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第7次エネルギー基本計画への提言

環境エネルギー政策研究所は、以下のとおり国の第7次エネルギー基本計画(案)に対して「1.5°Cに整合する自然エネルギー100%への抜本的なエネルギー政策の転換を」として以下の9項目を提言する。


第7次エネルギー基本計画への提言

1.5°Cに整合する自然エネルギー100%への抜本的なエネルギー政策の転換を

提言項目

  1.  ⾃然エネルギー最優先原則を復活させた上で導入加速化とルールの整備を
  2. ⾃然エネルギー100%による2050年炭素中立に向けて2040年電力分野で100%を目指す
  3. 自然エネルギー・省エネルギー・地域主導を「三本柱」へ
  4. 小規模分散型の自然エネルギーによるGXを
  5. 地域主導・分散ネットワーク型エネルギーとデジタル化への⼤転換へ
  6. 「3.11 福島第⼀原発事故」の教訓を踏まえた現実的な脱原発を
  7. 脱石炭の早期実現と柔軟で強靭な電力システムへの規制改革を
  8. 電力・熱・交通・産業分野のエネルギー統合化と脱炭素化
  9. 情報公開や市場の透明性と共に国⺠参加の開かれた議論の場と政策決定プロセスを

要旨

パリ協定およびグラスゴー協定により国際的に産業革命以降の気温上昇を1.5℃以下に抑制することが合意される中、第7次エネルギー基本計画は、2021年に閣議決定された2030年度までの第6次エネルギー基本計画を2040年度に向けて見直す形で総合資源エネルギー調査会基本政策分科会での審議が行われた。

2030年度までの計画については、2021年に閣議決定された第6次エネルギー基本計画や地球温暖化対策計画に基づいており、温室効果ガスを2013年比で46%削減(さらに50%の高みを目指す)として新たな地球温暖化対策計画(案)でも目標の見直しは行われていない。

一方で、昨年の気候変動枠組条約締約国会議COP28では、2030年までに自然エネルギー(再生可能エネルギー)発電設備を3倍にするなど、1.5℃目標に向けた国際的な対策の方針がUAEコンセンサスとして合意された[1]

しかし、国内では2030年の自然エネルギーの導入目標(電源構成上36~38%)の見直しはされず、2024年12月に公表された第7次エネルギー基本計画(案)では、「再生可能エネルギーに最優先の原則で取り組む」ことが削除され、主力電源として最大限導入する方針は示されたものの、特定の電源や燃料源に過度に依存しない電源構成を目指すことや、脱炭素電源として再生可能エネルギーと合わせて原子力発電を「最大限活用」することが盛り込まれた。

そのため2040年の電源構成案で自然エネルギー4割〜5割という、発電電力量で従来よりも後退するような導入目標が示された。同時に原子力発電は従来と同じ2割を維持するとされたが、これによって形式的には自然エネルギーと合わせた非化石電源の目標比率は約6〜7割となる。しかし、原発の重大なリスクや再稼働の進み具合を考慮すると、自然エネルギーの割合をさらに増やさないと非化石電源の目標比率は達成できない可能性が高い。

一方、2023年6月に施行されたGX(グリーン・トランスフォーメーション)推進法やその基本方針に基づき、経済成長と脱炭素化を両立させるという名目で自然エネルギー以外の脱炭素電源として原発や火力の脱炭素化などを重視して、GX2040ビジョン(案)でそれらの推進が示されている。

しかし、原発はエネルギー安定供給の確保、エネルギー自給率の向上や気候変動対策にならず、本来のGX実現のためには全力をあげて地産地消・地域主導型を中心とする自然エネルギー100%に取り組むべきである[2]

さらに、2040年度のCO2削減目標として、並行して審議された地球温暖化対策計画案において、2050年温室効果ガス排出ネット・ゼロの実現に向けた直線的な経路と整合的な目標として2040年度73%削減(2013年度比)を目指すとしている。この場合、2025年に国際的な公約としてNDC(国が決定する貢献)で示す2035年度目標は60%削減となるが、この目標がパリ協定の1.5℃目標に整合するような野心的なものであることを国際社会に対して説明するのは不可能であり、多くの研究機関やNGOが示す脱炭素シナリオからみて全く不十分な目標である[3]

