地域エネルギーを潰す入札制度ではなくFIT改良で「コスト効率化」を目指せ(提言)
2016年1月15日
総合資源エネルギー調査会の「再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会」が2015年12月に公表した報告書案(パブコメ)に対して、当研究所は下記の通り政策提言を発表いたします。(全文PDFはこちら)
提言の要旨
- 地域エネルギー事業を潰す入札制度に強く反対しFIT改良で「コスト効率化」を提案する
- パリ協定の実現を目指す、自然エネルギー導入のより高い導入目標値を目指すべき
- 認定制度の見直しと未稼働案件への対応はきめ細かく行うべき
- FIT制度の買取義務者の制度変更は慎重に行うべき
- 自然エネルギーの電力系統への「優先接続」ルールを確立すべき
自然エネルギー[1]の導入量について、2012年の固定価格買取制度のスタート以来、太陽光発電を中心に導入量が増加しているが2014年時点でも全発電量に占める割合は12%程度であり、太陽光と風力を合わせても3%に満たない。総合資源エネルギー調査会の「再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会」で検討されたFIT制度を含めた自然エネルギー導入促進のための制度改革では、経産省の公表したエネルギーミックスを前提とした自然エネルギー導入の仕組み、国民負担抑制の観点からの効率的な導入の仕組みや電力システム改革での効率的な電力取引・流通の実現などが論点となっている。環境エネルギー政策研究所(ISEP)は、この小委員会が2015年12月に公表した報告書案(パブコメ)に対して意見を表明すると共に、自然エネルギーの本格的導入を実現するための方策を以下のとおり提言する。
1. 地域エネルギー事業を潰す入札制度に強く反対しFIT改良で「コスト効率化」を提案する
太陽光発電の「コスト効率的な導入」をする制度改革が「最大限の導入」にブレーキをかけることが無いようにする必要がある。そのため、報告書案で示されている事業用太陽光の「入札制度」について、すでに先行して行われているドイツでの入札でも明らかなように、入札制度では少数の大規模事業者がほぼすべてを落札し、地域の事業者、協同組合など小規模な事業者などは締め出される。報告書案では「地域密着型の小規模は配慮」としているが、規模の大小が問題なのではない。地域密着型でも大規模を目指すこともあるが、開発投資体力の有無・大小で入札から閉め出されることになる。
そもそも入札制度はFIT制度とは異なる制度であり、英国で1990年から導入された「非化石燃料導入義務」(NFFO)など歴史的な経験では必ずしも良い結果を生んでいない。日本の太陽光発電は海外に比べて高コストだが、FIT制度の導入以後着実に下がっている[2]。これはFIT制度の一定の成果と見て良い。この成果を活かすかたちで、発電出力などの設備規模や設置形態別に、一定比率で毎年もしくはより短期間で調達価格を下げるなどで、きめ細かく「コスト効率化」を目指すことの方が明らかに確実である。FIT制度は、誰もがエネルギーを生み出す権利を具現化したものである。これに対して入札制度はトップダウンの大規模産業文化によるものであり、地域コミュニティとは政治文化的に相容れない。FIT制度によって、全国ですでに800もの「ご当地エネルギー」が誕生している[3]。「コスト効率化」も重要だが、それはあくまでFIT制度の改良の枠内で目指すべきである。
以下、地域エネルギー事業を潰す入札制度に強く反対しFIT改良で「コスト効率化」を提案する理由を述べる。
(1) ご当地エネルギー事業者や地域事業者が排除される
先に行われたドイツの入札でも明らかなように、入札制度では少数の大規模事業者がほぼすべてを落札し、地域の事業者、協同組合など小規模な事業者などは締め出される。改革案では「地域密着型に配慮して小規模は配慮」としているが、規模の大小が問題なのではない。地域密着型でも大規模を目指すこともあるが、開発投資体力の有無・大小で入札から閉め出されることになる。
(2) 歴史的に「失敗政策」である
入札制度は英国で1990年から導入された「非化石燃料導入義務」(NFFO)など歴史的な経験では必ずしも良い結果を生んでいない。それらは例えば以下。
- 必ずしもコスト効率化に繋がらず逆に無駄なコスト上昇(リスクプレミアム等)の経験(参考図1)
- 落札したものが必ずしも建設されない(NFFOでは30%ほど)
- FITに比べて複雑な制度設計となり、行政の非効率化や不正の余地が生まれる
