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「柔軟性・再エネ最優先・再エネ100%」実現への改善提言 — 九州電力管内における太陽光・風力の出力抑制への対応

当研究所は、2030年炭素46%超削減・2050年炭素中立に向けた政策提言「「柔軟性・再エネ最優先・再エネ100%」実現への改善提言 — 九州電力管内における太陽光・風力の出力抑制への対応」をまとめました。

提言要旨

▼ もっとも重要かつ本質的に見直しが求められること

  • [提言1] 「再生可能エネルギーを主力電源として最優先の原則」という政策目標を具体化する

▼ 直ちにできること

  • [提言2] 出力抑制に対して経済的に補償する
  • [提言3] 電発松浦・松島火力(本州送電分)の抑制による関門連系線の運用枠拡大

▼ 早急に着手・改善すべきこと

  • [提言4] 石炭火力(電源I・II・III)の停止・廃止、電発松浦・松島火力の早期廃炉
  • [提言5] 原発稼働スケジュール(定期点検計画など)を見直す
  • [提言6] 地域間連系線のさらなる活用(N-1電制見直し)
  • [提言7] 旧ルール・指定ルールの廃止

▼ 抜本的な対策

  • [提言8] 優先給電(出力抑制)ルールを見直す(再エネVRE最優先へ)
  • [提言9] 関門連系線の増強
  • [提言10]「柔軟性」(フレキシビリティ)に必要な本格的対策(蓄電池の大規模導入、需要側管理市場など)
  • [提言11] VREを熱・交通分野等で活用するセクター・カップリング(P2X, V2X, グリーン水素化)に向けた準備

はじめに

九州電力管内での自然変動型再生可能エネルギー(VRE, Variable Renewable Energy)の出力抑制は、日本全体から見て「柔軟性・再エネ最優先・再エネ100%」実現への試金石となる。九州電力管内では、日本で最もVRE比率が高く(約20%〜2021年4月)、さらに「VRE+原発比率」が高い(約70%〜2021年4月)。

さらに本年4月から全電力会社(一般送配電事業者)が適用している「無制限・無補償の出力抑制」が実施された場合、再生可能エネルギーへの投融資と事業化が停滞し、日本全体で再生可能エネルギーの導入目標達成やカーボンニュートラルの実現を困難にする恐れがある。一方で、この出力抑制を最小化するため、電力システムの柔軟性に関連するほとんど全ての要素(石炭、地域間連系線、揚水発電、原発、オンライン制御等)がすでに九州電力管内には存在する。

九州電力(2020年4月以降は九州電力送配電株式会社)は、急増する太陽光発電と風力発電、とくに太陽光発電を最大限、導入できるように努力を重ねてきていることは高く評価したい。その九州電力は、2018年10月から九州本土でのVREの出力抑制を始めている(図1)。

図1. 九州電力管内での出力抑制の実施状況(2021年4月18日)

出力が自然変動するVREに対して、必要最小限の出力抑制をすることは一般的には合理的であるため、本提言でも、九州電力が2018年から始めているVREの出力抑制を直ちに否定する立場を取るものではない。とはいえ、これまでに九州電力が行ってきたVREの出力抑制については、改善すべき点があると考える(図2)。

図2. 九州電力管内での太陽光・風力の出力抑制への改善提案

出所:OCCTO資料に加筆

現状のままでは、「再生可能エネルギー拡大を前提とした合理的な出力抑制」ではなく、「再生可能エネルギー抑制のための出力抑制」に陥りつつあるように思われる。世界各国ではすでに九州よりも高いVRE比率でも出力抑制率を5%未満に低く抑えている(図3)。

図3. 世界各国と九州のVRE比率と出力抑制率の比較

出典:Peerapat Vithaya (IEA), “Integrating variable renewables: Implications for energy resilience”, Asia Clean Energy Forum 2017, 6 June 2017に飯田更新・加筆