ISEPでは、2021年に現行の第6次エネルギー基本計画に対して、日本のエネルギー政策の中身を根本的に見直すために、自然エネルギー100%の「エネルギーコンセプト」への抜本的転換のあり方を提言した[4]。そこでの提言の一部はその後、地域主導の分散ネットワーク型エネルギーへの転換として実現されつつあり、自然エネルギーの発電電力量の割合が2023年度(速報)では26%に達する一方、原発は8%に留まっている[5]。VRE(変動する自然エネルギー)の割合は年間平均で約12%に達しているが、欧州ではすでに平均でその2倍以上の27%に達している[6]

日本国内においても九州エリアではVREの出力抑制が2018年から始まっており、自然エネルギーを最優先として、「柔軟性」があり、「強靭」なエネルギーシステムのインフラや電力市場の整備は途上で正に2030年までが正念場である。2050年カーボンニュートラルを見据えて1.5℃に整合する地球温暖化対策やエネルギー政策として自然エネルギー100%への抜本的な政策転換がこの第7次エネルギー基本計画には求められる。

そこで、日本が目指すべき持続可能な社会の実現に向けた1.5℃に整合する自然エネルギー100%への抜本的なエネルギー政策の転換のあり方を提言する。

1. ⾃然エネルギー最優先原則を復活させた上で導入加速化とルールの整備を

まず、前回の第6次エネルギー基本計画(2021年10月22日閣議決定)で盛り込まれた「自然エネルギー最優先原則」がパブコメ案では消されているが、これはきわめて重要な原則であり、復活すべきである。

自然エネルギー最優先原則により、電⼒系統などのインフラ整備と共に新たな電力市場を含めたルールの整備や規制改⾰など様々な課題を克服する必要がある。そのための新規の設備投資が「統合コスト」としてカウントされうるとされているが、さまざまな恩恵のある⾃然エネルギーの導⼊ための「コスト」は、持続可能な未来を実現するためにインフラ投資として⽋かせないと捉えるべきである。さらに⻑期的な視点に考えれば、⾃然エネルギーが純国産でもっとも安いエネルギー源であることから、エネルギーコストの低減と共に化石燃料の削減という大きな便益を得ることを重視すべきである。

系統接続問題に端を発して定められた太陽光発電や⾵⼒発電の「接続可能量」的な系統接続ルールは、⾃然エネルギーを封じ込めるための「トリック」であり、撤廃すべきであり、現在、全国で実施されている変動型自然エネルギーVRE(太陽光、風力)の出力抑制は最小限になるように優先給電ルール等を見直した上で、それでも必要な出力抑制は経済的補償をすべきである。さらに、これまでの電⼒系統の⾼額な「⼯事負担⾦」や煩雑で長期に渡る接続手続きの問題に対しては、自然エネルギー最優先の原則で、先着優先を見直し、優先接続のルールとして、原則として一般送配電事業者の費用(託送料金)によりプッシュ型で系統を整備することとし、接続する変電所より上位系統の増強費用の負担や、VREに不利となる発電側課金は行わないものとする。

化石燃料による火力発電や原発を主力とする既存電源を温存する「容量市場」や「長期脱炭素電源オークション」はその必要性から見直す必要があり、自然エネルギーの最優先を原則として電力システムの柔軟性を確保する新たな電力市場のルールを整備する必要がある。原発を含む非化石電源の価値を取引する「非化石価値取引市場」については、自然エネルギーに特化したグリーンエネルギー市場として抜本的に見直す必要がある。

