【速報】日本国内の電力需給(2020年度)における自然エネルギー割合
2021年5月14日
トピックス:
- 2020年度の自然エネルギーの電力需要に対する割合(年間平均値)は19.2%となり、太陽光発電の割合8.5%が水力発電の割合7.8%を上回って、VRE(変動する自然エネルギー)の割合は9.5%となった。
- 月別の平均値では2020年5月に自然エネルギーの割合が27.5%でもっとも高く、太陽光と風力発電を合わせたVRE(変動する自然エネルギー)の割合は13.7%となった。
- 電力会社エリア別では、北陸電力エリアが34.6%で自然エネルギーの割合が最も高く、東北電力エリアは33.3%だった。九州電力エリアでは太陽光発電の割合が14.9%でエリア別で最も高く、VREの割合は15.8%になった。
- 東北電力エリアでは、1時間値で自然エネルギーの割合が初めて100%を超える時間帯があったが、四国電力エリアと九州電力エリアでも100%を超える時間帯があった。
- 九州電力エリアで実施されている太陽光および風力発電の出力抑制は、2020年度の割合が2.9%となり、前年度の4.0%から減少した。VREの割合は増加しているが、原子力発電の割合が前年度より減少している。
日本国内でも電力自由化と電力システム改革が進みつつある中で、2020年には全ての電力供給エリアで法的な発送電分離が行われ、発電や電力小売りを行う部門と一般送配電事業を行う部門が別会社になったが、持株会社方式や子会社方式による法的分離に留まっている。再生可能エネルギーの導入が進む中で電力システム改革の問題点が浮き彫りなり、電力系統への接続ルールや接続費用負担の在り方の見直しが進められているが、CO2排出量の2030年46%削減そして2050年カーボンニュートラルに向けて多くの課題がある。再生可能エネルギーの主力電源化に向けて電力需給データ等の電力システムの情報開示を出来るだけ早くわかり易く行うことも求められているが、ISEPのEnergy Chartでは公表されたデータから様々なグラフでインタラクティブに分かり易くデータを分析できるようになっている[1]。電力市場が整備されている欧州ではすでにTSO(送電事業者)がデータをほぼリアルタイムで公表し、それらのデータをわかりやすく見える化するWebサイトも数多くある[2]。
2016年度より一般送配電事業者から法令に基づき電力会社エリア毎の電力需給の実績データ(電源種別、1時間値)[3]が1か月遅れで数値として毎月公表されており、2020年度末までの電力需給データが電力会社(一般送配電事業者)エリア毎に公表されている。そこで2020年度一年間の日本国内の電力需給データについて自然エネルギーを中心に整理してみた。ここでは公開された電力需給データに基づき日本国内での系統電力需要に対する自然エネルギーの割合などを整理している。これまで2016年度(2016年4月)から毎月のデータを電力供給エリア毎に集計してきたが、今回は2020年度の一年間のデータを集計している(図1,表1および表2)。その結果、日本全体の年間電力需要量に対する自然エネルギーの割合は2020年度の平均値では19.2%となり、2019年度の年平均17.9%から増加した。内訳としては太陽光発電が8.5%となり、前年度の7.4%から増加しており、水力発電の割合を上回っている。水力発電の割合は7.8%で、前年度の8.0%から減少した。バイオマス発電は前年度の1.4%から1.5%に増加し、風力発電も0.9%から1.0%と増加した。その結果、太陽光と風力発電を合わせたVRE(変動する自然エネルギー)の割合は9.5%となり、前年度の8.3%から増加している。ちなみに2016年度の時点では自然エネルギーの割合は13.8%で、太陽光発電の割合はまだ4.4%程度で2020年度の半分程度だった。
図1: 電力会社エリア別の自然エネルギーおよび原子力の割合(2020年度)
出所:一般送配電事業者の電力需給データより作成
表1: 電力会社エリア別の自然エネルギーおよび原子力の割合(2020年度,平均値)
出所:一般送配電事業者の電力需給データより作成
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RE比率 | VRE比率 | 太陽光 | 風力 | バイオマス | 地熱 | 水力 | 原子力 |
北海道 |
24.2% |
12.4% | 8.2% | 4.2% | 0.7% | 0.3% | 10.7% | 0.0% |
東北 | 33.3% | 13.7% | 9.1% | 4.6% | 4.1% | 1.5% | 14.1% | 0.0% |
東京 | 12.7% | 7.1% | 6.7% | 0.4% | 1.0% | 0.0% | 4.6% | 0.0% |
北陸 | 34.6% | 5.3% | 4.4% | 0.9% | 1.9% | 0.0% | 27.4% | 0.0% |
中部 | 17.5% | 10.0% | 9.6% | 0.4% | 0.0% | 0.0% | 7.5% | 0.0% |
関西 | 14.4% | 5.8% | 5.5% | 0.3% | 0.0% | 0.0% | 8.6% | 11.1% |
