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エネルギーの選択が可能な小売全面自由化を実現すべき(パブコメ意見)

当研究所は、政府の意見募集(パブリックコメント)「小売電気事業の登録の申請等に関する省令案」に対して、下記の通り意見を提出しました。(本文PDF


「小売電気事業の登録の申請等に関する省令案」に対する意見
エネルギーの選択が可能な小売全面自由化を実現すべき

認定NPO法人環境エネルギー政策研究所

要旨

  1. 再生可能エネルギー電力に関する環境価値の取り扱いは、本来守るべき消費者の知る権利や選択の権利ではなく、逆に消費者のエネルギー選択を困難にするものである。また、そもそもFIT法設計上で「環境価値」の取扱を定めた際のミスであり、是正すべきである。
  2. 消費者の知る権利や選択の権利を確保するため、発電源証明(GoO)の仕組みを整え、すべての小売り電気事業者に表示を義務づけるべきである。

背景

すでに欧州では1990年代から電力システムの自由化や発送電分離がEU電力指令(1996年)に基づき、進められ、2000年代に入ってからは2020年までの再生可能エネルギーの導入目標が国別に定められ、大量の再生可能エネルギーを扱うことのできる電力システムが求められ、第三次のEU電力指令(2009年)が定められた。その中で、販売する電気については電源構成の開示が2009年の第二次EU電力指令で義務づけられ、欧州各国では前年実績の電源構成が開示され、購入する電気の電源構成をホームページ上などで知ることができるだけではなく、再生可能エネルギー100%の電気を販売する小売電気事業者も一定のシェアを得ている[1]。欧州では、発送電分離や電力自由化における規制機関の権限も強く、発電源証明制度(GoO)が整備され、電力市場などでも情報開示が積極的に行われている。この様な仕組みが消費者が利用する電気の中身を知った上で小売電気事業者を選ぶことになり、価格以外の電気の価値が正しく評価され、再生可能エネルギーへの理解が進むことにつながっている。その結果、欧州各国では、電力系統への優先接続や優先給電と共に電力システムの整備が行われ、再生可能エネルギーの割合はすでに20%を超えてさらに30%を超える高い目標を掲げて着実に導入を進めている。

一方、日本国内では発送電分離が行われないまま業務用電力の自由化だけが先行したが、新たな電気事業者(新電力)のシェアは2014年度時点でも6%を下回っている。再生可能エネルギーの導入量についても2012年の固定価格買取制度のスタート以来、太陽光発電を中心に導入量が増加しているが2014年時点でも全発電量に占める割合は12%程度であり、太陽光と風力を合わせても3%に満たない。その中で、電力システム改革の第二弾として2016年4月から電力の小売り全面自由化を行うための電事法の改正法が2014年6月に国会で成立し、総合資源エネルギー調査会の電力システム改革小員会制度設計WGで検討が行われてきた。

今回の省令案の問題点

今回の省令案は、この改正法の中で制度開始前に小売電気事業者の登録申請の方法などを定めるものとなっている。経産省の発表では、別の政令で2015年8月3日からの事前登録の受付を始めることになっているが、2015年1月以来5か月ぶりに制度設計WGが開催されてこの省令案の内容が議論されるなど、事前登録のスケジュールありきで来年度にむけた準備が進んでおり、拙速感が否めない。特に一般家庭への小売全面自由化にあたっては、2015年3月に改訂された消費者基本計画[2]でも表示の充実と信頼の確保などが謳われており、小売電気事業者が契約時に説明する内容だけではなく、広告や実績報告などにおいてもしっかりとした電源構成などの表示が一定のルールやガイドラインに基づき義務化されるべきである。しかしながら、多くの消費者団体や日本弁護士連合会[3]などが意見を述べているように、そのような議論や検討が無いままに、今回の省令案が決定されようとしていること自体に大きな問題がある。そこで、このような状況を踏まえて、以下のとおり意見を述べる。

ISEP提言内容

(1)環境価値の取り扱いの是正をすべき

  • 「再生可能エネルギー電気が環境への負荷の提言に資するものである旨を説明してはならない」と定めている省令案第4条及び省令案第8条は削除するべきである。
  • 根拠法となっている電気事業法第2条は小売供給の条件について説明義務を定めるものであり、消費者の保護を目的としており、本来は消費者の知る権利や選択の権利を守るべきであり、供給する電気に関する情報を積極的に開示することを主眼に置くべきである。
  • 供給する再生可能エネルギーの電気が「交付金の交付を受けている」旨の説明が必要な場合には、第3条第1項において説明をすることを義務付けるだけで十分である。
  • そもそもこの混乱は、FIT法で支援される再生可能エネルギー電気の回避可能費用単価に含まれる「環境価値」を消費者が負担する賦課金に含めてしまった制度設計のミスに由来する。本来、こうした「環境価値」は削減義務を負う事業者が負担する「あるべき姿」で制度設計を見直せば問題が解消する(参考資料:飯田哲也「自然エネルギー表示問題」(日本のエネルギーデモクラシー「第1回 自然エネルギーを「選べる」社会へ」)[4]

(2)発電源証明を整え、表示を義務づけるべき

  • 登録をする全ての小売電気事業者に対し、供給する電気の電源構成を消費者に契約時に説明すると共に、ホームページ(メールなどインターネット上の手段を含む)や毎月の請求書などでわかり易く表示することを義務付けるべきである(省令案第3条第1項第23号及び第7条第1項第22号について)。
  • 前提として、欧州で整備している「発電源証明」(GoO)と同様な電力取引に伴うデータベースを整えるべきである。
  • その上で、電源構成の情報提供に必要な各種情報が根拠を持って示されるように、電力市場などの情報公開を進め、新たに設立される市場監視委員会がその実施を監視すべきである。

以上

[1] シェーナウ電力(ドイツ) http://www.ews-schoenau.de/

[2] 消費者基本計画(2015年3月改訂)  http://www.caa.go.jp/adjustments/index.html

[3] 日本弁護士連合会 http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2015/150617.html

[4] 飯田哲也「自然エネルギーを「選べる」社会へ」 http://www.energy-democracy.jp/857


お問い合わせ

認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)
〒164-0001 東京都中野区中野4-7-3
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