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電力自由化では自然エネルギーの選択をより分かり易く(パブコメ意見)

「電力の小売営業に関する指針」改訂案に対するパブコメ意見

電力自由化では自然エネルギーの選択をより分かり易く

【要旨】

  • 消費者の知る権利や選択の権利を確保するため、発電事業者、一般送配電事業者および卸電力取引所等から小売電気事業者への情報開示のための自然(再生可能)エネルギー電気の発電源証明(GoO)等の仕組みを整えることが必要である。その上で、すべての小売電気事業者に電源構成等の表示を義務づけ、消費者にとってより自然エネルギーの選択が分かり易くできることが望ましい。しかし、この改定案では間接オークションや非化石価値取引市場の創設に伴い、電源構成が益々複雑化しわかりづらくなっている。
  • 新たに「地産地消」に加えて特定の地域産の電気であることを表示することが発電所の立地地域を小売供給の特性とする例として加えられたが、間接オークションの導入により特定の要件を満たさない場合には「卸電力取引所」に区分される他、非化石価値取引でも電源を特定することはできず、消費者の知る権利や選択の権利が確保されない。本来、地域間連系線を通した取引や非化石価値取引等でも発電所や電源種別と共に特定の地域・発電所産の電気であることを全ての電力取引において表示することを可能にする制度設計をするべきである。さらに制度設計と共に、デジタル化などのイノベーションを進めるべき。
  • FIT制度のもとで買い取られる再生可能エネルギー電力の「環境価値」の取り扱いは、FIT法に遡って再検討が必要と考える。従来より提言しているとおり、
    • 現状の「環境価値」(とくにCO2削減価値)の取り扱いは、FIT制度導入当初から制度設計上の誤りがあり、非化石価値取引市場の創設によりさらに問題が大きくなっている。消費者が特定の再生可能エネルギーの環境価値を入手することが可能な制度にすべきである。
    • CO2削減価値だけを「環境価値」とすることで、たとえば原発の環境負荷(放射能汚染)が無視されていることを是正し、再生可能エネルギーの持つ様々な付加価値(地域性、地域貢献、エネルギー安全保障、CO2排出削減等)を認める制度にすべき
    • 市民や消費者の知る権利や選択の権利を尊重し、市民や消費者によるエネルギー選択を可能とする制度設計が目指すべき

【背景】

すでに欧州では1990年代から電力システムの自由化や発送電分離がEU電力指令(1996年)に基づき進められた。2000年代に入ってからは2020年までの自然エネルギーの導入目標が国別に定められ、大量の自然エネルギーを扱うことのできる電力システムが求められ、第三次のEU電力指令(2009年)が定められた。その中で、販売する電気については電源構成の開示がこのEU電力指令で義務づけられ、欧州各国では前年実績の電源構成が開示され、購入する電気の電源構成をホームページ上などで知ることができるだけではなく、自然エネルギー100%の電気を販売する小売電気事業者も一定のシェアを得ている[1]。欧州では、発送電分離や電力自由化における規制機関の権限も強く、発電源証明制度(GoO)が整備され、電力市場などでも情報開示が積極的に行われている。この様な仕組みが消費者が利用する電気の中身を知った上で小売電気事業者を選ぶことになり、価格以外の電気の価値が正しく評価され、自然エネルギーへの理解が進むことにつながっている。その結果、欧州各国では、電力系統への優先接続や優先給電と共に電力システムの整備が行われ、自然エネルギーの割合はすでに30%を超える国もあり、さらに50%を超える高い目標を掲げて着実に導入を進めている国もある。

一方、日本国内では発送電分離が行われないまま業務用電力の自由化だけが先行したが、2016年度からの小売全面自由化(2020年までは規制料金制度は残る)以降、新たな電気事業者(新電力)のシェアは2017年度末時点で10%(件数ベース)を超えた程度に留まる。自然エネルギーの導入量についても2012年の固定価格買取制度のスタート以来、太陽光発電を中心に導入量が増加しているが2017年時点でも全発電量に占める割合は16%程度であり、太陽光と風力を合わせても6%程度である。その中で、電力システム改革の第二弾として2016年4月から電力の小売り全面自由化に合わせて、電力・ガス取引監視等委員会において「電力の小売営業に関する指針」(以下、「指針」)が決定され、必要に応じて改定が行われてきた。しかし、これらの改定ではあくまで様々な電力システム改革の制度や市場の仕組みに合わせて行われているもので、根本的な制度の見直しには至っていない。