以下、九州電力送配電(株)及び他の一般送配電事業者、並びに国(経済産業省)や電力広域的運営推進機関(OCCTO)に対して、改善を期待したい点を提言する。

1. もっとも重要かつ本質的に見直しが求められること

[提言1] 「再生可能エネルギーを主力電源として最優先の原則」という政策目標を具体化する

国が決定しようとしている第6次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーを「主力電源として最優先の原則」の下で最大限の導入に取り組むとしている。2018年に閣議決定した第5次エネルギー基本計画では、日本のエネルギー政策史上、初めて「再生可能エネルギーの主力電源化」を掲げた。これは、正しい認識であり、高く評価したい。

ところが、具体的な内容を見ると、全般的に「再生可能エネルギーの主力電源として最優先」を目指しているように思えない。再生可能エネルギーの目標値は、確かに2030年度に36~38%を目指すという従来よりも高い目標となった。しかし、同時に原子力発電は従来と同じ20~22%を維持するとされため、非化石電源の目標比率は約6割となり、原発の重大なリスクを考慮すれば再生可能エネルギーだけで6割以上を目指す必要がある。さらに2050年の想定シナリオの比較検討も行われ、再生可能エネルギー50~60%で、残り40~50%を原発や火力発電で賄うというシナリオが参考で示されたが、最も実現性の高い再生可能エネルギー100%のエネルギー供給を目指す世界のエネルギーシナリオの潮流からはかけ離れている[1]

この10年間で、VRE、つまり太陽光発電と風力発電は平均的なコストではそれぞれ9割減・7割減と急落し、それに伴って驚異的に拡大している。石炭・石油という化石燃料の世紀から、太陽エネルギー中心の再生可能エネルギーの世紀へと、100年に一度のエネルギー大転換期のただ中にあるにも関わらず、お題目だけの「再生可能エネルギーを主力電源として最優先」でしかないのは、問題意識も状況認識も希薄すぎるのではないか。

再生可能エネルギーの中でも、とりわけVREを主力電源にするためには、従来の考え方を180度転換する必要がある。ところが基本計画では、未だに「重要なベースロード電源」という古い考えを引きずったままである。この「ベースロード」から「柔軟性」(フレキシビリティ)への転換は、待ったなしといえる。関連して、再生可能エネルギーの変動を火力発電でバックアップする、という誤解を与える考え方も改める必要がある。

その他、優先給電ルールや出力抑制ルールの見直し、そして電力を超えて他分野でVREを活用する「セクター・カップリング」などを経済的に活用できるよう、政策や事業モデルを検討してゆく必要がある。

2. 直ちにできること

[提言2] 出力抑制に対して経済的に補償する

VREの出力抑制は、系統全体の安定性を目的としたものであるから、その抑制時の経済的損失に対して、一般送配電事業者は、発電事業者への経済的補償を行うべきである。その原資は、調整力の確保という目的から送電費用として計上すべきであり、現状では託送料金を原資とすべきである。

これまでの「接続可能量(30日等出力制御枠)」に基づくルールにおいて、指定ルールのVRE(太陽光、風力)の無制限の出力抑制に対して、何の経済的補償も行われないことは、再生可能エネルギーの導入を促進するというFIT法の趣旨に反しており、憲法上の財産権の侵害でもある。ドイツなど欧州でもVREの出力抑制が行われることはあるものの、原則として出力抑制による発電事業者の経済的損失は補償される(2017年の実績で99%以上)[2]。旧ルールで接続してオンライン制御が行われていない設備に対して、経済的なインセンティブや補助金により全ての太陽光発電設備にオンライン制御装置を設置することを義務化すべきである。その際、出力制御の公平性については、経済的な補償を行うことで柔軟な運用を可能にすべきである。

[提言3] 電発松浦・松島火力(本州送電分)の抑制による関門連系線の運用枠拡大

現状の関門連系線の利用ルールを改善し、連系線の運用に関する透明性を高め、優先給電ルールの中でVREを出力抑制する前に連系線の活用を十分に行うことが期待される。
優先給電ルールにおいて火力発電や揚水発電(電源I, II, III)による調整の次に「連系線を活用した九州地区外への供給」が行われることになっている。OCCTOの評価としては、現在の運用ルールの中で十分に活用されているとしているが、更なる改善が望まれる。