2. ⾃然エネルギー100%による2050年炭素中立に向けて2040年電力分野で100%を目指す

「純国産エネルギー」である⾃然エネルギーを最優先の原則で基幹エネルギーに位置付け、発電電力量⽐率で2030 年までに⾃然エネルギー58%以上、2035年80%、2040年100%とする意欲的な導⼊⽬標を定めるべきである。環境・エネルギー・経済のトリプル・デカップリング(切り離し戦略)を前提に省エネルギーにより 2030 年までに年間電⼒需要を約3割削減すると共に、⾃然エネルギーの発電設備を 現状(104GW、2022年度)の2倍以上とすれば実現可能である。さらに、2035年度には現状の3倍、2040年度には4倍にする必要がある。第6次エネルギー基本計画では2030 年の⾃然エネルギーの導⼊⾒込量が太陽光については最大120GWとなっているが、これは現状の約1.5倍に過ぎない。太陽光は、世界では今や最も安いエネルギー源となり、今後のエネルギー転換と脱炭素の主力となるだけでなく、過去の経験でも短期間に成長することが明らかであることから、2030年に少なくとも現状の2倍程度(140GW)を目指す導入目標を掲げるべきだろう。⻑期的には 自然エネルギー100%を見据えて2040年以降、現状の4倍以上の300GW 以上を⽬指すべきである。⾵⼒発電については、2030年の政府目標は24GW(陸上18GW, 洋上6GW)としているが、すでに 30GW を超える事業の計画が洋上風力を含めてあり、国内の出膨⼤な導⼊ポテンシャルや将来のコスト低減を前提とすれば  2030 年までに30GW 以上の⽬標を設定し、さらに2040年には160GW 以上の太陽光と同レベルの設備容量を⽬指すべきである。

このエネルギー基本計画(案)では、2050年カーボンニュートラルの実現向けて電力部門は、自然エネルギーと合わせて実用段階にある脱炭素電源として原子力を活用するとしている。しかし、原子力発電は、福島第一原発事故で証明されたように誰もその安全を担保することはできず、原子力規制委員会も一定の水準の規制基準への適合を審査しているにすぎない。本当に安全を最優先するのであれば原子力発電の再稼働はせずに、廃炉を進めることが多くの国民の理解を得られる選択である。国、産業界、立地地域がこれまで原子力に費やしてきた資産を清算し、原発の廃炉と共に使用済み核燃料の処分方法を決めていく必要がある。

2050年カーボンニュートラルに向けて自然エネルギー100%を目指すためには、熱分野や交通分野とのシステム統合(セクター・カップリング)の仕組みやインフラの構築が重要となる。様々な蓄電技術(揚水発電、蓄電池など)に加えて、ヒートポンプによる熱への変換(P2H)や蓄熱、電気自動車へのスマートな充電や系統への放電(V2G)などが地域分散型のシステムで行われる。蓄電できない余剰の自然エネルギーは水素に変換され、燃料電池(熱電併給)や合成メタン(メタネーション)および輸送用の合成燃料として利用されることになるが、その実現は2040年以降になるはずである。水素利用のための研究開発や実証は必要であるが、2040年までのその利用は限定的であり、自然エネルギーの直接利用や流通ネットワークや蓄エネルギーのインフラ整備に力を入れるべきである。水素は、二次エネルギーの利用形態のひとつであり、水素の利用拡大や必要なインフラへの投資は、少なくとも短期的には温室効果ガス排出削減やエネルギー転換のための最優先事項ではない。

火力発電から排出されるCO2を回収して長期的に貯蔵するCCSや合成メタンや合成燃料などの製造のために使うCCUS(カーボンリサイクル)についても、実証段階の技術であり、自然エネルギーのような将来の普及を見通すことは難しい。水素と合わせてアンモニアについても自然エネルギーからの製造や海外からの調達にはコスト面から大きな困難があり、そのような技術を前提としたカーボンニュートラルは一部の産業分野や交通分野など限定的と考えられる。

3. 自然エネルギー・省エネルギー・地域主導を「三本柱」に

グローバルに進みつつあるエネルギーの歴史的な⼤転換の「三本柱」は、第 1 に⼈類史「第4 の⾰命」と呼ばれる⾃然エネルギーの⾶躍的成⻑であり、第 2 に環境・エネルギー・経済のトリプル・デカップリング(切り離し戦略)を実現しつつあるエネルギー効率化であり、そして第 3 に⼤規模集中独占型から地域主導・分散ネットワーク型へのパラダイムシフトである。2012年から2022年の10年間で、自然エネルギーは約6割増加したが、最終エネルギー需要に占める割合は13%で、いまだ8割を化石燃料が占めて10年間で1割以上増加している[7]。一方、⾃然エネルギーの発電コストは太陽光を中⼼に急速に低下しており、太陽光発電のコスト(LCOE)は2023年までに2010年から9割以上低下している[8]。一方で化石燃料の価格は乱高下しながら上昇し続けており、太陽光や風力などの自然エネルギーの発電コストは化石燃料を確実に下回っている。世界各国では、この10年間で自然エネルギーの飛躍的な導入が進んでおり、2023年の太陽光や風力発電の年間導入量は過去最高の500GWに達した[9]。しかしこの自然エネルギー発電設備の導入ペースも、2030年までに自然エネルギー3倍を達成するためには年間1TWまで増やす必要がある[10]。世界の全発電電力量に占める自然エネルギーの割合は2022年に29%に達しており、年間導入量では全発電設備の86%を占めている[11]。エネルギー政策の基本的視点とされている「S+3E(安全性+環境・経済・安全保障)」の実現のためにも、巨⼤リスクを抱える原発への固執を⽌め、原発ゼロを政策決定すると共に、⾃然エネルギーと省エネルギー(エネルギー利⽤効率化)を重視する地域分散型のエネルギーシステムへ転換すべきである。

