【プレスリリース】 固定価格買取制度の運用見直し等に対する意見と提言
2015年1月6日
固定価格買取制度の運用見直し等に対する意見と提言
認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所
2015年1月6日
ダウンロード:ISEPプレスリリース20150106
自然エネルギー(ここでは「再生可能エネルギー」と同義)による電気の固定価格買取制度(FIT制度)はスタートから2年余りで新規の設備認定が約7200万kWとなり、そのうち新規導入量は1300万kW以上に達している(2014年9月末現在)。しかし、この設備認定の約96%、新規導入量の98%が太陽光発電であり、FIT制度開始前からの移行分を含めた導入量(約2200万kW)の約81%を太陽光発電が占めている。
各電力会社では昼間最低負荷時の電力需要に対して系統接続申込量が大幅に超えることが明白になったため、2014年9月に九州電力、東北電力、北海道電力、四国電力から相次いで自然エネルギー発電設備に対する系統接続申込みに対する「回答保留」が突如として発表された。それに対して経産省は新エネルギー小委員会で審議してきた固定価格買取制度の運用見直しに加えて、新たに系統ワーキンググループで太陽光発電の「接続可能量」が電力会社毎に算定され、運用見直し案が12月18日に発表された。
この太陽光発電の「接続可能量」の算定とそれに基づく運用見直しは、これまでの設備認定や系統接続に対して電力会社や政府が十分な対応をしてこなかった結果の現れであり、すでに設定されている風力発電の「接続可能量」と同様に、今後の本格的な自然エネルギーの導入にブレーキをかける可能性が高い。12月19日から固定価格買取制度の運用見直し等に関する省令案に対する意見募集(1月9日締切)が行われており、1月中旬から来年度に向けて順次施行されようとしている。環境エネルギー政策研究所(ISEP)は、この意見募集(パブコメ)に対する意見を表明すると共に、自然エネルギーの本格的導入を実現するための方策を以下のとおり提言する。
1. 自然エネルギー導入を最優先とするべき
今回の見直し案では、「再生可能エネルギーの最大限導入に向けた固定価格買取制度の運用見直し」が前提になっているはずである。しかし、自然エネルギーの本格的な導入に必要な「優先給電」は考慮されないまま原発が優先され、法制化された「接続義務」の系統接続ルールが電力会社によって骨抜きされ、実質的に拒否されようとしている。「ベースロード電源」や「接続可能量」を前提とせずに、自然エネルギーを最優先に固定価格買取制度の運用見直しを行うべきである。
2. 自然エネルギー導入の野心的な目標値を設定すべき
将来の自然エネルギーの発電設備の最大限の導入量に向けては、欧州の様な野心的な目標値を掲げる必要がある。明確な目標が存在しないことにより、本来、最優先されるべき自然エネルギーが軽視される結果となっている。2030年以降の中長期の自然エネルギー導入に関する野心的な目標値は、気候変動対策としても重要であり、気候変動問題の国際的な合意事項として2015年3月頃までに策定が必要な気候変動に関する温室効果ガス削減の国別の目標値にも大きな影響を与える。
3. 徹底的な透明性と説明責任を求める
電力会社は「回答保留」を行う中で、少しずつ系統接続等に関する情報の公開が進みつつあるが、自然エネルギーの本格的導入に向けては、さらに固定価格買取制度や系統接続の検討やその結果に関する徹底的な透明性と説明責任が求められる。
4. そもそも「接続可能量」は撤廃すべき
本来、「接続可能量」という考えが無用なものであり、欧州に比べて自然エネルギー導入が低水準の日本ではなおさらである。気象予測や電力会社間の連系線、分散型市場などの活用などで充分に対応可能なはずであり、経産省や電力会社の都合で「接続可能枠」を恣意的に設定すべきではない。
その後、新たな卸電力市場の拡充や、電力小売全面自由化、発送電分離などの電力システム改革と密接に連携して、本格的な自然エネルギーの導入に着実に備えていくべきである。
5. 太陽光発電の「接続可能量」の算定方法に関する問題
今回の「回答保留」の事態を受けて、接続申込み量が「接続可能量」を上回るかどうかの検証が行われたが、結果的にはほとんど全ての電力会社で接続承諾済・見込量に対して「接続可能量」がほぼ同じレベルとなった(図1)。これは、電力会社が算定した「接続可能量」を、系統ワーキンググループの場でそれぞれオープンにした効果はあったが、結果的に電力会社が従来のルールに基づき算定した「接続可能量」を追認する形となっており、「接続可能量」がいかに恣意的な数字かを如実に示している。