関門連系線の熱容量限度値は、1回線あたり夏季(3~11月)278万kW(✕2系統)であり、そのうち運用容量は九州地区外の周波数維持限度値から夏季で最大247万kW(平日・昼間)とされている[3]。実際の電力需給データでも九州地区外への送電量(双方向相殺後)の実績(2018年度4月~6月)は最大で270万kWとなっており、熱容量限度値278万kWに近い地区外への送電が可能になっているように見える。連系線の活用については、現状ではOCCTOの運用容量検討会(一般送配電事業者を含む)での検討結果を踏まえて、送配電等業務指針に沿って翌年度以降の運用容量が決まる。

具体的な改善方法として、以下のとおり電源開発の松浦石炭火力発電所等の一定容量の送電枠が関門連系線で確保されているとされるが、これを縮小・停止することもできる。

  • 電源開発松浦(長崎県):200万kWのうち九電受電8万kW×2、のこりは関門連系線へ
  • 電源開発松島(長崎県):100万kWのうち九電受電7万kW×2、のこりは関門連系線へ

3. 早急に着手・改善すべきこと

[提言4] 石炭火力(電源I・II・III)の停止・廃止、電発松浦・松島火力の早期廃炉

原発はもちろん、石炭火力も出力調整速度が遅く柔軟性のない電源であるため、低需要期は原発および自社石炭火力を停止し、他社石炭火力の受電も最小限(できればゼロ)とすることが望ましい。やむを得ない事情により自社石炭火力を稼働させる場合でも、優先給電ルールに基づく供給力の調整においては最低出力(九電の報告では設備容量の17%)まで確実に下げ、火力発電所毎の時間ごと出力について公表すべきである。

具体的には、電源I, II, IIIの石炭火力に対して以下の対応が考えられる。九州電力の石炭火力を全て廃止し、コールドスタートも可能なLNG火力で代替する。温暖化対策の観点からも電源開発の石炭火力のうち九州内にある松浦、松島の計4基は廃止、橘湾(四国にあり一部を九州電力が受電している)は受電しないこと。石炭副生ガス利用の火力のうち、戸畑は副生ガス発電以外を廃止し、最低出力は審議会に報告している通りゼロとする。大分は最低受電(設備容量の30%)まで下げるか受電しないことが求められる。

これによって、関門連系線の枠も空くため、これをVREの変動に対する上げ・下げの余力として活用できるというメリットも生じる。

図4に示すように、太陽光発電の大幅な出力抑制が実施された2021年4月18日の火力発電出力は150万kWであったが、その大部分が石炭火力発電である。これらの火力発電のうち石炭を全停止し、新大分や新小倉のLNG火力を活用することで、この火力最低出力をほぼゼロにすることを目指すことが出来るはずである(LNG火力は数時間でのコールドスタートも可能)。

図4. 九州電力管内の火力最低出力(2021年4月18日)の改善提案

[提言5] 原発稼働スケジュール(定期点検計画など)を見直す

九州電力を始め原子力事業者は、国による様々な原発保護政策により原子力規制委員会により稼働が認められた原発の再稼働を進めている。とくに九州電力は、供給力の比率では約5割に相当する4基の原発再稼働が認められている。現行の優先給電ルールでは、再エネよりも原発が優先されることから、九州電力で出力抑制が先行し頻発している最大の原因でもある。出力抑制が頻発した低需要期の2021年4月には全4基の原発が稼働している(図5)

当面、現行の優先給電ルールを取るのであれば、需要が低く太陽光発電の出力が多い時期に、定期点検を計画することで、出力抑制をできるだけ回避すべきである。具体的には、低需要期・太陽光高出力期間(3月下旬〜5月末、9月下旬から11月上旬)に、できるだけ定期点検の日程を調整することを提案する。例えば、今秋は川内1号機を9月中に定検を開始し、来春は、玄海4号機の定検を3月中に早め、川内2号機の定検後運転開始を6月にするなどのスケジュールの見直しが考えられる。

