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【政策提言】 固定価格買取制度および自然エネルギー政策への提言

「固定価格買取制度および自然エネルギー政策への提言」
~日本の自然エネルギーの持続可能な発展のために~

2014年1月22日
認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所

【自然エネルギー政策への主な提言項目】

FIT制度を取り巻く様々な課題を踏まえた上で、自然エネルギー政策への主な提言項目を示す。詳細については、以下の提言内容を参照。

  • 太陽光など規模により発電のコスト構造が異なる場合や洋上風力発電などに対して、新たな調達価格の区分を設ける
  • 事業リスクを低減し、資金調達や事業の運用などを容易にする各種の規制や制度の改善が重要。
  • 調達価格や調達区分を定めるその際に必要なコストデータを着実に集積し、頻繁に情報公開を行うと共に・それらを活用する仕組み(データベース等)を整える。
  • 使用する燃料の種別やコストが大きく影響するバイオマス発電については、規模や燃料種別等によるきめ細かい条件を定め、それごとに調達価格の設定が必要。
  • 発送電分離や電力取引を視野に、送電網への実質的な優先接続や優先給電を実現し、現在の電力会社間連系を含む系統の増強・出力変動への対応を積極的に行う。
  • 再生可能エネルギーの本格的な普及に向かうためには、再生可能エネルギー統計の整備が不可欠。
  • 中長期的な視野でしっかりとした自然エネルギー導入の政策目標を掲げ、実効的な自然エネルギー政策を実施。

【固定価格買取制度に関する提言内容】

(1)  太陽光など規模により発電のコスト構造が異なる場合や洋上風力発電などに対して、新たな調達価格の区分を設ける

再生可能エネルギーの本格的な普及を進めるための調達価格および調達期間について、本格的な導入に必要な事業成立性を確保できる水準にする必要があるが、最新のコストデータや知見に基づき、予見性をもった設定が必要である。

  • 平成25年度の調達価格の見直しでは結局反映されなかったが、平成26年度以降の調達価格の検討に際してはこれまで新規に導入された発電設備のコストデータを含め、新たな知見を取り入れた適切な調達価格の設定が必要である。設備認定時に提供された事業者のデータにより、特に平成24年度には、1MWを超える大規模な太陽光発電(メガソーラー)について、10%以上の建設費用の低減傾向があることが分かっている。よって、太陽光発電については規模などにより発電のコスト構造が異なる場合には、新たな区分を設けるべきである。今後、規模や事業形態および地域の状況等に応じたきめの細かい設定と共に、今後、導入が進むことが期待される洋上風力発電などについては、できるだけ早期に調達価格を定める必要がある。
  • 事業リスクが高いとされた風力発電や地熱発電については、現状の調達価格の当面の維持と共に、事業リスクを低減し、資金調達を容易にする各種の規制や制度の改善が望まれる。また、後述するバイオマス発電については、バイオマス燃料の適切な調達を各地域で行うために、燃料種別だけではなく、コスト構造が他と大きく異なる石炭混焼のFIT制度からの除外や総合効率の高い熱電併給(コジェネレーション)を推奨する調達価格の設定などが望まれる。
  • 電力システム改革の実現により、電気事業者(電力会社、新電力など)や発電事業者が卸電力取引市場に容易にアクセスでき、発電事業者や電気事業者が電力市場で柔軟に売電するオプションを持つことも措置すべきである。
  • 普及に伴う導入コストの低減に伴い、原則年度毎に設定される新規の発電設備に対する調達価格を、予見性をもって低減していく必要がある。予め翌年度の調達価格の逓減率を定める方法が望ましいが、予見が可能な様にコストデータなどを積極的に情報公開することも重要である。そのためには、調達区分や調達価格を定めるその際のコストデータを着実に集積し、できるだけ頻繁に公表(ホームページ等)・活用する仕組み(データベース等)を整えるべきである。

(2) バイオマス発電については、規模や燃料種別等によるきめ細かい条件を定め、それごとに調達価格の設定が必要

使用する燃料の種別やコストが大きく影響するバイオマス発電については、規模や燃料種別等によるきめ細かい条件を定め、それごとに調達価格の設定が必要である。特に、木質バイオマスについては熱電併給や燃料のカスケード利用を前提とした買取価格の設定を行う必要がある。

