネットワーク(株)、九州電力送配電(株)及び他の一般送配電事業者、並びに国(経済産業省)や電力広域的運営推進機関(OCCTO)に対して、改善を期待したい点を以下のとおり提言する。

[提言1] 「再生可能エネルギーを主力電源として最優先の原則」という政策目標を具体化する

国が決定した第6次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーを「主力電源として最優先の原則」の下で最大限の導入に取り組むとしている。特に日本のエネルギー政策史上、初めて「再生可能エネルギー最優先の原則」を掲げたことは、正しい認識であり、高く評価したい。

ところが、具体的な内容を見ると、全般的に「再生可能エネルギーの主力電源として最優先」を目指しているように思えない。再生可能エネルギーの目標値は、確かに2030年度に36~38%を目指すという従来よりも高い目標となった。しかし、同時に原子力発電は従来と同じ20~22%を維持するとされため、非化石電源の目標比率は約6割となり、原発の重大なリスクを考慮すれば再生可能エネルギーだけで6割以上を目指す必要がある。さらに2050年の想定シナリオの比較検討も行われ、再生可能エネルギー50~60%で、残り40~50%を原発や火力発電で賄うというシナリオが参考で示されたが、最も実現性の高い再生可能エネルギー100%のエネルギー供給を目指す世界のエネルギーシナリオの潮流からはかけ離れている[6]

この10年間で、VRE、つまり太陽光発電と風力発電は平均的なコストではそれぞれ9割減・7割減と急落し、それに伴って驚異的に拡大している。石炭・石油という化石燃料の世紀から、太陽エネルギー中心の再生可能エネルギーの世紀へと、100年に一度のエネルギー大転換期のただ中にあるにも関わらず、お題目だけの「再生可能エネルギーを主力電源として最優先」でしかないのは、問題意識も状況認識も希薄すぎるのではないか。

再生可能エネルギーの中でも、とりわけVREを主力電源にするためには、従来の考え方を180度転換する必要がある。ところが基本計画では、未だに「重要なベースロード電源」という古い考えを引きずったままである。この「ベースロード」から「柔軟性」(フレキシビリティ)への転換は、待ったなしといえる。関連して、再生可能エネルギーの変動を火力発電でバックアップする、という誤解を与える考え方も改める必要がある。

その他、優先給電ルールや出力抑制ルールの見直し、そして電力を超えて他分野でVREを活用する「セクター・カップリング」などを経済的に活用できるよう、政策や事業モデルを検討してゆく必要がある。

 [提言2] オンライン制御を義務化し、出力抑制に対して経済的に補償する

VREの出力抑制は、系統全体の安定性を目的としたものであるから、その抑制時の経済的損失に対して、一般送配電事業者は、発電事業者への経済的補償を行うべきである。その原資は、調整力の確保という目的から送電費用として計上すべきであり、現状では託送料金を原資とすべきである。その上で、出力抑制の際にはオンライン制御を原則とした上で、オンライン化率を可能な限り高めるべきである。オンライン制御を現状では、事業用太陽光(10kW以上)のオンライン化率は、最も高い九州エリアで60%程度となっている(図9)
これまでの出力抑制のルールにおいて、指定ルールのVRE(太陽光、風力)の無制限の出力抑制に対して、何の経済的補償も行われないことは、再生可能エネルギーの導入を促進するというFIT法の趣旨に反しており、憲法上の財産権の侵害でもある。ドイツなど欧州でもVREの出力抑制が行われることはあるものの、原則として出力抑制による発電事業者の経済的損失は補償される(2017年の実績で99%以上)[7]。旧ルールで接続してオンライン制御が行われていない設備に対して、経済的なインセンティブや補助金により全ての太陽光発電設備にオンライン制御装置を設置することを義務化すべきである。その際、出力制御の公平性については、経済的な補償を行うことで柔軟な運用を可能にすべきである。

これまで、旧ルールの500kW以上の太陽光発電設備については、オフライン制御の対象となっているが、指定ルールの発電設備については、導入時からオンライン制御が可能となっている。2019年10月以降、太陽光の予測誤差を考慮したルールの見直しがあり、オンライン制御を優先して活用するルールになったことや原発の稼動率の低下などが要因となり、2020年度は九州エリアの出力抑制の割合は前年度よりも低下した。2021年4月より出力抑制のルールが変更され、オンライン制御が可能な指定ルールの太陽光発電所については、全事業者を一律に「%制御」をしているが、オンライン制御の設備の出力抑制率の増大が懸念される。さらに、2022年4月からは、500kW未満のオフライン制御の設備については、経済的なやり取りを行うオンライン代理制御がスタートしているが、500kW以上の旧ルールの設備はその対象に明確にはなっておらずオフライン制御が行われており、早急な改善が必要である。