そもそも、福島第一原発事故を経験した日本は、原発ゼロを目指すべきであり、国が崩壊するリスクを経験し、十分な安全性も確保されない上に、使用済み核燃料の行き場もない原発を九州電力などの原子力事業者が続ける理由はない。

図5. 九州電力管内の原子力発電の稼動状況

[提言6] 旧ルール・指定ルールの廃止

海外では例のない太陽光および風力に対する「接続可能量(30日等出力制御枠)」に基づく出力抑制に関する旧ルール・指定ルールを廃止しすべきである。すでに2021年4月からは、指定電気事業者の廃止により、全ての一般電気事業者において、無制限・無保証の「指定ルール」の適用が始まっている。廃止することにより、出力抑制に対する経済的な補償制度やVPPなどによる経済的な取引の導入を進め、実質的な再生可能エネルギーの「優先給電」を確立する必要がある。

2014年の太陽光発電の大量接続申込みによる「九電ショック」以降、電力会社側が試算して経産省の審議会(系統ワーキンググループ)[4]が電力需給バランスを検証する形で指定電気事業者による「接続可能量(30日等出力制御枠)」が太陽光発電および風力発電に対して導入されている。FIT制度においては、もともと30日間については無補償での出力抑制が認められていたが、「接続可能量」を超えた場合は30日を超えて無制限・無補償での「指定ルール」に基づく出力抑制が行われる。VREの大量導入においては、出力抑制(出力制御)は必要になるが、この「指定ルール」のもとでの無制限・無保証のために事業の収益性に大きく影響する可能性があり、現状では単純な出力制御量の予測値が公表されているだけである。

4. 抜本的な対策

[提言7] 優先給電(出力抑制)ルールを見直す(再エネVRE最優先へ)

VRE(太陽光および風力発電)を最優先する優先給電ルールへの見直しが必要である。VREは、燃料費がゼロ・純国産エネルギー・CO2も放射能も出さないクリーンな電源であり、しかも限界費用がほぼゼロである。したがって、現状、もっとも優先されている原発よりも、経済的・環境的・社会的のどの観点からも、最後に残すべき(もっとも優先されるべき)電源である。

本来、原子力規制委員会は新規制基準への適合を審査するに過ぎず、福島第一原発事故後により明らかになった原発の過酷事故へのリスクが無くなったわけではない。また、原発事故時の賠償を行う原子力損害賠償制度における賠償金の上限額は1200億円のままで、国による支援がなければ本来事故の責任を負う原子力事業者は損害賠償を行うこともできない「無保険」の状況である。このようなリスクの高い原子力発電は、速やかに廃止すべき電源である。

また、温室効果ガスであるCO2や有害物質を大量に排出する石炭火力については基本的に不要な場合は稼働を停止すべき電源であり、全ての石炭火力の廃止を目指す必要がある。

[提言8] 関門連系線の増強

九州本土と中国地方を結ぶ関門連系線の運用の改善により、VREの出力抑制を改善できるはずだが、今後、さらにVREが増加することを踏まえて計画的な増強が必要である。すでにOCCTOの地域連系線の増強に関するマスタープランの検討では、広域系統整備に関する長期展望のシナリオ分析が行われ、関門連系線の増強について現状の2倍程度(278万kW→556万kW)が最も望ましい(指標:費用便益評価B/Cおよび出力抑制率)という分析結果が出ている[5]。合わせて、九州から四国ツールの新設など関連する地域間連系線の増強に関する分析も行われているが、現状の再生可能エネルギーの導入シナリオ(2030年再エネ37%、2050年5~6割)に限定せず検討を行う必要がある。

再生可能エネルギーのさらなる導入も視野に関門連系線を含む地域間連系線の中長期的な増強計画を策定し、一般送配電事業者が再生可能エネルギーを最優先で受け入れられる広域的な送電網とその運用ルールを整備すべきである。