4. 小規模分散型の自然エネルギーによるGXを

小規模分散型の自然エネルギー(とくに太陽光発電)は蓄電池と共に、指数関数的な拡大を継続している。新型コロナウィルスの影響により世界的に経済活動が低迷した結果、2020年はCO2排出量が一時的に減少したが、世界各国で自然エネルギー拡大や省エネルギーを前提としたグリーン・リカバリーに向けた様々な政策が進められており、日本でも小規模分散型の自然エネルギーによるグリーン・リカバリーが求められている[12]。さらに、日本国内では、エネルギー安定供給の確保と脱炭素化に向けて徹底した省エネと自然エネルギーへの転換だけではなく、原発の再稼働やリプレース、火力の脱炭素化やCCUSなど国内の多消費産業を優先するGX(グリーン・トランスフォーメーション)が推進されようとしている。地域の自立や気候危機への対応として、国は、全力をあげて地産地消・地域主導型を中心とする自然エネルギー100%への転換をGXとして目指すべきである[13]。パリ協定で要請されている世界の平均気温上昇を1.5度以内に抑制するという目標を達成するため、IRENA(国際自然エネルギー機関)やドイツ・エネルギーウオッチなどが提示している中長期の見通しでは、この風力発電と太陽光発電が2050年までに100%を占めるべく、普及の一層の加速化が要請されている。加えて、同じ小規模分散型のエネルギー技術である蓄電池が過去10年でコストが80%減少し、その裏返しとして自動車の電動化が加速度的に進んでいる。これらの3つの技術が、原発や化石燃料に取って代わるこれからのエネルギーの主役になる傾向ははっきりとしている。

これからも急速に低コスト化し普及拡大してゆく風力発電・太陽光発電・蓄電池の恩恵を、電力分野だけでなく、輸送交通エネルギーや温熱エネルギーのエネルギー源としても活用するための「セクターカップリング」や「グリーンガス」「グリーン水素」などを視野に入れた、統合的なアプローチが求められている。ところがこのエネルギー基本計画(案)では、「自然エネルギーを主力電源として最大限導入」という方針は掲げているものの、個々の施策は、FIT導入後に急増した太陽光発電が露呈させた初期政策の不備への弥縫策的に対応(太陽光発電の接続可能量と出力抑制、未稼働案件への規制など)と、やはり急増したように見えるFIT制度の賦課金の抑制に力点が入っており、到底、「自然エネルギーの主力電源化」に向けて、速やかな普及に繋がる施策や統合的なアプローチとはいえない。

自然エネルギーの市場統合としてFITからFIP(フィードインプレミアム)への移行が2022年度から始まっているが、当日市場やアグリゲーターなどが整っていない日本の電力市場の整備はまだ不十分であり、太陽光発電や風力発電の比率もまだ低い日本の現状を踏まえると十分な移行期間と制度の整備が必要である。やはり、「自然エネルギーを最優先に主力電源化」を大前提として、以下のような段階的・統合的なアプローチが必要である。

  • 自然エネルギーの普及に向けて最大の障害となっている送電系統ルールを抜本的に見直すこと。とくに優先接続や優先給電の確立、コネクト&マネージ原則の確立、一般負担原則の確立、発電側基本料金制度の見直しなど。
  • 自然エネルギーの統合に向けて、つぎはぎではなく、根本的かつ本質的な電力市場の見直しと整備を行う。
  • FIP制度への移行期間や市場でのインセンティブを高めながら、現行のFIT制度と入札制度を丁寧に運用し、いまだに海外に比べてコストの高い太陽光発電・風力発電の開発の促進を促す。