図9:各エリアの太陽光(10kW以上)のオンライン化率 (出所:一般送配電事業者データより作成)

[提言3] 地域間連系線の運用枠の拡大と増強

現状の地域間連系線の利用ルールを改善し、連系線の運用に関する透明性を高め、優先給電ルールの中でVREを出力抑制する前に連系線の活用を十分に行うことが期待される。さらに、再生可能エネルギーのさらなる導入も視野に地域間連系線の中長期的な増強計画を策定し、一般送配電事業者が再生可能エネルギーを最優先で受け入れられる広域的な送電網とその運用ルールを整備すべきである。

優先給電ルールにおいて火力発電や揚水発電(電源I, II, III)による調整の次に「連系線を活用したエリア外への供給」が行われることになっている。九州エリアにおいては、OCCTOの評価としては、現在の運用ルールの中で十分に活用されているとしているが、他のエリアでも透明性と改善が望まれる。

四国エリアについては、中国四国間連系線(本四連系線)とよび関西四国間連系線(阿南紀北直流幹線)の2系統の地域間連系線があり、運用容量は285万kWとなっているが、2022年4月には本四連系線1回線が工事中で停止しているため、域外送電の最大値は260万kWとされている(図10)。2022年5月の出力制御の見通しでも231万kWとされていたが、実施には135万kWの活用に留まっている。過去の実績でも、VRE比率が高い時間帯には連系線の送電量が抑制されており、連系している中国エリアの状況と合わせて広域での需給調整に関する透明性を確保する必要がある。

この連系線の運用の改善により、VREの出力抑制を改善できるはずだが、今後、さらにVREが増加することを踏まえて計画的な増強が必要である。すでにこれまでにOCCTOでの検討に基づき、2027年度までに東北東京間を倍増して1000万kW以上に、北本連系線も90万kWから120万kWに、そして東京中部間の連系線も300万kWへ増強することが決まっている。さらに、OCCTOの地域連系線の増強に関するマスタープランの検討では、広域系統整備に関する長期展望のシナリオ分析が行われ、関門連系線の増強について現状の2倍程度(278万kW→556万kW)が最も望ましい(指標:費用便益評価B/Cおよび出力抑制率)という分析結果が出ている[8]。合わせて、九州から四国ツールの新設など関連する地域間連系線の増強に関する分析も行われているが、現状の再生可能エネルギーの導入シナリオ(2030年再エネ37%、2050年5~6割)に限定せず検討を行う必要がある。

図10:地域間連系線の運用容量 (出所:OCCTO運用容量検討会資料)

[提言4] 揚水発電の最大限の広域活用

九州エリアでは、出力抑制時の需給調整に揚水発電が活用されて来たが、他のエリアにおいても最大限活用することが出来るような揚水設備の運用が求められる。揚水発電は、全国で約2700万kWが導入されており、各エリアにおいて一般送配電事業者の調整力として運用されている(表2)。特に東北エリアは、他のエリアに比べて揚水発電がVREの設備容量に比べて小さく、エリア内の電源開発所有の揚水発電設備も含めて、比較的余裕のある東京電力エリアとの広域融通などで、さらに揚水を調整力として活用できる仕組みが必要である。

表2:各エリアの揚水発電およびVREの導入状況(出所:系統ワーキンググループ資料等より作成)

エリア 揚水動力 VRE導入量 揚水/VRE比率
北海道エリア 90万kW 271万kW 33.2%
東北エリア 71万kW 902万kW 7.9%
東京電力エリア 1095万kW 1767万kW 62.0%
中部エリア 393万kW 1048万kW 37.5%
北陸エリア 12万kW 128万kW 9.4%
関西エリア 438万kW 662万kW 66.1%
中国エリア 171万kW 643万kW 26.6%
四国エリア 60万kW 337万kW 17.8%
九州エリア 253万kW 1137万kW 22.3%
沖縄エリア 0万kW 38万kW 0%
東日本エリア 1257万kW 2940万kW 42.7%
中西日本エリア 1326万kW 3992万kW 33.2%
全国合計 2583万kW 6932万kW 37.3%