[提言9] 「柔軟性」(フレキシビリティ) に必要な本格的対策(蓄電池の大規模導入、需要側管理市場など)

九州エリアで大きな出力抑制が発生している背景には、原子力発電の低需要期の大きな出力や火力発電最低出力維持などの運用上の課題がある。これらは、現状の優先給電ルールや出力抑制ルールにのっとって、原子力発電や火力発電などそれぞれの発電所が運用された結果である。以下の要因分析で示すように、例えば低需要期に原子力発電所の定期点検を計画し、出力抑制時の火力の最低出力運用を石炭からLNGに移行など、より系統全体の「柔軟性」(フレキシビリティ)を高める視点から対策を取ることで、再エネの出力抑制は大きく改善する。

ところが、現状ではこのような取り組みはまだ不十分である。その理由は、現状のルールが需給運用のための優先給電ルールや出力抑制ルールのような順位付けにとどまっており、電力システムとして柔軟性を高めるような(VREの抑制を最小化するような)基本コンセプトや方針・ルールが欠けていることが最大の原因と考える。

例えば、アイルランドでは、2020年に再生可能エネルギーを拡大する目標を達成するための施策の一つとしてSNSP(System Non-Synchronous Penetration:時間別の非同期電源比率)を75%まで高めることを目標に掲げ電力システムの柔軟性向上に取り組んできた。九州においても、このように柔軟性を高めるという目標や方針を明確にしない限り、現状の優先給電ルールや出力抑制ルールに基づく短期的な需給バランスの議論に終始し、適切に運用しているように見えて全体としては最適ではないようないびつな需給構造に陥ってしまう可能性がある。

現状でも出力抑制が必要な場合には電力システムの柔軟性(フレキシビリティ)の確保ため、揚水発電や大型蓄電池などの余剰電力に対する蓄電機能が用いられているが、今後のVREの増加に伴って蓄電機能などを拡充し、デマンド・レスポンスや需給調整市場、VPP(バーチャル・パワー・プラント)などと合わせて柔軟性をさらに高める方策の拡充が必要である。

世界的に蓄電池(リチウム・イオン)のコストは30年間で約97%低下した(図6)。日本でもすでに4万円/kWh程度までコストが低下している系統側蓄電池の急速な拡大に着手し、同時に、需要側蓄電池(BTM)を活用した需要側管理(DR)の本格導入をするべきである。さらに、新たな電力市場として容量市場を維持するなら、蓄電池とDRを最優先すべきである。

図6. リチウムイオン電池のコストの推移

出典:Hannah Ritchie “The price of batteries has declined by 97% in the last three decades”

現状の優先給電ルールの中には需要側の調整機能(デマンドレスポンス)は含まれていないが、すでに供給力が不足する際のデマンドレスポンス(下げDR)は猛暑時などの需給ひっ迫時に活用されている(電源I’)。需要に対して供給が上回る際の調整力としてこのデマンドレスポンス(上げDR)を活用できる可能性がある。さらにこれらの調整力を一般送配電事業者に提供する新たなサービスとしてVPPの導入が検討されている[6]。再生可能エネルギーの出力抑制については、現状では取引の対象になっていないが、積極的に経済的な取引を可能にすることで出力制御を生かした調整力を確保できる可能性がある。

[提言10] VREを熱・交通分野等で活用するセクター・カップリング(P2X, V2X, グリーン水素化)に向けた準備

今後もコストが下がり飛躍的に拡大することが期待できるVREの導入をさらに進めてゆくと、余剰電力を積極的に温熱部門や交通部門、さらには産業部門で利用する「セクター・カップリング」というスマートエネルギーシステムの将来像を描くことができる。その準備を進めるべきである。

熱部門では、家庭用や業務用の蓄熱式ヒートポンプを活用して冷暖房や給湯の熱を供給することができる。建物毎の個別供給だけではなく、エネルギー密度が高い地域では地域熱供給を導入して地域で熱を面的に融通しながら効率的に熱利用することが可能となる[7]