  • バイオマス資源の特性から、地域資源の活用が前提となるため、大量の燃料を必要とする大規模な設備に対しては、一定の制限が必要である。発電規模の上限(例えば2万kW程度)を設定とすることや、発電規模に応じた調達価格を定めることが考えられる。発電規模の上限を設けない場合でも、比較的コストが低く、事業採算性の高い大規模な石炭混焼発電については、FIT制度の対象外とするか、新たな調達区分を設け、そのコストを反映した調達価格を定めるべきである。
  • バイオマス比率の測定精度は電力量の計測精度に比べて著しく劣るため、特に調達価格の高い未利用木材および一般木材などについては、バイオマス比率を100%に限定すべきである。また、エネルギー効率の向上、GHG排出量や持続可能性の観点から総合効率の高い熱電併給を前提とすることも重要であり、木質バイオマス(未利用木材、一般木材等)については、熱電併給を前提に設備の総合効率を60%以上とするべきである。
  • 使用するバイオマスの持続可能性などにも配慮したトレーサビリティの仕組みなどを整備し、日本国内における持続可能なバイオマスの利用を目指す必要がある(詳細は、2012年3月19日のバイオマス産業社会ネットワーク等からの提言を参照)。
  • バイオマス発電単価が法的に定められるFIT制度では、燃料のサプライチェーンに携わる全ての主体(山元、収集業者、チップ工場、発電所)が、高く売るために不正を行うインセンティブがある構造となっている。木質バイオマスについては、農林水産省がトレーサビリティのガイドラインを整備するとのことであるが、経産省は別途、根本的解決策を措置すべきである。

(3) 送電網への実質的な優先接続や優先給電を実現すべき

欧州で行われている発送電分離や電力取引を視野に、送電網への実質的な優先接続や優先給電を実現し、現在の電力会社間連系を含む系統の増強・出力変動への対応を積極的に行うべきである。特に風力発電については地域毎の分布に偏りが大きく、適地に大量導入するための送電網の整備が不可欠である。また、北海道などでは、さらに太陽光発電の大量導入を前提とした電力系統の情報公開や系統の整備が必要である。

  • 送電網への優先接続が達成されるための最大限の努力を電気事業者が行うために、やむを得ない理由で接続を拒否する場合には、必ず第三者による情報開示内容の正当性の評価を義務付けそれを公開すると共に、電気事業者は電力系統の増強や出力変動への対応に関する計画を示すことを義務付ける。
  • 地域の電力系統の整備状況により、出力抑制を前提とした系統連系が行われる場合には、出力抑制による機会損失が発電事業者の事業に悪影響を及ぼさないようにできるだけ配慮すべきである(調達価格の地域別の設定もあり得る)。一方で、年間日数で8%を超える出力抑制に対しては電気事業者側に補償の義務があることから、発電設備が集中する地域については、交付金の分配などで配慮が必要。
  • 自然エネルギーの発電事業者にとって技術的・経済的にみて優れていると考えられる接続可能な地点の提示が可能な時期を明示することを発電事業者に義務付け、これらの情報開示や評価については、回答期限を必ず定めるべきである(例:申請から1か月以内)。

(4) 既存設備の扱いは進められているが、これまでの実績の情報公開が必要

既存設備の運転が問題なく継続できるだけではなく、既存事業者のノウハウを活かしつつ、新たな設備導入へのインセンティブを生み出す仕組みとするために、既存設備を認定する際には、今後の新規事業の参考になるように、これまでのコストデータや運転データ(発電量など)の提示を義務付けるべき。特に、これまで設備認定されたRPS設備については、これまでの実績データを整理し、必要に応じて発電事業者や研究者が実績データを活用できる仕組み(データベース)を作るべきである。

(5) 住宅用太陽光発電の全量買取について

住宅用の太陽光発電(出力10kW未満)については、現状の余剰電力の買取制度を継続することがこれまでの経緯に配慮した形としてスタートした。しかしながら、本来は以下の理由により住宅用の太陽光発電についても全量買取に移行すべきである。実際に10kW以上の非住宅用の急速な導入増加に比べ、10kW未満の住宅用についてはFIT制度開始前のペースでの導入に留まっているのが現状である。

  • 家庭毎に電力の余剰率には10〜90%程度と大きな差があり、不公平を内在している。全量であれば、本質的に公平な制度となる。
  • 余剰のみ比べて飛躍的な普及が可能となり、導入量の拡大による技術学習効果によってコスト低下が早まり、長期的にはむしろ有利である。
  • 「余剰の方が省エネ効果」との指摘もあるが、一時的かつ限定的な効果に過ぎず、省エネはそれを目的とした施策や技術により対応することが本筋である。同じく「余剰の方が賦課金負担が小さい」との指摘もあるが、これは買取単価設定との見合いであるため、全量方式にしたうえで、適切な単価を設定すべきである。
  • なお、全量買取は既存の余剰制度との選択制にすること、全量買取は屋内配線を変えなくても「見なし」として扱うことにより施工費も低減できるため、既存制度からスムーズに移行できる。