- 長期的な市場見通しを不透明にするため再エネ産業を育まない(例:英国のウィンブルドン現象)
- 地域主導・小規模事業者を排除し、社会イノベーションの機会を減少させる
(3) 明確に表れている「コスト効率化」の成果を活かすべき
改革小委自ら示しているとおり(10/20資料1p11、参考図2)、日本の太陽光発電は海外に比べて高コストだが、FIT導入以後着実に下がっている。これはFITの成果と見て良い。この成果を活かすかたちで、たとえば一定比率で毎年もしくはより短期間で買取価格を下げるなど「コスト効率化」を目指すことの方が明らかに確実である。
(4) 固定価格買取制度の本質を歪める
固定価格買取制度(FIT)は、誰もがエネルギーを生み出す権利を具現化したものである。これに対して入札制度はトップダウンの大規模産業文化によるものであり、地域コミュニティとは政治文化的に相容れない。固定価格買取制度(FIT)によって、全国で800もの「ご当地エネルギー」が誕生している。「コスト効率化」も重要だが、それは固定価格買取制度(FIT)の枠内で目指すべきである。
2. パリ協定の実現を目指す、より高い自然エネルギー導入目標を前提とすべき
2015年7月に経産省が公表した2030年の長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)では、全発電量に占める自然エネルギーの割合が約20%と低い水準に抑え込まれており、本来目指すべき自然エネルギーへの本格的な転換を妨げている。そのため、多くの中長期的なメリットのある自然エネルギーの導入を支える賦課金を「負担」として捉えていることや、経営的な観点から一般電気事業者が原発を優先して自然エネルギーの系統接続を抑制する「接続可能量」などの問題を解決する必要がある。電力システム改革においては、自然エネルギーの系統への接続を最優先する「優先接続」や、各地域固有の資源として分散する自然エネルギーの様々な価値を消費者が理解し、選択できる制度のあり方が求められている。
すでに欧州では1990年代から電力システムの自由化や発送電分離がEU電力指令(1996年)に基づき、進められ、2000年代に入ってからは2020年までの自然エネルギーの導入目標が国別に定められたため、大量の自然エネルギーを扱うことのできる電力システムが求められ、第三次のEU電力指令(2009年)が定められた。その結果、欧州各国では、電力系統への優先接続や優先給電と共に電力システムの整備が行われ、自然エネルギーの割合はすでに20%を超えてさらに30%を超える高い目標を掲げて着実に導入を進めている。
この報告書案で示された固定価格買取制度の運用見直しでは、「自然エネルギーの最大限導入」が前提になっているはずである。しかし、自然エネルギーの本格的な導入に必要な「優先給電」は考慮されないまま原発が優先され、法制化された「接続義務」の系統接続ルールが電力会社によって骨抜きされ、実質的に拒否されようとしている。自然エネルギーのメリットをほとんど考慮しない見かけ上の「国民負担」や既存の電力会社中心の「接続可能量」を前提とせずに、持続可能性を考慮した自然エネルギーを最優先に固定価格買取制度の運用見直しを行うべきである。さらに、将来の自然エネルギーの発電設備の最大限の導入量に向けては、自然エネルギーの持つ多くのメリットを踏まえて、欧州の様な野心的な導入目標値を掲げて目指すため、それを着実に実施できる制度改革が必要である。現在の低い目標値のままでは、本来、最優先されるべき自然エネルギーが軽視され、制度改革が導入にブレーキをかける恐れがある。2030年以降の中長期の自然エネルギーの導入に関するより高い目標値は、COP21で採択された「パリ協定」で示された温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「脱炭素社会」を目指す気候変動対策としても重要であり、気候変動問題の国際的な合意事項として策定された温室効果ガス削減の国別の目標値(約束草案)もより高く設定しなおすべきである。
3. 認定制度の見直しと未稼働案件への対応はきめ細かく慎重に
FIT制度開始以来、現時点で6000万kWにも上る太陽光発電を中心とした未稼働案件について、大規模な太陽光発電については期限を区切って改めて認定を取得すという認定制度の見直しはこれまでの制度の歪みを是正するという意味では妥当である。この制度の歪みは、制度設計においても非住宅用太陽光の調達価格をコスト構造に合わせて規模別にしなかったことや、電力システム改革の遅れや電力系統の整備を計画的に進めてこなかったことが大きな要因になっているが、そもそも経産省とその外郭団体における手続きの瑕疵に起因していることを踏まえ、見直しにあたっては、以下のことに特に留意し、きめ細かく慎重な対応が必要である。
