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【プレスリリース】自然エネルギー固定価格買取制度(FIT)施行一周年にあたって~大きな成果と見えてきた課題~

昨年2012年7月1日に施行された自然エネルギー(再生可能エネルギー)電気の固定価格買取制度(FIT制度)「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下、本制度という)が、本日、施行一周年を迎えた。

わずか1年で、太陽光発電の国内出荷量が前年度比2.7倍の381万kW (2012年度、太陽光発電協会調べ)に達し、本制度の設備認定は1300万kW(2013年2月末現在)、2012年の日本国内の自然エネルギーへの投融資額は約1.6兆円に急成長するなど大きな成果を達成する一方で、課題もはっきりと見えてきた。

以下、本制度のこれまでの評価と現状での課題を示し、日本国内の各地域での自然エネルギーの本格導入に向けて、ここで改めて自然エネルギー政策に対する提言をする。

本制度は、すでに世界中で80以上の国と地域が採用している自然エネルギーによる電力の普及の切り札とも呼ぶべき制度である。実際に、日本で2012年7月に開始された本制度の設備認定の実績は、2013年2月末現在で1300万kWを超えているが、この設備容量は日本国内で1990年以降20年かけて導入されてきた自然エネルギーの発電設備に匹敵する[1]。ただし、この設備認定の約9割以上は太陽光発電が占めており、特にメガソーラー(1000kW以上の太陽光発電)が約5割を占めるという偏った状況になっている。一方で、太陽光発電を中心に日本国内での自然エネルギー市場は急成長しており、国連環境計画(UNEP)のレポート[2]によると2012年の日本国内の投資額は160億ドル(約1.6兆円)で世界第4位となり、世界市場全体の市場(2440億ドル)の約7%を占めた。

本制度の運用においては、本制度で先行する欧州各国で得られた知見を活かすと共に、日本国内の自然エネルギーの現状の課題を十分に考慮する必要がある。本制度のスタート時に定められた調達価格や調達期間など本制度の内容については、当研究所がこれまで提言してきたポイントがある程度反映されていた[3]。しかし、平成25年度からの調達価格の見直しの機会が平成24年度末にあったにも関わらず、現状の課題を解決するためのあるべき調達価格の区分や情報公開、電力系統への優先接続や優先給電の徹底など多くの重要な課題も残されている。

さらに、日本において持続可能な社会を実現するために欠かせない自然エネルギーの本格的な普及の為には、本制度を取り巻く様々な課題があり、これらを継続的に解決すると共に、見せかけではない本質的な電力システム改革や、自然エネルギーに関する中長期的な導入目標の設定や情報公開、様々な規制・制度の改革が必要である。

【FIT施行1周年の現状と課題】

(1) 設備認定1300万kW、事業用太陽光発電84%、運転開始は約1割

2012年7月にスタートした本制度について、公表されている2013年2月末までの設備認定および運転開始の実績について図1に示す。なお、本制度に関するデータは、本来、毎月更新されるはずであるが、この2013年2月末のデータは5月中旬になって初めて公表され、多くの国民が費用負担を含めて関わりを持つ制度として情報公開の課題は多い。2月末までに設備認定された設備容量は全体で1306万kWに達しているが、特に出力10kW以上(非住宅用)の太陽光発電については1100万kWを超えており、設備認定全体の84%を占めている。このうち出力1000kWを超えるいわゆるメガソーラーは644万kWに達し設備認定全体の実にほぼ5割を占めている。本来、発電設備の規模が大きいほど設備の建設費用単価はさがり、事業の採算性が高まるため、調達価格が10kW以上一律の現状では大規模な事業への参入が極端に進むと考えられる。