[提言5] 石炭火力(電源I・II・III)の停止と早期廃止および火力最低出力のルール化

原発はもちろん、石炭火力も出力調整速度が遅く柔軟性のない電源であるため、低需要期は原発および自社石炭火力(電源IおよびII)を停止し、他社石炭火力(電源III)の受電も最小限(できればゼロ)とすることが望ましい。やむを得ない事情により自社石炭火力を稼働させる場合でも、優先給電ルールに基づく供給力の調整においては最低出力まで確実に下げ、火力発電所毎の時間ごと出力について公表すべきである。

九州エリアでは、電源I, II, IIIの石炭火力に対して以下のような対応が考えられる。石炭火力を全て廃止し、コールドスタートも可能なLNG火力で代替する。温暖化対策の観点からも電源開発の石炭火力のうち九州内にある松浦、松島の計4基は廃止、橘湾(四国にあり一部を九州電力が受電している)は受電しないこと。石炭副生ガス利用の火力のうち、戸畑は副生ガス発電以外は廃止し最低出力は審議会に報告している通りゼロとする。大分は最低受電(設備容量の30%)まで下げるか受電しないことが求められる。石炭火力の停止により、連系線の枠も空くため、これをVREの変動に対する上げ・下げの余力として活用できるというメリットも生じる。

火力発電については、電源I・IIの休止状況は公開されているが、電源IIIについては不明であり、公開システムが必要である。全ての火力発電について、最低出力を自己申告ではなく、トップランナー方式で規制値を定め、ルール化する必要がある。

[提言6] 原発稼働スケジュール(定期点検計画など)を見直す

九州電力や四国電力を始め原子力事業者は、国による様々な原発保護政策により原子力規制委員会により稼働が認められた原発の再稼働を進めている。とくに九州エリアでは、供給力の比率では約5割に相当する4基(約400万kW)の原発再稼働が認められており、四国エリアでも1基(約90万kW)の原発が再稼働している。現行の優先給電ルールでは、再エネよりも原発が優先されることから、九州エリアで出力抑制が先行し頻発している最大の原因でもある。出力抑制が頻発した低需要期の2021年4月には全4基の原発が稼働している。

当面、現行の優先給電ルールを取るのであれば、需要が低く太陽光発電の出力が多い時期に、定期点検を計画することで、出力抑制をできるだけ回避すべきである。具体的には、低需要期・太陽光高出力期間(3月下旬〜5月末、9月下旬から11月上旬)に、できるだけ定期点検の日程を調整することを提案する。例えば、九州エリアでは、秋は川内1号機を9月中に定検を開始し、春は、玄海4号機の定検を3月中に早め、川内2号機の定検後運転開始を6月にするなどのスケジュールの見直しが考えられる。

そもそも、福島第一原発事故を経験した日本は、原発ゼロを目指すべきであり、国が崩壊するリスクを経験し、十分な安全性も確保されない上に、使用済み核燃料の行き場もない原発を九州電力などの原子力事業者が続ける理由はない。

[提言7] 旧ルール・指定ルールの廃止

海外では例のない太陽光および風力に対する「接続可能量(30日等出力制御枠)」に基づく出力抑制に関する旧ルール・指定ルールを廃止しすべきである。すでに2021年4月からは、指定電気事業者の廃止により、全ての一般電気事業者において、無制限・無保証の「指定ルール」の適用が始まっている。廃止することにより、出力抑制に対する経済的な補償制度やVPPなどによる経済的な取引の導入を進め、実質的な再生可能エネルギーの「優先給電」を確立する必要がある。

2014年の太陽光発電の大量接続申込みによる「九電ショック」以降、電力会社側が試算して経産省の審議会(系統ワーキンググループ)[9]が電力需給バランスを検証する形で指定電気事業者による「接続可能量(30日等出力制御枠)」が太陽光発電および風力発電に対して導入されている。FIT制度においては、もともと30日間については無補償での出力抑制が認められていたが、「接続可能量」を超えた場合は30日を超えて無制限・無補償での「指定ルール」に基づく出力抑制が行われる。VREの大量導入においては、出力抑制(出力制御)は必要になるが、この「指定ルール」のもとでの無制限・無保証のために事業の収益性に大きく影響する可能性があり、現状では単純な出力制御量の予測値が公表されているだけである。

[提言8] 優先給電(出力抑制)ルールを見直す(再エネVRE最優先へ)