さらに、自家消費を促進するオンサイトPPAや需要家主導のオフサイトPPAなどの非FITによる自然エネルギーの導入を地域の自治体や事業者が積極的に推進するための環境整備などを進める必要がある。

5. 地域主導・分散ネットワーク型エネルギーとデジタル化への⼤転換へ

世界全体で各地域のステークホルダーが関わる⾃然エネルギーによる地域主導・分散ネットワーク型エネルギー体制(ご当地エネルギー、コミュニティパワー)への⼤転換が進んでおり、ご当地エネルギーと呼ばれる取り組みが全国各地で次々と広がってきている。2016 年 に福島県で開催された「第 1 回世界ご当地エネルギー会議」[14]での「ふくしま宣⾔」では、地域主導のエネルギーへの取組み(ご当地エネルギー)の重要性が謳われている。その中で、コミュニティパワーとエネルギー⾃治の重要性[15]、地域の経済・雇⽤効果への⼤きな効果が期待されている。地⽅の創⽣のためにも、現状の集中独占型から地域主導・分散ネットワーク型への転換は避けて通れない。

また同時並⾏的に進展する電気⾃動⾞(EV)、とくに⼩型バッテリーの技術学習効果による急速な低コスト化や、⼈⼯知能(AI)や IoT(モノのインターネット)、ブロックチェーン、ビッグデータ等を活⽤した「エネルギーのデジタル化」を考慮して、旧来の「⼤規模集中・独占型」のエネルギー産業構造からの構造転換を視野にいれることが⽋かせない。

6. 「11 福島第⼀原発事故」の教訓を踏まえた現実的な脱原発を

3.11 福島第⼀原発事故の教訓を踏まえた原⼦⼒政策の根底からの⾒直しが⼤前提となる。これまでのエネルギー基本計画と同様に原発を「重要なベースロード電源」と位置付けたこのエネルギー基本計画(案)は、3.11 以前の「原発神話」をそのまま復活させたものでしかない。2023年度の原発比率は約8%であり、様々な理由から九州や関西など西日本の一部の地域で13基が再稼働しているのみである(その一部も安全対策のため停止)。柔軟性の低い原発が4基稼働する九州電力エリアでは低需要期に自然エネルギーの出力抑制が全国で唯一実施されている。東日本は、3.11以降、2023年まで原発ゼロの状態が続いてきたが、電力需給にまったく問題は無かった。稼働しない原発は電力会社にとって負の資産となっており、再稼働に向けた安全対策などでその運転コストは増加する一方で、採算のとれない原発から廃炉が進み(すでに24基、17GWが廃炉)、10基は新規制基準の審査に対して未申請である(約10GW)。2030年に20%以上とするには約34GWの原発が稼働する必要があり、そのためには40年を超える炉も含まれるほとんど全ての原発(34GW)を再稼働する必要があり、あまりにも非現実的である。

今なお混沌とした状況の続く福島第⼀原発事故の処理は、半永久的に続くおそれが⼤きい。これまでの経産省の間違った原子力政策のアリバイ作りとして「汚染水処理」に関する海洋放出の問題はその一端である。また、事実上の倒産会社である東京電⼒も、今からでも破たん処理されるべきであり、経営者および規制当局の責任が追求されなければならない。すでに存在する使用済み核燃料の長期保管と処分、廃炉等に伴って発生する放射性廃棄物の処理も大きな課題であり、廃棄物を海外で処理するために輸出規制を見直すことは避けるべきである。さらに本来必要な⽔準の原⼦⼒損害賠償措置への⾒直しを踏まえれば、脱原発こそがもっとも経済的で現実的な選択肢であることは明らかである。

福島第⼀原発事故の被害とその根本原因を⾒据え、事故の実態や後始末の困難さや原⼦⼒規制の実態を深刻に考慮すれば、脱原発を前提とした原発ゼロ社会を⽬指すべきである[16]。そのための具体的な政策として「原発ゼロ基本法案」[17]などを国会においてその実現に向けて真剣に議論すべきである。

さらに脱原発を前提に、廃炉や核のゴミ、実質的に破たんしている核燃料サイクルの後始末など原発が直⾯している難題に向き合って、国⺠的な対話で合意と改善を⽬指す必要がある。

