REN21「自然エネルギー世界白書2018」公表:電力部門の変革は加速している − しかし、熱利用と交通でも早急な対策が求められている
2018年6月4日
178GWの自然エネルギーが2017年に全世界で導入された。
REN21の自然エネルギー世界白書(GSR)2018によれば、自然エネルギー発電設備は2017年に世界の発電容量の正味増加分の70%を占め、近年で最大の増加となった。しかし、合わせて世界の最終エネルギー需要の5分の4を占める熱利用と交通部門での自然エネルギー利用は、電力部門に比べて大きく遅れをとったままである。
本日発表されたGSR2018は、世界の自然エネルギーの概況を最も包括的に示す年次報告書である。
太陽光発電の新設容量は記録的な規模となった:2017年に新設された太陽光発電の設備容量は前(2016)年と比べて29%増の98GWだった。これは、石炭火力発電、天然ガス発電、原子力発電の正味拡大分の合計よりも多かった。風力発電も自然エネルギー発電の拡大に貢献し、世界全体で52GWが新設された。
新設自然エネルギー発電への投資は、火力発電への巨額の補助金が現在もあるにもかかわらず、火力発電所と原子力発電所の正味追加分への投資額の2倍以上となった。2017年には発電部門への投資の3分の2以上が自然エネルギーへと向けられた。その理由は、自然エネルギー発電のコスト競争力が高まっていることに加え、今後も電力分野での自然エネルギー割合は増加の一途をたどると考えられているからである。
自然エネルギーへの投資は特定の地域に集中している:2017年の世界の自然エネルギー投資の約75%が中国と欧州、米国に向けられた。しかしながら、GDPあたりの投資額で見ると、マーシャル諸島、ルワンダ、ソロモン諸島、ギニアビサウ、その他多くの発展途上国において、先進国や新興経済国と同等かそれ以上の投資が行われている。
もし世界がパリ協定に基づく目標を達成しようとするならば、熱利用部門と交通部門は電力部門と同じ道筋を、速く辿る必要がある。ところが熱利用と交通部門では以下の状況が見られる:
熱利用部門では自然エネルギーの導入はほとんど進まなかった:現代的な自然エネルギー[訳注]は2015年に世界全体の熱生産量合計の約10%を供給したにすぎない。電力部門の自然エネルギー目標は146カ国が設定している一方で、熱利用部門の自然エネルギー利用の国家目標は全世界で48カ国にしかない。
[訳注]「現代的な自然エネルギー」とは非効率で空気汚染を引き起こすバイオマス燃焼を除く、現代的な燃焼技術や排気処理による自然エネルギー利用を指す。
小さな変化は起こっている。例えばインドでは、太陽熱利用機器の導入量は2016年と比べて2017年に約25%増加した。中国は2020年までに建築物の冷房負荷の2%を太陽熱エネルギーにより賄う目標を持っている。
交通部門では、依然として化石燃料が圧倒的に優勢ではあるものの、電動化が進むことで自然エネルギー導入の機会となりうる:毎年3,000万台以上の電動二輪車や電動三輪自動車が世界の道路輸送で増加しており、120万台の電気自動車が2017年に販売され、2016年と比べて約58%増加した。電力は交通部門のエネルギー需要の1.3%を供給し、その4分の1が自然エネルギーによるものであった。さらにバイオ燃料は2.9%を供給した。しかしながら、全体として見ると、交通部門のエネルギー需要の92%は石油により賄われており、交通部門での自然エネルギーの利用目標を定めているのは42カ国にすぎない。
これらの部門を転換していくためには、正しい政策枠組みを実現することが必要であり、遅れている部門での自然エネルギー技術のイノベーションと発展を刺激する必要がある。
「『電気』イコール『エネルギー』とみなすことは自己満足につながっている」とラナ・アディブREN21事務局長は述べる。「我々は100%自然エネルギー電力の未来への道筋へ急速に突き進んでいるかもしれない。しかし、熱利用と交通となると、まるで時間がいくらでもあるかのように、ゆったりと進んでいる。残念ながら残された時間は多くはない。」
アルソロス・ゼルボスREN21議長はこう付け加える:「エネルギー転換を実現するためには、政府による政治的リーダーシップが必要となる。化石燃料と原子力への補助金をやめること、必要なインフラへの投資を行うこと、熱利用と交通部門への意欲的な目標と政策を確立することがその例である。こうしたリーダーシップがなければ、世界が気候変動と持続可能な発展に向けた誓約を達成することは難しくなるだろう。」
(翻訳:認定NPO法人環境エネルギー政策研究所)
REN21「自然エネルギー世界白書」について
REN21の自然エネルギー世界白書2018は、2017年末までの発展と傾向、可能な情報については2018年初頭までの傾向をまとめている。
自然エネルギー世界白書は2005年に初めて公表され、世界の自然エネルギー市場や産業、投資、政策動向についての状況と直近の進展、傾向をまとめた包括的かつ時宜に適した年次報告書である。分析や予測は意図的に排除されている。データは世界中の900名の貢献者、研究者、著者のネットワークから提供されている。www.ren21.net/gsr-2018
2005 年からエリック・マーティノー(Eric Martinot, 現在はISEPシニア・リサーチフェロー)のイニシアティブによってはじまったこの「自然エネルギー世界白書」は、世界中の研究者、 各国政府、国際機関、NGO、業界団体、その他多くの協力によってデータが収集されている。環境エネルギー政策研究所は初刊の2005年版の構想段階から継続的に協力し、日本語への翻訳もおこなっている。
「自然エネルギー世界白書2018」についての先行インタビューができます。
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REN21について
“Renewable Energy Policy Network for the 21st Century”(本部:フランス パリ)は、2004年に設立され、国際的な自然エネルギー政策に関する多様なステーホルダーをつなぐネットワーク組織。www.ren21.net/
REN21からのプレスリリース(日本語、英語ほか)や本レポート関連の発表資料もこちらからご覧になれます。www.ren21.net/status-of-renewables/global-status-report/
その他の参考資料
REN21「自然エネルギー世界白書」関連の資料は、ISEPの「自然エネルギー世界白書」特集ページからもダウンロードできます。「自然エネルギー世界白書2016年版」までのレポート(日本語、英語)、「自然エネルギー世界白書2017年版サマリー」(日本語)もこちらの特集ページに掲載しています。
ISEP特集「自然エネルギー世界白書」- www.isep.or.jp/gsr/
ISEPによる日本国内に関する自然エネルギーの年次報告「自然エネルギー白書2017」はWebサイトにてご覧いただけます。 ISEP「自然エネルギー白書2017」- www.isep.or.jp/jsr/2017report
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