図1: 各電力会社が算定した「接続可能量」などの比較(出所:資源エネルギー庁データからISEP作成)
太陽光発電の「接続可能量」算定の前提条件として、会社間連系線をほとんど活用しないとされているが、電力広域的運営推進機関が2015年4月からスタートするのを前にして、広域での会社間連系線の活用を行うべきである(電力会社によっては運用容量の1割未満の活用は見込んでいる)。
さらに、既存のほとんど全ての原発および建設中の一部の原発を含めて、震災前過去30年間の設備平均利用率を用いて原発の供給力を算定していることは大きな問題である。「接続可能量」算定の基準となる昼間最低負荷時の供給力で原発の占める割合が電力会社によっては6割程度となり、結果的に太陽光発電の「接続可能量」を大幅に引き下げている(図2)。震災後の原発は福島第一原発事故の深い反省を基にその原発依存度をゼロに向けて低減することが重要なはずである。深刻かつ重大な事故リスクや稼働に伴う莫大なコスト(過酷事故対策や損害賠償など)を評価すれば、原発の供給力は現在(2014年12月時点)と同様に限りなくゼロに近いと言わざるを得ない。原発をベースロード電源としてほとんど全ての原発を稼働する前提でその供給力を評価することは、自然エネルギーの本格的な導入に対して大きくブレーキをかける結果となる可能性がある。
図2:電力会社毎に算定された昼間最低負荷時の供給力および余剰電力対策
(出所:資源エネルギー庁データよりISEP作成)
6. 太陽光発電・風力発電の出力制御(抑制)は最小限にすべき
出力制御(実際には出力抑制)の対象範囲を従来の500kW以上から500kW未満に拡大するルール変更は、様々な形態の太陽光発電事業の実態を見ながら、公平性の観点からも適切に実施すべきである。10kW未満の住宅用太陽光までが出力制御の対象になり、優先順位への配慮はあるもの、規模が小さい太陽光発電設備ほど運用面や費用負担などへの影響は大きい。
さらに、出力抑制に関する従来の「30日ルール」が時間制へ移行することはルールの改善であり評価できるが、その出力抑制の時間が過大である。太陽光の場合、昼間の12時間に対して30日間に相当する360時間が出力抑制の最大時間(時間比で8%超)と提案されているが、欧州の場合、せいぜい1%程度の出力抑制に収まっている。
太陽光発電の出力抑制を地域グループ毎に発電を停止する方式で行うと、無補償での年間の発電量の減少が事業に与える影響が十%前後と過大になり、資金調達や事業計画そのものが困難になる可能性がある。出力抑制による事業への影響を最小限に抑えるため、日中のピーク時のみの出力を抑制するなどきめの細かい出力抑制を行う必要がある。
出力抑制に替わる措置として蓄電池の導入を進めることが検討されているが、むしろ揚水発電の積極的運用ができる支援策・運用変更として、揚水発電コストを系統費用に総括原価で乗せる料金制度などを検討すべきである。
7. 地域型バイオマス発電の出力制御は不要とすべき
これまで一律に火力発電と同等の出力制御の対象となってきたバイオマス発電について、地域型バイオマス発電(メタン発酵ガス発電、一般廃棄物発電、木質バイオマス発電・農作物残さ発電)などを優先する接続ルールを設けたことは評価できるが、計画的に発電できるバイオマス発電については、そもそも出力制御は不要である。
その他、化石燃料混焼発電の扱い、産業廃棄物を中心とするバイオマス専焼発電との区分けや、規模別の対応などをより明確化する必要がある。さらに、エネルギー効率の観点から熱利用を行うコジェネレーションを優先する制度が重要である。
8. 遠隔出力制御システムの導入義務づけは段階的かつ慎重に行うべき
出力制御を行うための遠隔出力制御システムの導入が新たに義務づけられる場合、今後、そのためのシステム構築や装置の開発が行われ、発電設備の規模に関わらず発電事業者が全ての費用負担をする可能性がある。今後、構築される遠隔出力制御システム構築のロードマップやその機能を明確にした上で、公益性の観点から送配電事業者側で費用負担をするルールを検討すべきである。さらに、導入済みの発電設備への導入も検討する必要があり、小売の全面自由化に合わせて導入が進められるスマートメーターや各種システムの構築との整合性をとりながら、段階的かつ慎重に行うべきである。
9. 接続枠の空押さえの防止では、中小規模の発電事業者への考慮が必要
公共のインフラでもある電力系統の利用に関する公平性を確保するためにも、接続枠の確保のルールの適正化は必要である。接続枠の確保を接続契約時点にすることは大規模な発電事業者による空押さえの防止には一定の効果があると評価する一方、中小規模の事業者に対しては通常の発電事業の接続手続きを難しくする懸念もあり、電力会社の迅速な系統接続手続きへの対応と組み合わせたルールが必要である。
