ISEP所長メッセージ「フクシマから太陽の時代へ」
2018年3月11日
3.11東日本大震災・福島第一原発事故から7周年にあたって
あの「3.11」から本日で7年となる本日、東日本大震災および福島第一原発事故の犠牲になり失われた人々とその遺族の方々に対して、まずはあらためて深く哀悼の意を表します。
森友学園での財務官僚による公文書偽造、裁量労働制問題での厚労省官僚によるデータねつ造など、日本の国家システムへの信頼の基盤が「溶け落ち」つつあり、もはや「民主主義社会」とも「近代国家」とも呼べない状況が露呈する中で、世界史的な原発事故から丸7年を迎えた日本の原発・エネルギー政策は、残念ながら、ますます混迷と混沌の度合いを深めています。
昨年のメッセージでも掲げた、福島第一原発事故後に日本に招来した混迷と混沌は、以下のとおり、ほぼそのまま再掲でき、むしろ悪化しているといっても過言ではありません。
- 福島第一原発でメルトダウンした核燃料デブリの取り出しの見通しや増え続ける一方の汚染水など、「40年廃炉」などできるはずもなく、「絵に描いた餅」がはっきりしていること。
- 2017年4月に県外避難者への支援が打ち切られ、飯舘村や富岡町、南相馬市小高地区などの帰還準備地域での帰還が開始されたが、外部被ばくの線量レベルだけでも「放射線管理区域」を越え(年5ミリシーベルト)、さらに放射性ダストによる内部被ばくを考えれば「グローブボックス」(非密封線源を取り扱う密閉された空間)の中への帰還であること。
- 福島県中に野積みされている除染ゴミのフレコンバックは、飯舘村だけでも中間貯蔵所への運搬が100年超のペースであり、中間貯蔵所からの「30年で県外搬出」など空誓文であること。
- 福島県内で甲状腺がんと診断された160名(事故当時18歳以下)、そのうち手術を受けた患者84人のうち約1割・8人が甲状腺がんを再発しているほか、胃がんや悪性リンパ腫など他のがんや心臓疾患などが有意に増えている現実に向き合わず、原発事故の影響ではないという真逆の結論を先行させ、検査の縮小や放射線の影響そのものを否定する言説がまかり通り、いっそう混迷を深めていること。
- 福島第一原発事故に伴う事故処理(廃炉)や除染、損害賠償などの費用が22兆円超まで急増し、今後も間違いなく膨れあがることが確実な中、東京電力が負担すべきその費用を、密室での拙速な議論で国民に転嫁することが強行されようとしていること。
- 現在、第2次安倍政権で原子力・エネルギー政策の司令塔となっている今井尚哉首相政務秘書官など経産省原子力官僚の指揮の下で、根拠もない「原子力ルネッサンス」に踊らされて2006年にウェスチングハウスを法外な価格で買収した東芝が、世界的に異常な高騰と遅延、再エネ等の台頭による原子力市場の衰退のなかで崩壊状態に陥ったことにも懲りずに、今度は日立製作所による破たんの恐れが大きい英国への原発輸出を後押しし、経団連会長人事と引き替えにこれを国家ぐるみで債務保証するという「国家の私物化」が目に余ること。
こうした「太平洋戦争に敗戦した後で戦艦大和を造ろうとする」かの如き安倍政権の原子力・エネルギー政策に対して、グローバルには、再生可能エネルギー、とくに風力発電と太陽光発電が今後のエネルギー転換の主力としての位置を占めるに至りました。
2017年、世界全体で前年比30%増・98GWも拡大した太陽光発電は、ついに設備容量で400GWを超え、392GWの原発を追い抜きました。コストも、この5年で5分の1に下がり、最低価格で2セント/kW時(2円/kW時)を記録するなど、低コストの記録を更新しつづけています。
こうした風力発電や太陽光発電の普及のペースは、「技術学習効果」による継続的なコスト低下に裏付けられて、「指数関数的な成長」を遂げつつあります。世界で風力発電の普及が始まったのは、事実上、1980年のデンマークと米国カリフォルニア州です。その後、1988年にはこの両国の風力発電だけで、世界の電力供給の0.01%を発電しました。10年後の1998年には風力発電は世界の電力の0.1%を越え、その10年後の2008年には1%に到達しました。このペースでゆけば、2018年には風力発電が世界の10%を賄う可能性があることになり、実際に確認できる最新の2015年の統計によれば、風力発電は世界の電力供給の5%を供給しています。
1994年の日本から本格的な普及が始まった太陽光発電は、その後、2002年に世界の電力供給の0.01%を発電し、2008年半ばには0.1%を越え、2015に1%を超えて、ほぼ6年半毎に10倍に増えてきたことが分かります。このペースでゆけば、太陽光発電は2020年代の初めに世界の電力供給の10%を伺う勢いということになります。
つまり、今起きている太陽光発電と風力発電がリードする世界のエネルギー変革は、従来のメカニズムやスピードとは全く異なるのです。直線的な変化ではなく、「倍々ゲーム」(指数関数的)なスピードの変化によるものなのです。1%までの「中間点」までは従来の「主流派」に無視されていますが、1%の「中間点」を越えると、一気に量的な規模が大きくなるため、従来の秩序や構造を根底から塗り替える「破局的変化」(ディスラプティブ・チェンジ)を引き起こすようになります。これを「ソーラー・シンギュラリティ」と呼びます。
こうした中で福島は、地域主導の「太陽エネルギー革命」(ソーラー・シンギュラリティ)の大変革の起点の一つになろうとしています。
- 当研究所が全国ご当地エネルギー協会などと福島市で2016年11月に主催した「第1回世界ご当地エネルギー会議」の第2回がマリ(2018年11月)で開催されます。
- 会津電力や全国ご当地エネルギー協会、ふくしま自然エネルギー基金の代表である佐藤彌右衛門氏は、福島から人々の手によるエネルギー大変革を象徴する人物として、国内外で注目を集めています。
- 飯舘村で立ち上がった飯舘電力は、小型分散型の太陽光発電事業から着手して、営農型発電を初めとする50カ所もの事業へと急拡大しつつあり、地元の信用金庫や城南信用金庫との協働が始まりつつあります。
- 原発からわずか7km地点の富岡町で避難者・地権者主導の33MW・約90億円もの日本最大級のご当地電力「富岡復興ソーラー」が、幾多の困難を乗り越え、本年4月13日に竣工式を迎えます。
- 当研究所も2015年から福島事務所を設けて、福島県内でのご当地エネルギーへの取り組みを支援しています。
日本中・世界中で始まっているこうした大変革を知っていただくために、ISEP所長飯田哲也が企画・監修を務めた学習映画「日本と再生〜光と風のギガワット作戦」(河合弘之監督)を昨年公開し、本日3月11日から、AmazonにてDVDが発売開始となりました。世界で加速している現実と日本の立ち後れ、そして皆さん自身に未来への希望を持っていただける映画ですので、ぜひご覧下さい。
2018年3月11日
認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)
所長 飯田哲也