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共同声明 新規原子力発電の未来(プレスリリース)

当研究所は、広島・長崎への原爆投下から79年目を迎えるにあたり、世界のエネルギー政策研究者たちとの共同声明「新規原子力発電の未来」を発出いたします。

共同声明 新規原子力発電の未来

世界中の多くの政府が、気候変動目標の達成に原子力発電が重要な役割を果たす、あるいは果たさなければならないという主張とともに、原子力発電への資金援助を拡大する圧力を受けている。ところが現実には、原子力は衰退の一途をたどっており、それには正当な理由がある。世界の電力生産に占める原子力の割合は、1996年の17.5%から2023年には9.2%に減少しているが、その主な理由は、原子炉の建設と運転にかかるコストの高さとその遅れである。

政府は、この衰退しつつある技術に資金を提供するという原子力産業からの圧力に抵抗しなければならない。そうした資金やその他の資源は、再生可能エネルギー、電力貯蔵、エネルギー管理などに使われるべきである。そうすれば、気候変動目標をより充分に、より確実に、より早く、より費用対効果の高い形で実現できる。

原子力を推進しようとする新しい圧力は、小型モジュール炉(SMR)の開発資金、新型大型原子炉への融資、設計寿命に達した既存原子炉の延命費用という3つの分野で見られる。政府に対するこうした圧力は、主要な原子力発電国である米国、フランス、カナダ、日本、英国の5カ国で見られる。

小型モジュール炉(SMR)

原子力産業が厳しい状況に陥ると、いつも既存の設計の問題を解決すると主張して、新しい技術に注意を向けようとする。最新の「魔法の弾」はSMRである。SMRは、商業的な発注がまだされていないにもかかわらず、迅速で安価、安全で建設中であるかのように主張されている。しかし現実には、SMRの商業運転は何年も先であり、大型原子炉と同じくらい高価で、安全性、セキュリティ、廃棄物の問題も同じように存在する。

実際、SMRの主張の背後にある動機は金銭的なものである。近年、原子力産業は、製品の製造・販売から、SMR「開発」のための補助金獲得へとビジネスモデルを密かに変化させている。カナダでは、さまざまな公営電力会社が公的資金を使って新しいSMRを開発しようとしている。英国政府は200億ポンド(約3兆8千億円)の税金を投入してSMRの設計コンペを実施している。しかし、昨年の米国のニュースケール社のSMR設計の破綻や、フランスEDF社の最近のSMR開発断念など証明しているように、最終的には根本的な問題は明らかになる。

大型原子力発電

大型原子力発電の建設実績は、遅延とコスト上昇という過去最悪の記録が出ており、改善どころか縮小の一途をたどっている。原子力産業の処方箋はいつも同じだ。自分たちは学習しており大量発注すればコストは削減できると主張し、計画や安全規制を「合理化」しようとする。それが過去に成功したためしはなく、今後も成功しないだろう。

一方、コストと建設期間の超過が常態化しているにもかかわらず、英国政府は、脆弱なEPR設計を用いた原子炉をあと2基建設しようと努力している。フランスでは、国有化されたフランスの原子力発電事業者EDFが、EPRの設計を改良した新しい大型原子炉の開発を計画している。

原子力の老朽化

世界の既設原子力発電は老朽化している。アメリカでは、稼働中の原子炉の約半数が40年の設計耐用年数を超えている。建設費はすでに償却されているにもかかわらず、高い電力を供給している。アメリカでは、原子力発電所が競争力のある電力市場で生き残れるのは、多額の公的補助金に支えられているからだ。日本では、福島原発事故以来23基の原子炉が閉鎖されたままだ。これらの原子炉は13年以上稼働していないにもかかわらず、電力会社はいまだに再稼働させようとしている。フランスでは、EDFが老朽化した原子炉の安全性向上のために最大1000億ユーロの請求に直面している。世界的に見ても、これらの古い原子炉は、新しい原子炉に要求される安全性と保安基準にはるかに及ばない。

再生可能エネルギーとエネルギー転換

原子力発電は決して経済的ではなく、その歴史を通じて実質コストは上昇し続けてきた。かつて原子力発電が存続できたのは、電力が独占的で、電力会社がどんなに高くてもコストを転嫁できたからだ。競争力のある電力が導入されたことで、この選択肢は失われた。