【今回の改訂案の問題点】

今回の「電力の小売営業に関する指針」の改訂案は、電力の小売り全面自由化後に新たに創設される地域間連系線での間接オークション制度や非化石価値取引市場に対応して、消費者(需要家)への適切な情報提供(電源構成等の適切な開示方法を含む)などを徹底しようと努めているが、最初に指針を策定した電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合での審議と同様に、自然エネルギーの普及を進めてきた欧州での先行事例や多くの消費者団体等からの要望をほとんど取り入れることなく、既存の一般電気事業者や大手新電力の事情のみを考慮した不十分な内容になっている。この小売全面自由化にあたっては、2015年3月に改訂された消費者基本計画[2]でも表示の充実と信頼の確保などが謳われており、小売電気事業者が契約時に説明する内容だけではなく、広告や実績報告などにおいてもしっかりとした電源構成などの表示が一定のルールやガイドラインに基づき義務化されるべきである(現状では望ましい行為として努力義務に留まる)。しかしながら、指針の策定時に多くの消費者団体などが意見[3]を表明したが、根本的な問題点の議論や検討が無いままに指針が策定され、さらに今回の改定案が決定されようとしていること自体に大きな問題がある。そこで、このような状況を踏まえて、以下のとおり意見を述べる。

【提言内容】

  • 電源構成開示の大前提として、発電源証明(GoO)等の仕組みを整えることが必要
    • 小売電気事業者に電源構成開示を義務付ける際には、欧州で整備している「発電源証明」(GoO)と同様な電力取引に伴うデータベースやFIT制度の認定情報等を整えることが必要である。その際に、発電事業者や一般送配電事業者および卸電力取引所等からの情報開示も必要となる。
    • その上で、電源構成の開示に必要な各種情報が根拠を持って示されるように、電力市場などの情報公開を進め、電力・ガス取引監視等委員会がその実施を厳しく監視すべきである。
  • すべての小売電気事業者に電源構成開示を義務づけ電気のトレーサビリティを確保すべき
    • 登録をする全ての小売電気事業者に対し、供給する電気の電源構成を消費者に契約時に説明すると共に、ホームページ(メールなどインターネット上の手段を含む)や毎月の請求書などでわかり易く表示することを義務付けるべきである。
    • その際、原子力を含めた「ゼロエミッション電源」との表現は明らかに間違いであり、是正すべきである。環境価値は「CO2削減」だけではなく、たとえば原子力は他方で処理が困難な放射性廃棄物という大きな環境負荷を与えており、明らかにゼロエミッション電源」ではない。自然エネルギーおよび原子力発電に関する情報を別々にできるだけ詳細に表示すべきである。
    • 特定地域に立地する発電所で発電した電気の取引について、地域間連系線を跨って間接オークションで取引された場合や非化石価値取引市場で取引された場合の環境価値等についても発電源が特定できる(トレーサビリティ)制度として、消費者が自然エネルギーを選択をできるようにすべきである。
  • 「環境価値」(とくにCO2削減価値)の取り扱いを是正し、電源構成の開示を分かり易くすべき
    • そもそも「環境価値」に関する判りにくさや混乱は、自然エネルギー電気の「環境価値」をFIT法で消費者が負担して支援する賦課金に含めてしまった、当初のFIT法制度設計の間違いに由来する。本来、FIT法の賦課金は、まだ未成熟な自然エネルギー技術を過渡的・時限的に支援する性質の費用負担である。したがって、自然エネルギー電気がCO2削減や放射能削減を行う「環境価値」の負担の構図とは切り離して、本来なら温暖化対策で削減を行うべき事業者(電力会社や大規模事業所など)が調達できるように制度設計を見直すことで、この捻れた問題が解消する(参考資料:飯田哲也「自然エネルギー表示問題」(日本のエネルギーデモクラシー「第1回 自然エネルギーを「選べる」社会へ」)[4]
    • 指針の根拠法となっている電気事業法第2条は小売供給の条件について説明義務を定めるものであり、消費者の保護を目的としており、本来は消費者の知る権利や選択の権利を守るべきであり、環境価値を含め、供給する電気に関する情報を積極的に開示することを主眼に置くべきである。しかし、推奨されている電源構成開示の例をみると消費者にとってFIT電気の特性や卸電力取引所や他社からの調達した電気の内容など非常に判りづらいものになっており、消費者による自然エネルギーの選択を妨げる方向に向かっているように見える。

[1] シェーナウ電力(ドイツ) http://www.ews-schoenau.de/

[2] 「消費者基本計画」(2015年3月改訂)  http://www.caa.go.jp/adjustments/index.html

[3] 緊急アピール「需要家が選択できる電力市場を実現しよう!」(2015年12月) http://shizen-ene.blog.jp/archives/1048125052.html

[4] 飯田哲也「自然エネルギーを「選べる」社会へ」 http://www.energy-democracy.jp/857