交通部門では、公共交通機関や自家用車などで電気バスや電気自動車(EV)の普及が進むことで余剰電力をスマートに充電して交通の脱炭素化が実現可能である。さらに余剰電力を電気分解により水素にいったん変換しそのグリーン水素からさらに都市ガスとして利用が可能なメタンへ変換し、グリーンでエネルギー密度の高い可搬性に優れた液体燃料へ転換することが、近い将来、技術的にはもちろん、経済的にも可能であり、将来の市場拡大が期待される。

背景:国内の再生可能エネルギーの現状と課題

2020年度に太陽光の発電電力量の割合が全国でも最も高いエリアになっている九州電力エリアでは再生可能エネルギーの割合は26.8%となり、前年度の23.4%から増加した(図7)。水力発電の割合5.2%に対して太陽光発電が14.9%に達しており、変動する再生可能エネルギー(VRE)の割合も風力の0.9%と合わせて15.8%と全国で最も高くなっている。一方で、原子力発電の割合も26.0%と、全国のエリアの中で圧倒的に高く、再生可能エネルギーの割合に匹敵している。

図7. 電力会社エリア別の再生可能エネルギーおよび原子力の割合(2020年度)

出所:一般送配電事業者の電力需給データより作成

九州電力エリアの電力需給において、2020年10月25日11時台には、初めて1時間値で再生可能エネルギーの割合が電力需要の100%を超えた(図8)。このとき太陽光発電の割合は約90%となったが約5%の出力抑制が行われている(風力発電の割合は0.3%)。一方、原子力発電は、4基のうち1基のみ可動していた。

図8. 九州電力エリアの電力需給(2020年10月25日)

九州電力のエリアでは2021年3月末の時点でFIT制度によりすでに1029万kWの太陽光発電が電力系統に接続しており、風力発電(59万kW)合わせて1100万kW近いVRE(変動する再生可能エネルギー)が電力系統に接続している(図9)。接続している太陽光発電だけで、最小電力需要を上回っているが、さらに接続契約申込及び承諾済みの太陽光が355万kW、風力が約476万kWに達しており、これらを合わせると最大電力需要を大きく上回る。

図9. 電力会社エリア別の再エネ系統接続容量(2021年3月末)と電力需要(2020年度)

出所:一般送配電事業者の系統接続データより作成

九州電力エリアの月別のVREの割合は2021年4月に20.5%になり、前年同時期の21.5%からは全天日照量の関係で減少した(図10)。一方でベースロード電源として優先給電ルールに基づき出力抑制を最後まで行わない原子力発電の比率は全4基の再稼働により50%程度にまで高まっている。その結果、VREと原子力を合わせた比率は2021年4月には約70%と過去最高となり、VREの月別の出力抑制率も過去最高の14.1%となった(太陽光14.4%、風力10.0%)。

図10. 九州エリアでの出力抑制とVREおよび原発の割合の月別推移

出所:九州電力送配電データよりISEP作成

図11に、これまでの月別の出力抑制率を、VRE割合、原子力割合、VRE+原子力割合で整理してみると、原子力とVREを合わせた割合が50%以上になると出力抑制率が増加することがわかる。

図11. 九州本土エリアの月別の出力抑制率とVREおよび原子力の割合の相関

九州本土エリアにおいて2018年10月以降、本格的な太陽光発電および風力発電の出力抑制が断続的に実施され、2020年度の1年間の平均では出力抑制率は2.9%となったが、前年度の4.0%より減少した。VREの割合は2020年5月に21.9%に達し、前年同月の19.4%から増加した。原子力発電の割合も再稼働により高まり、4基の原発(合計出力約400万kW)が稼働している時期もあったが、特重施設の未整備による稼働停止などもあり、2020年度の平均では需要に対して26.0%で前年度の34.1%から低下した。月別では需要に対する原発の発電電力量の割合は2020年4月と2021年3月に最大で37.4%だったが、2020年10月に13.5%まで低下した。月別でも2021年3月の出力抑制率は7.0%だったが、前年同月の12.6%を大幅に下回っている。これは、2019年10月以降、太陽光の予測誤差を考慮したルールの見直しがあり、オンライン制御を優先して活用するルールになったことや原発の稼動率の低下などが要因となり、2020年度は出力抑制の割合は前年度よりも低下する傾向にあった。