一方、住宅用を含めた太陽光全体では1226万kWと設備認定全体の94%に達するが、実際に2月末までに運転を開始した設備は126万kW、設備認定の10%程度に留まっている。特に10kW以上の太陽光発電のうち運転開始された設備は42万kWと設備認定された設備のうち4%程度に留まっている。建設期間や3月以降の情報が公開されていないこともあるが、電力会社との電力系統への接続にまつわる様々な問題で設備認定されても事業を断念するケースも多いと考えられる。

固定価格買取制度の設備認定および運転開始実績

1:固定価格買取制度における毎月の設備認定の状況(累積)20132月末の運転開始状況

(2)  太陽光発電に関する電力系統の課題、特に北海道

太陽光発電に関して地域別の状況を見るために、図2には、都道府県別の太陽光発電設備の認定状況(2013年2月末現在)を設備認定の多い都道府県の順番に示す。土地の比較的安い北海道や九州地方で1000kW以上の大規模な太陽光発電設備(メガソーラー)の認定が多く、都市部では10kW未満の住宅用や1000kW未満の設備の認定の比率が比較的大きくなっている。しかし、特に北海道電力の管内では3月末時点で出力2000kW以上の太陽光発電設備の受付が157万kWに達しているにも関わらず、北海道電力は電力系統への接続限度を40万kWとしており、その根拠は明確ではない。さらに北海道電力の管内では出力500kW以上の太陽光発電設備について、系統への接続量が70万kWを超えた場合に、出力抑制の際の「無補償化」が検討されている[4]。これらの課題の解決には、電力系統の運用や整備に関する情報公開や中長期的な見通しを明確にすることが望まれる。本来、出力抑制に対する補償費用を、電力会社の負担とすべきではなく、本質的な電力系統の中立な運営・整備の観点から「無補償化」という一時しのぎの対応は望ましくない。さらに、5月末に行われたバンク逆潮流制限に係る各種規定の改正では、これまで認められなかった配電用変電所でのバンク逆潮流が保護装置の設置を前提に認められることとなった。今後、この費用負担を明確にする必要があるが、電力需要の少ない地域での電力系統への接続が容易となるような効果が期待される。

固定価格買取制度の都道府県別の設備認定実績(2013年2月末)

図2:都道府県別の固定価格買取制度における太陽光発電設備の認定状況(2013年2月末)

(3) 風力発電は既存設備からの移行が中心、新規導入は準備段階

事業用(出力20kW以上)の風力発電については、IRR(内部収益率)8%を想定した比較的高い調達価格が設定され、平成25年度の新規導入にもそのまま適用されることになった。しかし、風況や電力系統などの立地条件や環境アセスメントなど調達価格以外の事業へのハードルが多い。風力発電の設備認定は2月末で62万kWに達しているが、その設備認定のペースは環境アセスメントなどの準備期間の長さにより太陽光発電に比べるとまだまだ遅い状況であり、実際の運転開始も設備認定された設備の5%程度に相当する6万kWに留まっている。太陽光発電が集中する北海道などの地域では、すでに設備認定が電力会社の公表する接続限度を超えており、導入に時間がかかる風力発電への配慮が望まれる。また、東北や北海道など、風力発電に適した風況の良い地域について電力系統を計画的に整備するための調査や仕組みの構築が的確に実施されることが望まれる。

(4) 地熱発電や小水力の検討が各地で進むも、長期間の調査や手続きを要す

地熱発電では設備の規模により2段階の調達価格が定められているが、設備認定は2月末で0.4万kW程度に留まる。地熱発電については、調達価格が比較的高く定められ特に1.5万kW未満についてはバイナリ―方式を含む比較的小型の発電設備について各地で事業化の検討が始まっている。しかし、数千kW規模の事業化計画が前に進む一方で、本格的な数万kW規模の地熱発電設備については、資源調査から環境アセスメントまで非常に長期に渡る調査や手続きが必要となり、運転開始までには10年以上かかると言われている。資源調査への支援や環境アセスメントの手続期間の短縮化などが課題となっている。小水力発電については、200kWと1000kWを境に三段階の調達価格が定められているが、2月末時点の設備認定が2.8万kWになったが、運転開始は600kWと約2%に留まっているのが現状である。