7. 脱石炭の早期実現と柔軟で強靭な電力システムへの規制改革を

早期のカーボンニュートラルの実現に向けて世界ではCO2排出量の大きい石炭火力発電を2030年より早期に廃止することが求められている。第6次エネルギー基本計画では、非効率石炭火力のフェードアウトなどにより2030年の石炭火力の割合を約19%程度にするとしているが、CO2排出量の削減には2030年までの石炭火力の廃止が極めて有効で合理的な選択肢となる。一方で、第7次エネルギー基本計画案では、2040年度の火力発電の割合を3~4割としており、2030年度の約4割からほとんど削減しておらず、燃料別の割合も明確にしていない。脱石炭により火力発電はほとんど全て天然ガスとなり、ガスシフトが進むことになるが、そのためのガス火力発電設備のさらなる効率化や必要な流通や備蓄のインフラ整備、安定した海外からの天然ガス(LNG)の確保が求められるが、2030年以降は、2040年度に向けて天然ガス火力も含めた大幅な削減が必要である。アンモニアや水素を混焼する火力の脱炭素化は、そもそもCO2削減効果や経済性などから実現の可能性は低く、化石燃料による発電の温存に繋がる懸念がある。天然ガス火力の発電効率は最高で60%以上に達するものの、需要側に設置して地域冷暖房などのインフラと統合されたコジェネレーション(熱電併給)によりエネルギー効率を90%以上により高めることが有効である。

自然エネルギー100%に向けて、電力システムの柔軟性や強靭性を高めるために、原発が最優先されている現行の優先給電ルールを見直し、純国産エネルギー源かつ限界費用が最も安い太陽光発電や風力発電が最優先される給電ルールと運用への見直しが必要である。さらに自然エネルギーのオンライン制御の割合を増やす経済的なインセンティブや電力・熱・交通のセクターカップリングを含む積極的なデマンド・レスポンスの活用など積極的な導入が期待される。さらに、2021年4月から全国で新規に導入される全ての太陽光や風力発電設備について無制限・無保証の出力抑制が求められている。この様な無制限・無保証の自然エネルギーの出力抑制を定める制度を廃止し、出力抑制分を経済的に補償するなど制度の見直しが必要である。自然エネルギーの出力抑制が実施されている電力エリア(特に九州など)では、自然エネルギーの導入拡大と共に、原発の稼動状況や石炭火力などの最低出力、揚水発電や地域間連系線の運用状況により影響を受けており、今後の導入を促進するためにも無制限・無保証の抑制ルールの早急な見直しが必要である[18]

8. 電力・熱・交通・産業分野のエネルギー統合化と脱炭素化

3.11以降に進んできた電力システム改革と自然エネルギーの導入においては、主に電力分野が中心となって脱炭素化に向けた取組みが進められてきた。しかし、ガス供給事業や熱供給事業の自由化も徐々に進められてきたが、脱炭素化への取組みは進んでいない。交通分野での脱炭素化の切り札とされる電気自動車の普及もまだ始まったばかりであり、膨大な熱需要のある鉄鋼・セメント・化学工業など重厚長大産業を中心に産業分野においても脱炭素化への取組みは長期的なビジョンの策定に留まっている。2050年カーボンニュートラルに向けては、電力分野だけではなく、これらの熱・交通・産業分野での脱炭素化を行うためのエネルギー統合化(セクター・カップリング、スマートエネルギーシステムなど)のための市場づくりやインフラ整備が重要である[19]。そのインセンティブとなるカーボン・プライシングの制度づくりと市場へ構築を急ぐ必要がある。熱分野での脱炭素化においては、地域熱供給のインフラシステムの構築が重要な役割を果たすことが欧州での事例や研究などで示されている[20]

9. 情報公開や市場の透明性と共に国⺠参加の開かれた議論の場と政策決定プロセスを

そもそも 第6次エネルギー基本計画でも示された「原発は重要なベースロード電源」⾃体が、3.11 以前の「原発神話」(安全、安価、安定)をそのまま維持するナンセンスなものであった。第7次エネルギー基本計画案では、原発も「最大限活用」するとして⼀定⽐率の原発の維持が必要という論理を押し通そうとしている。さらに、火力発電を「調整電源」と位置付けてその必要性を強調しているが、欧州などでは「調整電源」という概念ではなく、電力システム全体の「柔軟性」で評価をしており、今回の「国の論理」が時代遅れといえる。こうして振り返ると、国は不透明・不誠実な議論のプロセスを重ねてきており、国⺠参加や透明性ある議論とは対極にあり、今⽇の熟議⺠主主義の時代における政治や政府の姿勢とはかけ離れている。