10. 接続可能量を前提とした「指定電気事業者制度」は撤廃すべき
これまで北海道電力がこの「指定電気事業者制度」の対象となり、2013年7月より接続量が70万kWを超えた時点から、年間30日を超える無補償の出力抑制を条件に500kW以上の太陽光発電の系統接続を行ってきたために、接続承諾がすでに251万kWに達して今回算定された太陽光の「接続可能量」117万kWを大きく上回っている。この「接続可能量」を前提とした「指定電気事業制度」を撤廃し、まずは北海道電力での実績や課題を公表し、評価するべきである(すでに12月22日の時点で、九州電力など6社が追加指定されている)。
今回のルール変更で対象が拡大される発電設備について500kW未満の太陽光・風力が含まれることにより、特に新規の中小規模の太陽光発電事業への影響が懸念される。500kW未満の太陽光発電事業へ年間30日相当(太陽光の場合は年間360時間)を超える無補償の出力抑制を前提に系統接続の承諾が行われる。規模によらない一定の買取価格の元では、中小規模の発電事業の事業性は極端に悪化する可能性があり、これまで設備認定が進んできた大規模な太陽光発電事業(メガソーラー)に対して、本来、推奨されるべき地域型の太陽光発電事業の導入が抑制される懸念が大きい。よって地域別に出力抑制に対する新たな補償制度を設けることや、規模別の買取価格の適用などと組み合わせた、よりきめの細かいルールの策定が必要である。
11. 変更認定の対象拡大や調達価格関係の運用見直しはきめ細かく行うべき
運転開始前の認定発電設備の出力変更や太陽電池の基本仕様変更に対して、変更認定の対象としているが、公平性と共に太陽光発電事業の具体的な内容や地域の特性に応じた柔軟な対応が必要である。また、調達価格の適用に関する固定価格買取制度の運用の見直しについては、これまでの調達価格の決定時点を接続契約の締結時に変更することにより、電力会社による接続検討の期間やその回答によっては事業判断に大きな影響を及ぼすため、電力会社側の「接続義務」への真摯な対応と説明責任とが求められる。その際に、今回の運用見直しに伴う事業リスクの変化に対応して調達価格等算定委員会での調達価格の設定も必要である。
12. 福島および東北地方への特別な対応と共に地域主導型自然エネルギー事業を支援すべき
福島県内の事業者に対して福島県内にある東京電力の送変電設備の活用、自然エネルギー発電設備、送電線や蓄電池等の導入支援、避難解除区域等における優先的な接続枠の確保などは評価ができるが、さらに東北地方の被災地を中心に復興に資する地域主導型の自然エネルギー事業が進むための制度や支援が重要である。
13. 系統接続費用の負担原則を「シャロー接続方式」(送電部門負担)に転換すべき
ローカルの系統接続の問題として上位系統の制約の問題がある場合が増えており、入札募集方式の導入などが東京電力で試行されている。しかし、これは全ての系統接続費用を発電事業者が負担するという日本独自のルール(ディープ接続方式)を前提としており、普及の制約になっている。電力系統の公共性から考えれば、本来は電力会社の送電部門の負担で整備し、総括原価方式で送電(託送)原価とするルール(シャロー接続方式)への移行が望ましい。
ただしその際には、無秩序な開発が行われないよう、地域の自然環境・社会環境を考慮し、地域の合意形成にもとづく「ゾーニング」や、地域資源に応じて地方自治体が定める自然エネルギー開発に関する基本計画に従った開発であることが必要である。
14. 今後の導入拡大策のロードマップを明確にすべき
今後の自然エネルギーの導入拡大策として新エネルギー小委員会のとりまとめでは、系統への受入可能量拡大のための蓄電池の活用が謳われているが、欧州各国と日本の現状を比較するとすでに高い割合の欧州でも蓄電池の活用はその導入コスト面から将来の課題とされており、日本においても当面は導入拡大には不要である(非常時の活用など別用途での導入は可能)
一方で更なる系統の活用・増強は当面の課題として重要であり、明確なロードマップを策定する必要がある。広域的な系統利用を可能とするシステムを構築するために、優先給電ルールの見直しや地域間連系線の利用ルールを見直し、地域内系統や地域間連系線の強化の計画策定や強化の際の総括原価方式での費用負担のあり方などを検討する必要がある。
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