REN21「自然エネルギー世界白書2019」公表:持続可能なエネルギー政策に関する消極的な政治姿勢が、国連の気候目標と持続可能な発展目標を停滞させた
2019年6月18日
国際的な自然エネルギー政策ネットワーク組織 REN21(本部:フランス、パリ)は、2019年6月18日「自然エネルギー世界白書 2019」を公表しました。
世界の発電量に占める自然エネルギーの割合は、現在4分の1を超え26%となった。しかし、現在の傾向のままでは私たちのエネルギーシステムを持続可能にするには不十分であり、すべての最終エネルギー消費部門について大胆な政策決定が求められている。
2019年6月18日 (火)パリ — 本日公表されたREN21の「自然エネルギー世界白書2019」(以下、本白書)によれば、自然エネルギーは世界中でますます電力での供給を拡大しているが、政策決定が一貫していないために、二酸化炭素排出量を削減して気候目標と持続可能な発展目標の達成に対して自然エネルギーが本来的に果たすことのできる役割が阻まれている。
本白書では、4年連続で新たに導入された自然エネルギーの発電容量が化石燃料と原子力の新規発電容量を上回ったことが報告された。2018年には太陽光発電だけで100 GWが導入され、これはフランスの電力需要の25%以上を賄う量に相当する。
しかし、温熱・冷房および交通部門では、脱炭素化を推進するための意欲的で持続した政策が多くの国々で欠けており、人々にとってエネルギー転換の便益が最大化されていない。これには、大気の清浄化やエネルギー安全保障も含まれる。
「もし各国が環境汚染を引き起こすエネルギーを下支えしている化石燃料への助成金をカットすれば、重要なブレイクスルーが起こるだろう」と、ラナ・アディブ(Rana Adib)REN21事務局長は述べている。自然エネルギーに有利かつ競争的な状況を作り出すために、意欲的な政策と規制の枠組みが必要不可欠である。それによって、自然エネルギーを育成し、より高コストで二酸化炭素を排出する燃料を置き換えることができる。2015年以降、40カ国が化石燃料補助金改廃を多少なりとも行ってきたが、2017年でも未だ112カ国が化石燃料への補助金を出し、少なくとも73カ国ではそれぞれ1億米ドル(約110億円)以上の補助金を出している。世界の化石燃料補助金の総額は、2017年で推定3,000億ドルであり、2016年と比べて11%増加した。
本白書は下記の点を明らかにしている:
- 太陽光発電と風力発電は、今や電力部門での選択肢の主流となった。90か国以上で1 GW以上の自然エネルギー電力設備が設置され、30か国で10 GW以上設置されている。少なくとも9カ国で、太陽光発電と風力発電が発電量の20%以上を供給している。 (デンマーク、ウルグアイ、アイルランド、ドイツ、ポルトガル、スペイン、ギリシャ、英国、ホンジュラス)
- 世界の自然エネルギーの進展は、もはや一部の数か国に偏っているわけではない。2018年には、欧州連合における自然エネルギーの年間導入量はやや増加し、中国の年間導入量および投資額は前年と比べ減少したが、世界的に見た自然エネルギーの普及は全体として安定したペースで拡大している。これは、自然エネルギーが世界的に有力な発電方法であることを示唆している。
- 都市はますます自然エネルギー普及の重要な原動力となっており、世界中で最も意欲的な自然エネルギー目標値のいくつかは都市が定めたものである。多くの場合、これらの都市の宣言や取り組みは国や州/地方のイニシアチブを超えている。ナイロビ(ケニア)、ダルエスサラーム(タンザニア)からオークランド(ニュージーランド)、ストックホルム(スウェーデン)、シアトル(アメリカ)まで、100以上の都市が少なくとも70%の自然エネルギー電力を使用し、また、少なくとも50の都市が電力、温熱や冷房、交通部門の自然エネルギー目標を定めている。
都市の自然エネルギー 都市の数と自然エネルギー割合 2017年
温熱利用および交通部門にエネルギー転換を拡大することにより取り組みを進めることは、各国にとって極めて大きな機会となる。自然エネルギーは世界の電力の26%以上を供給しているが、温熱利用に使用されるエネルギーに対してはわずか10%、交通部門に対してはわずか3%強の供給しかできていない。エネルギー部門間のこの不均衡は、ほとんどが不十分または不安定な政策支援が原因である。自然エネルギーの温熱普及政策をとる国は実際に減少している。
不十分な支援の下でも、交通部門と温熱・冷熱部門でのイニシアチブが実施されつつある。持続可能なバイオ燃料、電気自動車、および燃費政策により、交通部門における化石燃料への依存度は全体的に低下している。ブラジルの27%のエタノール混合義務やカリフォルニア州(米国)の低炭素燃料標準プログラムのような意欲的な政策により、自然エネルギーは交通分野に貢献している。温熱部門の政策には、エネルギー関連の建築基準、自然エネルギー温熱利用の奨励金や義務化、およびカーボンプライシング制度のような間接的なアプローチを含んでいる。カーボンプライシング制度は依然としてほとんど利用されていない。2018年末までに、制度を実施したのはわずか44の国政府、21の州/県、7の都市だけで、世界のCO2排出量のわずか13%に過ぎない