ベースロード電源として優先給電ルールに基づき出力抑制を最後まで行わない原子力発電の比率が高い時期があり、VREの出力抑制に対して大きな影響を与えている。出力抑制が始まった2018年10月の時点では4基の原発(合計出力約400万kW)が稼働しており、定期点検などで一定期間停止する原発もあるが、2019年度の平均では需要に対して約34%に達していた。その結果、九州本土エリアにおいて2018年10月以降、本格的な太陽光の出力抑制が断続的に実施され、2018年度の26日に対して、2019年度の1年間では74日を数えた(表1)。そのうち2019年4月には20日の出力抑制が実施され、太陽光の出力抑制率は12.1%に達したが、2020年3月には15日の出力抑制が行われ出力抑制率は12.6%に達した。2019年度1年間を通じた太陽光の出力抑制率は4.1%になり、前年度(2018年度)の0.9%の4倍以上に達した。一方、風力発電の出力抑制率は2020年3月に13%に達したが、2019年度1年間の出力抑制率は2.3%で、2018年度の0.3%の7倍以上に達した。

表1.  九州エリアの出力抑制の発生回数と抑制比率

VRE
割合
原子力
割合
出力抑制率 PV
出力抑制率
風力
出力抑制率
出力抑制日数
2018年度 12.1% 33.3% 0.8% 0.9% 0.3% 26日
2019年度 13.2% 34.1% 4.0% 4.1% 2.3% 74日
2020年度 15.8% 26.0% 2.9% 3.0% 1.8% 60日

出所:九州電力送配電データより作成

表2に示す九州エリアにおける太陽光発電の導入状況において、出力抑制の対象となるのは太陽光発電1044万kWのうち約61%の633万kWである(2021年6月末現在)。そのうち433万kWがオンライン制御の対象となっており徐々に増加しているが、それ以外の200万kWは旧ルールに基づくオフライン制御となっている。

表2. 九州エリアにおける太陽光発電の導入状況(2021年6月末現在)

2021年6月末現在
[万kW]
旧ルール
(オフライン制御)
指定ルール
(オンライン制御)
特別高圧 36件(53万kW) 69件(135万kW) 105件(188万kW)
高圧(500kW以上) 0.1万件(147万kW) 1324件(160万kW) 約2400件(307万kW)
高圧(500kW未満) 0.2万件(39万kW) 600件(15万kW) 約2600件(54万kW)
低圧(10kW以上) 6.4万件(177万kW) 3.5万件(123万kW) 9.9万件(300万kW)
低圧(10kW未満) 29.7万件(133万kW) 11.3万件(62万kW) 41万件(195万kW)
36.4万件(549万kW) 15万件(495万kW) 51.4万件(1044万kW)
出力抑制の対象 約1千件(200万kW)

0.2%(36.4%)

約3.7万件(433万kW)
24.7%(87.4%)
約3.8万件(633万kW)

7.4%(60.6%)

出所:九州電力送配電データより作成

事業者アンケート結果

九州電力(2020年4月より九州電力送配電)は、2018年10月より太陽光発電および風力発電に対する出力抑制(制御)を実施しているが、2021年4月よりそのルールが変更され、オンライン制御が可能な指定ルールの太陽光発電所については、全事業者を一律に「%制御」している。これに伴い、「無制限・無補償」の指定ルールの太陽光発電所においては、2021年4月以降、4月中に19回、5月中に13回の出力抑制が行われ、前年(2020年)と比べて大幅に増加している。そこでその実態を調査するために九州電力本土エリアの太陽光発電事業者へのアンケート調査を実施した。九州本土エリアの太陽光発電の出力抑制の現状と、このアンケート結果を以下に示す。