四国 | 31.2% | 15.6% | 13.8% | 1.9% | 3.6% | 0.0% | 12.0% | 0.0% |
中国 | 20.6% | 12.3% | 11.5% | 0.8% | 3.0% | 0.0% | 5.3% | 0.0% |
九州 | 26.8% | 15.8% | 14.9% | 0.9% | 4.3% | 1.5% | 5.2% | 26.0% |
沖縄 | 6.0% | 5.5% | 5.1% | 0.4% | 0.4% | 0.0% | 0.1% | 0.0% |
全国 | 19.2% | 9.5% | 8.5% | 1.0% | 1.5% | 0.3% | 7.8% | 4.3% |
東日本 | 17.9% | 8.9% | 7.3% | 1.6% | 1.6% | 0.3% | 7.1% | 0.0% |
中西日本 | 20.2% | 10.0% | 9.4% | 0.6% | 1.4% | 0.3% | 8.5% | 7.8% |
表2: 電力会社エリア別の自然エネルギーのピーク時の割合(2020年度)
出所:一般送配電事業者の電力需給データより作成
RE比率 | VRE比率 | 太陽光 | 風力 | バイオマス | 地熱 | 水力 | |
北海道 | 88.2% | 65.7% | 58.8% | 13.4% | 1.2% | 0.7% | 31.3% |
東北 | 108.8% | 78.3% | 72.8% | 18.3% | 16.5% | 2.6% | 32.1% |
東京 | 54.9% | 48.7% | 47.7% | 1.7% | 1.9% | 0.0% | 10.5% |
北陸 | 92.5% | 43.6% | 42.8% | 4.3% | 3.4% | 0.0% | 77.0% |
中部 | 82.5% | 73.7% | 72.7% | 2.0% | 0.0% | 0.0% | 20.5% |
関西 | 46.0% | 39.3% | 39.0% | 1.1% | 0.0% | 0.0% | 23.5% |
四国 | 113.7% | 91.6% | 87.9% | 7.3% | 7.0% | 0.0% | 33.8% |
中国 | 97.8% | 85.0% | 84.7% | 4.0% | 6.4% | 0.0% | 15.3% |
九州 | 101.1% | 90.4% | 90.1% | 5.1% | 7.7% | 2.6% | 17.2% |
沖縄 | 34.2% | 33.5% | 33.2% | 2.6% | 0.8% | 0.0% | 0.2% |
全国 | 69.6% | 57.4% | 56.4% | 3.6% | 2.5% | 0.5% | 17.6% |
東日本 | 65.3% | 51.9% | 50.1% | 5.5% | 4.0% | 0.6% | 15.7% |
中西日本 | 73.4% | 62.5% | 62.1% | 2.5% | 2.7% | 0.5% | 21.5% |
日本全体の自然エネルギーの電力需要に対する割合の月別の平均値では、2020年5月が27.5%と最も高くなっているが、前年の24.2%から大幅に増加している(図2)。この中で太陽光と風力発電を合わせたVRE(変動する自然エネルギー)の割合は13.7%となり、前年度の12.6%から増加している。1日の平均では2020年5月2日と5日に34.0%に達し、前年度の31.1%から増加し、VREについては5月2日の20.1%が最大で、前年度のVREの最大値17.8%から増加した。1時間値では同じ5月5日11時台の69.6%が最高で、太陽光が56.4%に達しており、風力の1.1%と合わせてVREの割合の最大値は57.4%になっている。これは前年度の自然エネルギーの割合の最大値62.9%、VREの割合の最大値51.2%、太陽光の割合の最大値50.5%から増加しており、太陽光だけで全国の電力需要(1時間値)の50%を超えている。
図2: 月別の電力需要に対する自然エネルギーの割合(2020年度)
出所:一般送配電事業者の電力需給データより作成
電力会社(一般送配電事業者)のエリア別では、2020年度の電力需要に対する自然エネルギーの割合の年間平均値が最も高かったのは北陸電力エリアの34.6%でだったが、水力発電が27.4%と大きな割合を占めている(図1)。東北電力エリアの自然エネルギーの割合は33.3%だったが、前年度の33.8%からわずかに減少した。これは水力発電が14.1%と比較的大きな割合を占めているが、前年度の15.7%から減少していることが要因となっている。一方で太陽光は前年度の8.5%から9.1%に増加している。東北電力エリアは風力発電の割合が4.6%と全国の中でも最も高くなっており、VRE比率は13.7%となる。バイオマス発電の割合も4.1%と高く、地熱発電も1.5%ある。東北電力エリアでは、1時間値で自然エネルギーの割合が2020年5月5日11時台に最大108.8%に達して初めて100%を超えた(図3)。このとき太陽光が72.8%、風力が5.5%とVRE比率も78.3%に達している。なお、2019年度は1時間値で自然エネルギーの割合が100%を超えるエリアは無かったが、2020年度は東北電力と同様に1時間値で自然エネルギーの割合が100%を超えるエリアとして後述する四国電力エリアと九州電力エリアがある。