60年以上にわたる商業の歴史を経て、原子力は巨額の公的補助金なしには存続できないどころか、ますます遠ざかりつつある。これは、この20世紀半ばの典型的な技術が末期的な衰退を遂げ、放棄されるべきであることを明確に示している。原子力の1キロワット時のコストは少なくとも再生可能エネルギーの1キロワット時の数倍もするため、原子力発電の廃止は気候保全につながる。原子力発電は1ドルあたりの発電電力量は再生可能エネルギーよりもはるかに少ないため、原子力が化石燃料を置き換える量は、1ドルあたり再生可能エネルギーよりもはるかに少なく、建設に時間がかかるため、いっそう少なくなる。英国政府の世界的な数字によれば、新規原子力発電所の計画、規制、建設には、たった1基の発電所建設に17年もかかる。したがって、気候変動を懸念している人ほど、高価で遅くて投機的な原子力よりも、費用対効果が高く、迅速で確実な、再生可能エネルギーを採用することが肝要なのである。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)も、再生可能エネルギーは新規原子力発電の10倍のCO2 削減効果があると報告しているとおり、2023年には再生可能エネルギーによる新規電力供給量は507ギガワット(GW)となり、世界の発電容量増加の86%を占め、再生可能エネルギーによる総発電容量は3,870GWとなった。総発電容量に占める再生可能エネルギーの割合は43.2%に上昇した。この驚異的な急増は、再生可能エネルギーがエネルギー転換を急速に拡大できる唯一の技術であることを示している。原子力発電はせいぜい、1年間に再生可能エネルギーが数日ごとに追加するのと同程度の電力しか追加しない。中国でも、現在、毎週5基の新しい原子炉に相当する風力発電と太陽光発電を導入している。

新規原子力発電が停滞し、再生可能エネルギーが急増している今、冷静な現実は、気候変動とエネルギー危機に対して原子力発電はあまりにもコストが高く、遅すぎるということだ。そして、変動する太陽光発電や風力発電をバックアップするために必要とされるどころか、原発はより大きく、より長く、より突発的で、はるかに予測不可能な故障を起こすため、より多くの、よりコストのかかるサポートを必要としている。2022年には、フランスの原子炉の半分が安全上の欠陥で停止した。原子力発電は時間がかかり、コストが高いだけでなく、電力需要の変動に合わせて上下し続けるには柔軟性に欠ける。それとは対照的に、風力発電や太陽光発電の変動性は、変動する需要に合わせて出力を調整し、常に安定した電力を供給することができる、進化する柔軟な電力網に、より簡単に統合することができる。

新規原子力発電には、運用上の必要性もビジネスケースもない。実際、電力網の急成長と近代化、相互接続の充実と迅速化、スマートなエネルギー管理、そして今日の費用対効果の高い蓄電技術の迅速な導入とともに、電力をはるかに効率的に使用し、あらゆる分野で多様な再生可能エネルギー供給を拡大することによって、信頼できる電力システムを維持することは十分に可能である。

私たちは、産業、輸送、家庭、企業に電力を供給するために、手頃な価格で持続可能な低炭素エネルギーを確保する必要がある。主要なエネルギー国際機関や研究機関のすべてが、ネットゼロのためには再生可能エネルギーが重要な役割を果たすという点で一致している。将来の世界の電力供給の基幹は、クリーンで、環境に優しく、安全で、費用対効果の高い再生可能エネルギーになるだろう。原子力はそのどれにも該当しない。

スティーブ・トーマス教授(『Energy Policy』編集委員、グリニッジ大学エネルギー政策名誉教授、英国)

飯田哲也(環境エネルギー政策研究所 所長、日本)

ベルナール・ラポンシュ博士(工学博士、核反応科学博士、エネルギー経済学博士、フランス)

エイモリー・ロビンス教授(スタンフォード大学土木環境工学非常勤教授、米国)

MVラマナ教授(ブリティッシュコロンビア大学公共政策グローバル問題学部軍縮グローバル人間安全保障サイモンズ講座教授、カナダ)

ポール・ドーフマン博士(サセックス大学サセックス・エネルギー・グループ科学政策研究ユニット客員研究員、原子力コンサルティング・グループ議長、英国)