(1)九州本土エリアでの太陽光発電の出力抑制の状況

九州本土エリアにおける太陽光発電の出力抑制について、九州電力送配電が公表している需給データにより、2018年10月から2021年5月までの発電電力量の抑制率を図12に示す。表3に示すとおり、2020年4~5月の平均の抑制率は9.7%だったが、2021年4~5月には14.0%に増加している(2021年4月の抑制率14.4%は過去最高)。一方、抑制前の太陽光の発電電力量について2021年と2020年の4~5月を比較すると11%減少しており、この期間の全天日射量が九州全域で約12%減少している影響が大きい。

図12. 九州本土エリアの太陽光発電の抑制率

表3. 九州本土エリアの太陽光発電の発電電力量と出力抑制の実績

4~5月 実績

[MWh]
抑制量

[MWh]
抑制前

[MWh]
抑制率 実績前年比 抑制前前年比
2018年 1,964,978 0 1,964,978 0.0%
2019年 2,148,842 201,606 2,350,448 8.6% 9.4% 19.6%
2020年 2,496,402 267,580 2,763,982 9.7% 16.2% 17.6%
2021年 2,113,322 345,061 2,458,383 14.0% -15.3% -11.1%

出所:九州電力送配電の需給データ

(2)太陽光発電事業者アンケート結果

九州本土の太陽光発電事業者へのアンケートの結果、56件の太陽光発電所に関する回答を得ることができた。発電所の規模(パネル容量)は低圧から高圧まで多岐に渡るが、平均のパネル容量は1,090kWだった(連系容量は935kW)。アンケートへの回答の内訳を表4および図13に示す。出力制御の回数(日数)は、全体的には8回から16回と2倍になっており、30日ルールが適用される旧ルールのうち、制御方式がオフラインの場合、制御回数は11回から13回にわずかに増加しているが、オンライン化されている場合には10回から6回に制御回数が減少している。一方、4月から出力抑制ルールが大幅に変更された指定ルールの発電所では制御回数が3回から32回と10倍以上になっている。その結果、日射量の変化率を考慮した上で、出力抑制が寄与した発電電力量の減少率は発電所全体の平均が12.6%減少に対して、指定ルールの発電所では19.4%の減少となった。

表4. 出力抑制に関するアンケートの回答内訳

出力抑制
ルール
制御方式 回答

件数

2021年
4~5月
2020年
4~5月
電力量

変動率

そのうち

日射量
寄与率

そのうち

出力抑制
寄与率

制御回数(日数)
旧ルール オフライン 26件 13.1 11.0 -26.5% -12.7% -13.7%
オンライン 10件 6.2 9.8 -15.1% -16.2% +1.2%
37件 11.4 10.7 -24.3% -13.3% -11.0%
指定ルール オンライン 14件 31.5 3.1 -33.4% -14.0% -19.4%
合計 56件 16.1 8.2 -26.3% -13.7% -12.6%

図13. 出力抑制に関するアンケートの回答 出力制御回数(平均値)

図14. 出力抑制に関するアンケートの回答 発電電力量 減少率(2020-2021年4-5月)

以上

[1] ISEP「第6次エネルギー基本計画への意見および提言」(2021年9月)https://www.isep.or.jp/archives/library/13516

[2] ドイツ連邦ネットワーク庁 ” Network and system security” https://www.bundesnetzagentur.de/EN/Areas/Energy/Companies/SecurityOfSupply/NetworkSecurity/Network_security_node.html

[3] OCCTO第6回運用容量検討会 資料1-3別冊「各連系線の運用容量算出方法・結果」(2019年2月15日)

[4] 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会 系統ワーキンググループ http://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/keito_wg/index.html

[5] OCCTO「マスタープラン 中間整理」(2021年5月) https://www.occto.or.jp/iinkai/masutapuran/2021/210524_masutapuran_chukanseiri.html

[6] 資源エネルギー庁「バーチャルパワープラント(VPP)・ディマンドリスポンス(DR)とは」http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/about.html

[7] ISEP「第4世代地域熱供給4DHガイドブック」 https://www.isep.or.jp/4dh-forum/4dh-guidebook/