【自然エネルギーの本格的な導入に向けた提言内容】

(6) 電気料金への賦課金などFIT制度の仕組みへの理解促進

自然エネルギーの普及を前提としてコストベースの買取価格の設定や送電網の整備を行った場合、2020年頃までの普及期の需要家負担(電気料金への賦課金)は、一時的に見た目には大きくなると予測される。ただし、再生可能エネルギーに関する負担は、化石燃料の負担を軽減する効果もあり、これまでも電気料金に含まれてきた他の化石燃料や原子力発電に関する負担と比較して考えることが重要である。むしろ、確実に自然エネルギーが普及することにより、国内事業への投資が進み、設備投資も大きく伸びるだけでなく、雇用の創出や地域の活性化が同時に進むという多くのメリットを評価すべきである。

(7) 回避可能原価の算定方法の透明化

現時点では賦課金算出のため、買取費用から回避可能費用を控除することとなっている。一層の透明性、客観性を確保するために、市場価格を適用すべきであるが、このためには速やかに電力システム改革の実現が必要である。当面は回避可能費用を適用するとしても、変動費だけでなく固定費も含んだ回避可能費用が適用されるための情報公開と、電力市場の整備を進めるべきである。

(8) 自然エネルギー統計の体制整備

FIT制度の実施状況やその効果を適切に評価し、自然エネルギーの本格的な普及に向かうためには、再生可能エネルギー統計の整備が不可欠である。太陽光発電を始め、風力発電、小水力発電、バイオマス発電に関する統計データの整備は途上であり、当研究所で取り組んでいる「自然エネルギー白書」や「エネルギー永続地帯」においても多くの推計に頼らざるを得ない状況である。設備の認定・導入に伴うデータと共に、地域別の小規模な自家発電を含む発電量や電気事業者毎の受電量のデータなどを月ごとに集計し、公表する必要がある。

(9) 自然エネルギー導入の政策目標の策定

再生可能エネルギーの本格的な導入には以下の様な様々なメリットがあり、現在検討が進んでいる新エネルギー基本計画などで、中長期的な視野でしっかりとした自然エネルギー導入の政策目標を掲げ、実効的な自然エネルギー政策を実施していく必要がある。

  • 原子力や化石燃料を代替し、将来のエネルギー需給において基幹的な役割果たす再生可能エネルギーを大量に比較的短期間に導入することができる(欧州や世界各国での成功事例)。
  • 原子力の安全性や経済性に大きな疑問符がつき、そのリスクを考慮する場合には、短期的には天然ガスや石炭•石油など化石燃料にシフトすることも考えられるが、化石燃料の将来の供給リスク(供給ピークによる価格高騰)や気候変動対策の世界的な流れから化石燃料への依存度も将来的に下げることができる(原発依存度の低減、温室効果ガスの大幅な削減)。
  • 設備投資、事業投資など国内投資や雇用の拡大による経済的な効果。再生可能エネルギーのポテンシャルが豊富な地域における事業により、地域の経済活性化を実現できる。
  • 国内の再生可能エネルギー産業を成長分野として、国際的な再生可能エネルギー市場へうって出られる企業群を生み出すことができる。

(10)  地域主体の自然ネルギー事業の仕組み作り

太陽光発電や風力発電など自然エネルギー事業を各地域で主体的に進めるには、土地利用など社会的な合意形成を適切に進めるための仕組み作りが必要である。太陽光発電では1000kWを超える大規模な事業が増加しており、風力発電については、従来から数万kW規模のファームが主流となっている。地域での自然エネルギー事業の地域のオーナーシップや土地利用に対する社会的合意をスムーズに進めるための条例やガイドラインなどの制度作りが必要である。

  • 地域での自然エネルギー事業に関するガイドラインの制定
  • 予防的な土地利用のゾーニング(ポジティブ・マップ)
  • 事業への地域のオーナーシップや意思決定プロセスへの参加、事業利益の地域への還元など

(11)   先行する欧州などの経験に学ぶ

世界では約100の国と地域でこの固定価格買取制度(FIT制度)が導入され、特に先行するドイツでは2000年にFIT制度を導入して、2012年には約23%の電力が再生可能エネルギーにより賄われており、2020年には35%以上、2030年には50%以上を目標としてる(日本は大規模な水力発電を含めて現状11%程度で、目標も2020年14%に留まる)。ドイツの太陽光発電については、2012年末までの累積導入量が約3000万kW以上に達し、日本の累積導入量700万kWの4倍以上、国全体の電力需要から考えると10倍程度の割合の太陽光発電が導入されていることになる。風力発電に至っては日本の20倍程度の割合を導入している。ドイツでは、これまでの経験からFIT制度の内容を少しずつ調整しながら、持続的な再生可能エネルギーの導入政策を進めているが、2022年までの脱原発を含むエネルギーシフト政策が国民の理解と共に着実に進められている。この様に自然エネルギーの本格的な導入や電力システム改革などで先行する欧州各国の経験に学び、国際的な政策ネットワークを構築する中で、日本の自然エネルギー政策や電力システム改革などを再構築していく必要がある。