「各国は2020年には再びさらに意欲的な気候目標を立てる必要があるため、本白書では、経済全体にエネルギー転換の恩恵を広げることによって、活動を拡大し、人々の生活を改善するさまざまな機会が生まれることを示している。」とアルソロス・ゼルボス(Arthouros Zervos)REN21議長は述べている。
REN21と自然エネルギー世界白書について
REN21は政府、政府間組織、産業団体、NGOと科学者および研究者などの専門家による国際的なコミュニティにより形成された多様な主体のネットワークである。質の高い、最先端の情報を供給し、エネルギーに関する議論を形成する。REN21は持続可能なエネルギーの未来を構築する。知識とデータを駆使することで、REN21は持続可能なエネルギーについての考え方を変化させ、それによって決断を促し将来を描くことを目指している。
2005年に初めて発表されて以来、自然エネルギー世界白書(GSR)は自然エネルギー分野で何が起こっているかという概観を提供する。今年度の白書は2018年の発展と、世界的な市場、投資および政策の傾向に着目している。今年で15年目になるこの白書は、自然エネルギーに関する産業界の標準となっている。データは900人以上に及ぶ著者や貢献者の国際的なネットワークの協力を経て掲載されている。まとめると、本書の情報は自然エネルギーに関して考えや行動を促すための討論を方向付けるために用いられる。
インフォグラフィック、図、国および地域のファクトシートはこちらからダウンロードできます(英語):https://ren21.filecloudonline.com/url/ysphuvhv4tyxcpm4
メディア お問い合わせ
Laura Williamson
Communication and Outreach Manager
Tel: +33 6 03 06 02 58
Email: communication@ren21.net
参考
ISEPは、本レポートの日本関連データの取りまとめを行うと共に、飯田哲也所長がREN21の理事を務め、エリック・マーティノー(シニア・リサーチフェロー)が、この「自然エネルギー世界白書」の2005年の発行から中心的な役割を担ってきました。さらに2013年1月にはREN21と共同で「世界自然エネルギー未来白書」を編纂し、発行しています。
REN21「自然エネルギー世界白書」関連の資料は、ISEPの「自然エネルギー世界白書」特集ページからもダウンロードできます。ISEPによる日本語翻訳版もあります。
日本国内の自然エネルギー関連の情報についてはISEPが2010年から毎年発行している「自然エネルギー白書」をご覧ください。最新版は「自然エネルギー白書2018/2019サマリー版」です(2019年3月発行)。
日本の自然エネルギー市場について
ISEP「自然エネルギー白書2018/2019サマリー版」より
- 日本国内の太陽光発電は2018年までに累積設備容量が約5500万kW(55GW)まで増加し、中国、米国に次ぐ世界第3位となっている。2018年には650万kW(6.5GW)が新規に導入されたが、前年から約13%減少した(パネル容量DCベース)。日本の電源構成に占める太陽光発電の発電量の割合は、2018年に5%に達した(2012年にはわずか0.4%)。
- 太陽光発電市場の縮小は、主に電力系統への接続制約および入札制度などへの政策変更によるものであると考えられ、太陽光発電に関する様々なルール変更により市場拡大が「困難な方向」へ急速に進んでいる。2018年10月には、九州電力で太陽光の出力抑制が本格的に実施されたが、本質的には「優先給電ルール」や電力市場のあり方の見直しに踏み込む必要がある。
- 国際的な水準の約2倍と言われている太陽光発電のコストが急速に下がりつつあり、FIT買取価格の低下により非FIT・自家消費での事業化が可能になってきた。営農型太陽光発電も農業とエネルギーで地域活性化が期待できることから急速に関心を集めて広がりつつあるが、一方で、山林に設置する大規模な太陽光発電が「自然破壊型」として地域の合意形成が困難になってきており、2020年4月からは国の環境アセスメントが導入される。
- 2018年7月には「第5次エネルギー基本計画」が閣議決定され、「再エネの主力電源化」というキーワードが入ったが、それを実現するために系統問題を抜本的に解決する必要がある。
- 全ての自然エネルギーの発電設備の導入に対して系統の「空容量」や連系負担金が、引き続き最大の障害となっている。「日本版コネクト&マネージ」などの見直しが始まっているが、自然エネルギーの「優先接続」や「優先給電」が確保されない「ノンファーム型接続」などのルールが検討されている。
- 風力発電市場の拡大のペースは環境アセスメントの手続きや系統接続の制約で引き続き低調だが、特に洋上風力発電への期待が急速に高まっている。2018年12月には「再エネ海域利用法」が成立し、具体的な海域の選定などの検討が始まっている。
- バイオマス発電市場は、2018年までにFITの事業認定が1000万kWを超えたが、特にパーム油など輸入バイオマス燃料の持続可能性が問われるなど混迷している。パーム油などの液体燃料や10MW以上の大規模案件には入札制度が導入された。
このプレスリリースに関するお問い合わせ
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