調達価格の適用に関する固定価格買取制度の運用の見直しについては、これまでの調達価格の決定時点を接続契約の締結時に変更することにより、電力会社による接続検討の期間やその回答によっては事業判断に大きな影響を及ぼすため、電力会社側の「接続義務」への真摯な対応と説明責任とが求められる。特に、太陽光以外の発電方式においては、調達価格の予見性が困難になることから、コスト情報の公開などで数年先の調達価格の予見性を高めたうえで、従来の接続申込み時の調達価格とすべきである。その際に、今回の運用見直しに伴う事業リスクの変化に対応して調達価格等算定委員会での調達価格の設定も、太陽光での規模別の価格設定など適切に行う必要がある。
4. FIT制度の買取義務者の制度変更は慎重に行うべき
FIT制度における買取義務者の変更により、小売電気事業者の自然エネルギーの調達方法が大きく変わり、特に地域の資源を活かして地方活性化を目指す地産地消や産直の事業モデルを計画している小規模な事業者や新規事業者への影響はとても大きい。発送電分離、卸電力市場の拡充、発電源証明制度などが整備されていない状況で、買取義務者を送配電事業者する場合は、そのデメリットを軽減する措置や制度が必要であり、制度変更は慎重に行うべきである。
FIT電気を規模の小さい卸電力取引市場に一括して販売した場合には、卸電力市場の取引価格が不安定になる可能性があり、進捗かつ段階的に行う必要がある。卸市場取引では小売電気事業者が発電源を特定できなくなるため、発電源が特定できるように小売電気事業者への適切な引き渡しを可能とする制度を設けるべきである。発電事業者が、小売電気事業者と直接取引をするオプションも設けると共に、既存契約の経過措置や新規契約での例外措置(地産地消、産直モデルなど)を設けるべきである。その際、小売電気事業者が電源構成表示や自然エネルギーの原産地表示を行うための手続きや制度の整備、欧州の発電源証明に類似する制度づくりが同時に必要である。
5. 自然エネルギーの電力系統への「優先接続」ルールを確立すべき
電力広域的運営推進機関(OCCTO)や電力取引等監視委員会(EMSC)が実質的な役割を果たし、送配電事業者の中立性・公平性や卸電力取引の透明性が確保されることが必須である。公共のインフラでもある電力系統の利用に関する公平性を確保するためにも、接続枠の確保や費用負担のルールの適正化は必要である。設備認定時期を接続契約以降にすることは大規模な発電事業者による空押さえの解決や防止には一定の効果があると評価する一方、中小規模や新規の事業者に対しては通常の発電事業の接続手続きを難しくする懸念もあり、電力会社の迅速な系統接続手続きへの対応と「優先接続」を組み合わせたルールが必要である。電力系統への接続の費用負担についても、発電事業者の特定負担を最小限に抑え、送配電事業者が計画的に送配電網の整備(設備形成)を行う上で、社会全体のインフラとして一般負担とすべきである。
本来、太陽光発電や風力発電に対する電力系統への「接続可能量」という考えが無用なものであり、欧州に比べて自然エネルギー導入が低水準の日本ではなおさらである。気象予測や電力会社間の連系線、分散型市場などの活用などで充分に対応可能なはずであり、経産省や電力会社の都合で「接続可能枠」を恣意的に設定すべきではない。新たな卸電力市場の拡充や、電力小売全面自由化、発送電分離などの電力システム改革と密接に連携して、本格的な自然エネルギーの導入に着実に備えていくべきである。
【注】
[1] 委員会等の固有名詞を除いて「自然エネルギー」で統一している。
[2] 再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会(第3回)資料1 p.11 参考図2
[3] 一般社団法人 全国ご当地エネルギー協会 http://www.communitypower.jp/
参考図1:EUにおける各国の自然エネルギー支援政策の比較(FITとクォータ・入札制度との対比)
(出典:EC“The support of electricity from renewable energy sources”, COM(2005) 627 final, Dec.2005)
参考図2:再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会(10/20資料より)
以上