VRE(太陽光および風力発電)を最優先する優先給電ルールへの見直しが必要である。VREは、燃料費がゼロ・純国産エネルギー・CO2も放射能も出さないクリーンな電源であり、しかも限界費用がほぼゼロである。したがって、現状、もっとも優先されている原発よりも、経済的・環境的・社会的のどの観点からも、最後に残すべき(もっとも優先されるべき)電源である。

本来、原子力規制委員会は新規制基準への適合を審査するに過ぎず、福島第一原発事故後により明らかになった原発の過酷事故へのリスクが無くなったわけではない。また、原発事故時の賠償を行う原子力損害賠償制度における賠償金の上限額は1200億円のままで、国による支援がなければ本来事故の責任を負う原子力事業者は損害賠償を行うこともできない「無保険」の状況である。このようなリスクの高い原子力発電は、速やかに廃止すべき電源である。

また、温室効果ガスであるCO2や有害物質を大量に排出する石炭火力については基本的に不要な場合は稼働を停止すべき電源であり、全ての石炭火力の廃止を目指す必要がある。

[提言9] 「柔軟性」(フレキシビリティ) に必要な本格的対策(蓄電池の大規模導入、需要側管理市場など)

九州エリアで大きな出力抑制が発生している背景には、原子力発電の低需要期の大きな出力や火力発電最低出力維持などの運用上の課題がある。これらは、現状の優先給電ルールや出力抑制ルールにのっとって、原子力発電や火力発電などそれぞれの発電所が運用された結果である。以下の要因分析で示すように、例えば低需要期に原子力発電所の定期点検を計画し、出力抑制時の火力の最低出力運用を石炭からLNGに移行など、より系統全体の「柔軟性」(フレキシビリティ)を高める視点から対策を取ることで、再エネの出力抑制は大きく改善する。

ところが、現状ではこのような取り組みはまだ不十分である。その理由は、現状のルールが需給運用のための優先給電ルールや出力抑制ルールのような順位付けにとどまっており、電力システムとして柔軟性を高めるような(VREの抑制を最小化するような)基本コンセプトや方針・ルールが欠けていることが最大の原因と考える。

例えば、アイルランドでは、2020年に再生可能エネルギーを拡大する目標を達成するための施策の一つとしてSNSP(System Non-Synchronous Penetration:時間別の非同期電源比率)を75%まで高めることを目標に掲げ電力システムの柔軟性向上に取り組んできた。九州においても、このように柔軟性を高めるという目標や方針を明確にしない限り、現状の優先給電ルールや出力抑制ルールに基づく短期的な需給バランスの議論に終始し、適切に運用しているように見えて全体としては最適ではないようないびつな需給構造に陥ってしまう可能性がある。

現状でも出力抑制が必要な場合には電力システムの柔軟性(フレキシビリティ)の確保ため、揚水発電や大型蓄電池などの余剰電力に対する蓄電機能が用いられているが、今後のVREの増加に伴って蓄電機能などを拡充し、デマンド・レスポンスや需給調整市場、VPP(バーチャル・パワー・プラント)などと合わせて柔軟性をさらに高める方策の拡充が必要である。

世界的に蓄電池(リチウム・イオン)のコストは30年間で約97%低下した[10]。日本でもすでに4万円/kWh程度までコストが低下している系統側蓄電池の急速な拡大に着手し、同時に、需要側蓄電池(BTM)を活用した需要側管理(DR)の本格導入をするべきである。さらに、新たな電力市場として容量市場を維持するなら、蓄電池とDRを最優先すべきである。

現状の優先給電ルールの中には需要側の調整機能(デマンドレスポンス)は含まれていないが、すでに供給力が不足する際のデマンドレスポンス(下げDR)は猛暑時などの需給ひっ迫時に活用されている(電源I’)。需要に対して供給が上回る際の調整力としてこのデマンドレスポンス(上げDR)を活用できる可能性がある。さらにこれらの調整力を一般送配電事業者に提供する新たなサービスとしてVPPの導入が検討されている[11]。再生可能エネルギーの出力抑制については、現状では取引の対象になっていないが、積極的に経済的な取引を可能にすることで出力制御を生かした調整力を確保できる可能性がある。

[提言10] VREを熱・交通分野等で活用するセクター・カップリング(P2X, V2X, グリーン水素化)に向けた準備

今後もコストが下がり飛躍的に拡大することが期待できるVREの導入をさらに進めてゆくと、余剰電力を積極的に温熱部門や交通部門、さらには産業部門で利用する「セクター・カップリング」というスマートエネルギーシステムの将来像を描くことができる。その準備を進めるべきである。