図3: 東北電力エリアの電力需給(2020年5月5日) 出所: ISEP Energy Chart
北海電力エリアでは太陽光の8.2%に対して、東北電力エリアと同様に風力の割合も高く4.2%に達している(自然エネルギー全体の割合は24.2%)。東日本全体の平均では自然エネルギーの割合が17.9%と前年度の16.9%から増加したが、太陽光が7.3%となり、水力の7.1%を上回っている。東京電力エリアの自然エネルギーの割合は12.7%に留まっているが、ここでも太陽光が6.7%と水力の4.6%を上回っている。
自然エネルギーの割合で第3位の四国電力では、31.2%と前年度の26.8%から大幅に増加したが、VREの割合も15.6%と高く、前年度の13.4%から増加した。中西日本全体では、自然エネルギーの割合は20.2%に達して、東日本の割合17.9%よりもかなり高く、VREの割合も10.0%に達して、東日本の8.9%より高くなっている。
太陽光の割合が全国でも最も高いエリアになっている九州電力エリアでは自然エネルギーの割合は26.8%となり、前年の23.4%から大幅に増加した。特に九州電力エリアでは水力5.2%に対して太陽光が14.9%に達しており、変動する自然エネルギー(VRE)の割合も風力の0.9%と合わせて15.8%と全国で最も高くなっている。
九州電力のエリアでは2021年3月末の時点でFIT制度によりすでに1029万kWの太陽光発電が電力系統に接続しており、さらに接続契約申込及び承諾済みの太陽光が476万kWに達している(図4)。そのため、太陽光と風力を合わせたVREの比率は2020年度の平均で15.8%となり、前年度の13.2%から増加した。月別のVREの割合では2020年5月に21.9%に達し、前年同月の19.4%から増加している。一方でベースロード電源として優先給電ルールに基づき出力抑制を最後まで行わない原子力発電の比率も再稼働により高まり、4基の原発(合計出力約400万kW)が稼働している時期もあった。しかし、特重施設の未整備による稼働停止などもあり、2020年度の平均では需要に対して26.0%だったが、前年度の34.1%から低下した。月別では需要に対する原発の発電電力量の割合は2020年4月と2021年3月に最大で37.4%だったが、2020年10月に13.5%まで低下した(図5)。九州本土エリアにおいて2018年10月以降、本格的な太陽光の出力抑制が断続的に実施され、2020年度の1年間では出力抑制率は2.9%となったが、前年度の4.0%より減少した。そのうち2020年4月には出力抑制率が平均で10.6%に達しているが、2020年度1年間を通じた出力抑制率は2.9%になった。月別でも2021年3月の出力抑制率は7.0%だったが、前年同月の12.6%を大幅に下回っている。2019年10月以降、太陽光の予測誤差を考慮したルールの見直しがあり、オンライン制御を優先して活用するルールになったことや原発の稼動率の低下などが要因となり、2020年度は出力抑制の割合は前年度よりも低下する傾向にある。環境エネルギー政策研究所(ISEP)では、この九州電力エリアでの出力抑制を踏まえて、日本全国での自然エネルギー拡大を前提とした合理的な出力抑制に向けた9つの提言を行っている[4]。
- 「再生可能エネルギーの主力電源化」という政策目標を具体化すること
- 「柔軟性」(フレキシビリティ)コンセプトの導入とそれに向けた改善策を取ること
- VREを他分野で活用するセクター・カップリングに向けた準備をすること
- 化石燃料による火力発電を最小限に絞り込むこと
- 原発稼働スケジュールを見直すこと
- VREのオンライン制御を最大限活用すること
- 優先給電(出力抑制)ルールを見直すこと
- 出力抑制に対して経済的に補償すること
- 地域間連系線ルールの見直しと拡充を図ること
図4: 電力会社エリア別の自然エネルギー系統接続容量(2021年3月末)と電力需要(2020年度)
出所:一般送配電事業者の系統接続データより作成
図5: 九州電力エリアのVRE出力抑制率とVREおよび原子力の電力需要に対する比率の推移
出所:九州電力送配電(株)データより作成
参考資料
[1] ISEP Energy Chart http://www.isep.or.jp/chart/
[2] Agora Energiewende “Recent Electricity Data” https://www.agora-energiewende.de/
[3] 電力広域的運営推進機関(OCCTO) 系統情報サービス「需給関連情報/供給区域別の供給実績」 https://www.occto.or.jp/keitoujouhou/index.html
[4] ISEP「九州電力の自然エネルギー出力抑制への9の提言」2020年10月 https://www.isep.or.jp/archives/library/12913