福島第⼀原発事故を始め、様々なエネルギー政策の硬直化を招いた⼀因として政府や独占的な地位にあるエネルギー関連企業による情報の秘匿や市場の独占が考えられる。また、エネルギー政策のような重要な基本政策は、最終的に国⺠や様々な主体が関与して合意すべき問題であることから、政府や関連企業は情報を公開する義務や市場の透明性の確保を担っているはずであり、政策決定プロセスにおいても多くの国⺠の意⾒が反映される適正なプロセスが担保される必要がある(環境問題においては市⺠参加を担保するオーフス条約の批准なども必要)。そのためには、国⺠の代表者から構成される国会上での⼿続き(熟議)をエネルギー政策の決定プロセスに盛り込む必要がある。

エネルギーの選択は、国の専管事項でもなければ産業界の要望だけで決められるべきものでもない。地域分散型⾃然エネルギーが急速に進み、気候変動問題の⼤きなリスクに直⾯し、そして 3.11 福島第⼀原発事故を経験した私たち⽇本に住むすべての⼈々が参加し、議論し、合意を重ねて選び取るべきものである。

参照情報:

[1] 世界自然エネルギー100%プラットフォームCOP28宣言(2023年12月) https://www.isep.or.jp/archives/library/14547

[2] ISEP「GX推進政策に対する提言」(2023年2月) https://www.isep.or.jp/archives/library/14245

[3] 未来のためのエネルギー転換研究グループ「Green Transition 2035」(2024年9月) https://green-recovery-japan.org/

[4] ISEP「第6次エネルギー基本計画への意見および提言」(2021年9月) https://www.isep.or.jp/archives/library/13516

[5] ISEP「【速報】国内の2023年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況」(2024年9月) https://www.isep.or.jp/archives/library/14885

[6] ISEP「2023年の自然エネルギー電力の割合」(2024年6月) https://www.isep.or.jp/archives/library/14750

[7] REN21 “Renewables 2024 Global Status Report, Global Overview” 2024 https://www.ren21.net/reports/global-status-report/

[8] IRENA “Renewable Power Generation Costs in 2023”, 2024 https://www.irena.org/Publications/2024/Sep/Renewable-Power-Generation-Costs-in-2023

[9] REN21 “Renewables 2024 Global Status Report, Energy Supply ” 2024 https://www.ren21.net/reports/global-status-report/

[10] IRENA,2024 https://www.irena.org/Publications/2024/Oct/UAE-Consensus-2030-tripling-renewables-doubling-efficiency

[11] IRENA “Renewable energy statistics 2024” 2024 https://www.irena.org/Publications/2024/Jul/Renewable-energy-statistics-2024

[12] ISEP「地域からの「緑の復興」を〜新型コロナによる3つの危機(経済危機・気候危機・社会分断)を超える〜」https://www.isep.or.jp/archives/library/12694

[13] ISEP「GX推進政策に対する提言」https://www.isep.or.jp/archives/library/14245

[14] 第 1 回世界ご当地エネルギー会議 http://www.wcpc2016.jp/  2016 年 11 ⽉

[15] 全国ご当地エネルギー協会ホームページ http://www.communitypower.jp/

[16] 原⼦⼒市⺠委員会「原発ゼロ社会への道 2017〜脱原⼦⼒政策の実現のために」2017 年 12 ⽉ http://www.ccnejapan.com/?page_id=8000

[17] 原発ゼロ・⾃然エネルギー推進連盟「原発ゼロ・⾃然エネルギー基本法案」2018年1月https://genjiren.com/category/documents/basiclaw/

[18] 全国ご当地エネルギー協会「太陽光・風力の出力抑制への対応」2023年6月https://www.isep.or.jp/archives/library/14423

[19] IRENA “Reaching Zero with Renewables” 2020年
https://www.irena.org/publications/2020/Sep/Reaching-Zero-with-Renewables

[20] 第4世代地域熱供給フォーラム https://4dh.isep.or.jp/