熱部門では、家庭用や業務用の蓄熱式ヒートポンプを活用して冷暖房や給湯の熱を供給することができる。建物毎の個別供給だけではなく、エネルギー密度が高い地域では地域熱供給を導入して地域で熱を面的に融通しながら効率的に熱利用することが可能となる[12]

交通部門では、公共交通機関や自家用車などで電気バスや電気自動車(EV)の普及が進むことで余剰電力をスマートに充電して交通の脱炭素化が実現可能である。さらに余剰電力を電気分解により水素にいったん変換しそのグリーン水素からさらに都市ガスとして利用が可能なメタンへ変換し、グリーンでエネルギー密度の高い可搬性に優れた液体燃料へ転換することが、近い将来、技術的にはもちろん、経済的にも可能であり、将来の市場拡大が期待される。

【背景】再生可能エネルギーの導入状況と九州エリアの出力抑制

2021年に太陽光の発電電力量の割合が14.6%と全国でも最も高いエリアになっている九州エリアでは変動性再生可能エネルギーVREの割合は15.6%(太陽光14.6%、風力1.0%)、再生可能エネルギー全体では25.8%となった(図11)。一方で、原子力発電の割合も38.5%と、全国のエリアの中で圧倒的に高く、再生可能エネルギーの割合を大きく上回っている。東北エリアは、水力を含めた再生可能エネルギーの割合が35.1%に達しているが、VRE比率は14.7%(太陽光10.4%、風力4.4%)となっており、原発は稼働していない。この東北エリアでは、水力を含めた再エネの低需要期の再エネ割合が1時間値で120%を超えている。四国エリアのVRE比率は16.0%(太陽光14.2%、風力1.8%)と全国で最も高かったが、原発の割合は1.8%に留まった。さらに、四国エリアでは、低需要時期に1時間値のVRE比率が100%を超えたが、出力抑制は実施されていなかった。中国エリアは、VRE比率が13.3%(太陽光12.5%、風力0.8%)となり、原発は稼働していない。

図11: 電力会社エリア別の再生可能エネルギーおよび原子力の割合(2021年)
出所:一般送配電事業者の電力需給データより作成

2021年には、1時間値で自然エネルギーが100%を超えるエリアが、北海道、東北、北陸、四国および中国の5エリアになった。前年の2020年は四国、東北および九州の3エリアだった。特に四国電力エリアでは、2021年5月23日11時台に自然エネルギーの電力需要に対する割合が121.9%に達した。このピーク時に太陽光が90.6%、風力が0.4%でVREの割合が91.0%だった。さらに、5月3日には、11時台と12時台に太陽光の割合が101.3%に達し、風力の0.9%と合わせてVREの割合が102.2%に達した(図12)。東北電力エリアでは、1時間値で自然エネルギーの割合がピーク時に最大121.2%に達した(2020年5月4日11時台)。このとき太陽光が75.9%、風力が11.5%とVRE比率が87.4%に達している(図13)。東北電力エリアでは、風力発電の1時間値でピークが17.2%に達している(2021年4月19日0時台)。2021年に初めて1時間値の自然エネルギーの割合が電力需要の100%を超えた中国電力エリアでは、2021年5月3日11時台に107.3%に達しており、太陽光90.2%、風力1.5%、VREが91.8%になった。

図12: 四国電力エリアの電力需給(2021年5月3日)
出所:四国電力送配電の電力需給データより作成

図13: 東北エリアの電力需給(2021年5月4日)
出所:ISEP Energy Chartにより作成

九州エリアの月別のVREの割合は2021年4月に20.5%になり、前年同時期の21.5%からは全天日照量の関係で減少した(図8)。一方でベースロード電源として優先給電ルールに基づき出力抑制を最後まで行わない原子力発電の比率は全4基の再稼働により50%程度にまで高まっている。その結果、VREと原子力を合わせた比率は2021年4月には約70%と過去最高となり、VREの月別の出力抑制率も過去最高の14.1%となった(太陽光14.4%、風力10.0%)。図14に、これまでの月別の出力抑制率を、VRE割合、原子力割合、VRE+原子力割合で整理してみると、原子力とVREを合わせた割合が50%以上になると出力抑制率が増加することがわかる。