(5) バイオマス発電の計画が各地進むが、持続可能な森林資源の確保などが課題

バイオマス発電に関する本制度における調達価格の設定は、他の発電種別と比べて特殊で、発電の規模ではなく、バイオマス燃料の種類に応じて調達価格が定められている。例えば、畜産バイオマス(バイオガス)や間伐材等の未利用木材は調達価格が高く、木くずや生ごみなどの廃棄物は低く設定されているため、より高い調達価格が得られる未利用の間伐材など木質燃料の認証制度(トレーサビリティ)や燃料の安定供給確保、サプライチェーンの確立が重要とされている。さらに大量の燃料を必要とする石炭混焼に対する懸念、規模別の調達価格や熱利用(熱電併給)の評価なども考慮すべきという指摘や提言が従来から行われており、日本国内の森林資源の保護と有効活用という視点からも検討すべき課題は多い。

(6) 地域エネルギー事業におけるファイナンスの期待と課題

本制度に呼応して、自然エネルギーの発電事業者だけでなく、自然エネルギー資源が豊富な国内の各地域において自治体や民間の関係者などの期待は大きく、各地域の関係者が主体となり事業化の検討が進められている。しかしながら、大規模な太陽光発電事業の多くは大企業によるコーポレートファイナンスによる資金調達とみられ、信用力の高い企業にとっては、日銀の金融緩和政策の継続による低金利状態が継続し、安定した資金調達環境が続いている。また、各地域の金融機関においても太陽光発電に対する融資制度が整ってきているが、比較的小規模なプロジェクトについては金融機関による事業リスクの評価が難しい面もあり、事業開発段階での資金やノウハウの支援、信用保証制度の整備などが求められる。太陽光発電以外においても、小水力発電、風力発電、バイオマス発電等地域での事業開発段階において社会的合意形成や資金調達面で停滞しているプロジェクトも多く、こうした面での事業開発の初期段階での支援策等の整備が課題となっている。

(7)  地域主導型自然エネルギー〜コミュニティパワーの必要性

今、全国各地で、大企業によるメガソーラー用の土地の囲い込みが進んでいる。風力発電も同様である。しかし、自然エネルギーが地域分散型であり、かつ地域の資源を使う技術であるがゆえに、こうした地域外の企業による土地の囲い込みは、植民地的な開発と重なって見える。これに対して、日本国内の各地域で自ら地域のエネルギー事業を興す「コミュニティパワー」と呼ばれる動きも続々と起きている。地域のエネルギー事業を自ら興し、地域の人たちが中心となってその計画を進め、その(経済的・社会的な)便益を地域社会が享受することを「コミュニティパワー3 原則」と呼ぶ。このように、世界中で加速度的に進んでいる自然エネルギー革命が、ますます地域コミュニティによって担われていることは、最も重要な動きである。長く一部の人たちに独占されてきたエネルギーが、幅広い人たちによって担われる、社会の構造転換が起きようとしている。

【コミュニティパワー3 原則】 

  • 地域の利害関係者がプロジェクトの大半もしくはすべてを所有している
  • プロジェクトの意思決定はコミュニティに基礎をおく組織によっておこなわれる
  • 社会的・経済的便益の多数もしくはすべては地域に分配される

※  固定価格買取制度の様々な現状の課題を解決すると共に、自然エネルギーの本格的な導入に向けた提言として、自然エネルギー政策への主な提言内容については、ISEPプレスリリース(2013年1月24日)の内容を中心に別紙に再掲する。

別紙:「自然エネルギー政策への主な提言」


[1] ISEP編「自然エネルギー白書2013」2013年5月

[2] UNEP, “Global Trends in Renewable Energy Investment 2013”, June 2013

[3] ISEPプレスリリース「自然エネルギー固定価格買取制度のスタートにあたり」2012年7月