所長メッセージ「未来の視点から今日を積み上げる」
2016年3月11日
3.11東日本大震災・福島第一原発事故から5周年にあたって
あの「3.11」から本日で5年となります。東日本大震災および福島第一原発事故の犠牲になり失われた人々とその遺族の方々に対して、まずはあらためて深く哀悼の意を表します。
本年は、福島第一原発事故から5年、チェルノブイリ原発事故から30年にあたります。年々遠ざかる「その日」を風化しないよう忘れないようとする抗いはとても大切だと考えます。しかし、それ以上に大切なことは、未来の視点から今日を振り返り、今日という日を積み上げることではないでしょうか。30年後では取り組むことがもはや困難なこと・取り返しが付かないことでも、5年目の今日ならできることがあるはずです。5年目の今日から取り組まなければ30年後・100年後にはけっして生み出せないことがあるはずです。
福島第一原発事故から5年後の日本は、原発事故が原因で10万人もの方々が避難生活を余儀なくされ、福島第一原発の事故収束やその周辺地域の「除染」、健康影響が増えつつあることが疑われる放射能被ばく、そして避難者の賠償や生活再建など、全ての問題群で見通しどころか矛盾が深まり、全体として未だに混沌・混乱状況にあるように思われます。とりわけ、世界史的に最悪級の原発事故を人災によって引き起こしながら、十分な原因究明も行わず、誰も責任を取らず、情報公開や国民参加も欠いたまま、再び3.11以前の原子力安全神話の時代へと回帰しようとしている国の原子力・エネルギー政策は、その矛盾の中心にあるといえます。
他方、5年前に日本社会は不可逆的な変化を起こしました。3.11以前の日本では、原発を支持する国民の比率は6〜8割と高かったものの、多くは深く考えたとは思えない消極的支持に過ぎませんでした。ところが3.11後の日本では、その比率が逆転しただけでなく、あの国家的な危機をリアルタイムで共通体験した日本社会にとって「原発を無くしてゆくこと」は民族的な記憶に深く刻まれた、ある種の共通基盤になったと考えます。
私ども環境エネルギー政策研究所(ISEP)は、旧い考えに囚われた人たちによる旧い政治・旧い政策に惑わされることなく、日本社会の3.11後の「共通基盤」に立って、未来の視点から今日やるべきこと・できることを積み上げてきました。自然エネルギー財団の立上げを担い(2011年)、会津電力やほうとくエネルギーなど全国各地のご当地エネルギーの立上げを支援し(2012年〜)、全国ご当地エネルギー協会の立上げを担い(2014年〜)、ISEP福島事務所を構え(2015年)、そして3.11から5年目の今年は一般財団法人ふくしま自然エネルギー基金を立上げました。
世界史的な自然エネルギーシフトと分散エネルギー革命が加速度的に進展しつつある中、2015年12月には気候変動に関する画期的なパリ協定も合意されました。奇しくも3.11直後に導入された自然エネルギーの固定価格買取制度と3.11後の「日本社会の共通基盤」は、日本がそうしたグローバルな変化へと向かう豊かな土壌となると考えます。ISEPは、その豊かな土壌を活かした「未来の視点からの今日の積み上げ」をたゆまず続けてゆきます。
2016年3月11日
環境エネルギー政策研究所(ISEP)
所長 飯田 哲也