九州エリアにおいて2018年10月以降、本格的な太陽光発電および風力発電の出力抑制が断続的に実施され、2020年度の1年間の平均では出力抑制率は2.9%となったが、前年度の4.0%より減少した。VREの割合は2020年5月に21.9%に達し、前年同月の19.4%から増加した。原子力発電の割合も再稼働により高まり、4基の原発(合計出力約400万kW)が稼働している時期もあったが、特重施設の未整備による稼働停止などもあり、2020年度の平均では需要に対して26.0%で前年度の34.1%から低下した。月別では需要に対する原発の発電電力量の割合は2020年4月と2021年3月に最大で37.4%だったが、2020年10月に13.5%まで低下した。月別でも2021年3月の出力抑制率は7.0%だったが、前年同月の12.6%を大幅に下回っている。

ベースロード電源として優先給電ルールに基づき出力抑制を最後まで行わない原子力発電の比率が高い時期があり、VREの出力抑制に対して大きな影響を与えている。出力抑制が始まった2018年10月の時点では4基の原発(合計出力約400万kW)が稼働しており、定期点検などで一定期間停止する原発もあるが、2019年度の平均では需要に対して約34%に達していた。その結果、九州本土エリアにおいて2018年10月以降、本格的な太陽光の出力抑制が断続的に実施され、2018年度の26日に対して、2019年度の1年間では74日を数えた(表3)。そのうち2019年4月には20日の出力抑制が実施され、太陽光の出力抑制率は12.1%に達したが、2020年3月には15日の出力抑制が行われ出力抑制率は12.6%に達した。2019年度1年間を通じた太陽光の出力抑制率は4.1%になり、前年度(2018年度)の0.9%の4倍以上に達した。一方、風力発電の出力抑制率は2020年3月に13%に達したが、2019年度1年間の出力抑制率は2.3%で、2018年度の0.3%の7倍以上に達した。

図14: 九州本土エリアの月別の出力抑制率とVREおよび原子力の割合の相関
出所: 九州電力送配電データよりISEP作成

表3: 九州エリアの出力抑制の発生回数と抑制比率
出所:九州電力送配電データより作成

VRE
割合
原子力
割合
出力抑制率 PV
出力抑制率
風力
出力抑制率
出力抑制日数
2018年度 12.1% 33.3% 0.8% 0.9% 0.3% 26日
2019年度 13.2% 34.1% 4.0% 4.1% 2.3% 74日
2020年度 15.8% 26.0% 2.9% 3.0% 1.8% 60日
2021年(暦年) 15.6% 38.5% 4.2% 4.3% 3.0% 108日

【脚注】

[1] 第14回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(2021年8月17日) https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20210817/agenda.html

[2] ISEP「柔軟性・再エネ最優先・再エネ100%」実現への改善提言 — 九州電力管内における太陽光・風力の出力抑制への対応(2021年9月) https://www.isep.or.jp/archives/library/13538

[3] ISEP「2021年(暦年)の自然エネルギー電力の割合~国内の変動性自然エネルギーVREが10%超、急がれる化石燃料への依存度低減~」(2022年4月) https://www.isep.or.jp/archives/library/13774

[4] Yoh Yasuda, et al., “C-E (curtailment – Energy share) map: An objective and quantitative measure to evaluate wind and solar curtailment” Renewable and Sustainable Energy Reviews, 2022, https://doi.org/10.1016/j.rser.2022.112212

[5] デンマーク・エネルギー庁「デンマークの電力システムにおける柔軟性の発展とその役割」https://www.isep.or.jp/archives/library/13612

[6] ISEP「第6次エネルギー基本計画への意見および提言」(2021年9月) https://www.isep.or.jp/archives/library/13516

[7] ドイツ連邦ネットワーク庁 ” Network and system security” https://www.bundesnetzagentur.de/EN/Areas/Energy/Companies/SecurityOfSupply/NetworkSecurity/Network_security_node.html

[8] OCCTO「マスタープラン 中間整理」(2021年5月) https://www.occto.or.jp/iinkai/masutapuran/2021/210524_masutapuran_chukanseiri.html

[9] 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会 系統ワーキンググループ http://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/keito_wg/index.html

[10] Hannah Ritchie “The price of batteries has declined by 97% in the last three decades” Our World in Data, June 04, 2021

https://ourworldindata.org/battery-price-decline

[11] 資源エネルギー庁「バーチャルパワープラント(VPP)・ディマンドリスポンス(DR)とは」http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/about.html

[12] ISEP「第4世代地域熱供給4DHガイドブック」 https://www.isep.or.jp/4dh-forum/4dh-guidebook/