REN21「自然エネルギー都市世界白書 2019」- 都市が気候変動対策と自然エネルギーを主導する(プレスリリース)
2019年12月9日
国際的な自然エネルギー政策ネットワーク組織 REN21(本部:フランス、パリ)は、2019年11月25日「自然エネルギー都市世界白書 2019」を公表しました。
英語版「自然エネルギー都市世界白書 2019(Renewables in Cities 2019 Global Status Report, REC-GSR)」はこちらからダウンロードできます。
アジア版プレスリリース翻訳
「驚かれる方もいるかもしれませんが、私たちはいまや世界中のあらゆる場所でひとつのパターンを見出しています:都市が自然エネルギーへの転換を推進していることです。自然エネルギーが心肺の疾病を減らし、地域に雇用を生み出し、自治体の予算に救いをもたらすことを都市は理解しています」と、REN21事務局長ラナ・アディブは、パリでの自然エネルギー都市世界白書(REC-GSR)の最初の発表の際に述べました。「もし都市が独自に決断すれば、今日の気候・エネルギー政治はまったく異なるものとなるでしょう。」
「化石燃料中心の経済は、政府が気候変動の影響に対する懸念を前面にもってくることを困難にしており、その結果として、私たちは世界的にパリ協定のトラックに間に合っていません。この現実を直視することは大変です。私たちのパートナーである国連環境計画が今日発表している「排出ギャップレポート 2019」は、厳しい現実を示しています:世界の国々は、温室効果ガス排出の増大を止めることに集合的に失敗しているということです。いま、より深く、より早く排出を削減することが求められており、都市は自らの手で行動をおこすことができます」と、ラナ・アディブは述べます。
2019年11月までに、23ヶ国で約1,200の自治体が気候非常事態宣言を発しています。すでに約10,000の自治体が、炭素排出削減目標を採択しており、新しいレポートではその多くが自然エネルギーと関連付けられていると述べられています。
世界の都市の自然エネルギーの取り組みをまとめたはじめてのレポート
自然エネルギー100%を実現するにはまだ数十年かかると多くの国々は考えています。しかし、世界の多くの都市は、今日、すでに電力を自然エネルギー100%で賄っています。いまや、こうした都市は、冷熱や輸送、産業から化石燃料を取り除こうと、目標を拡張するステップへと踏み出しています。
オーストラリアの首都キャンベラは、2020年から総電力消費量と同量の自然エネルギー電力を購入するアジア太平洋で最初の地域となります。また、世界の多くの都市と同様に、電気自動車への優先レーンと無料パーキングを提供することでゼロエミッション輸送を推進しています。
新たな自然エネルギー設備を建設するためのスペースが限られているという課題を乗り越えるため、都市自治体の中には自らの管轄区域の外部のプロジェクトに投資し、規模の経済を利用してコストを下げています。メルボルンは、市中心部から北西180kmに建設される39基のウィンドファームの資金調達を支援しています。現在、このプロジェクトが市庁舎や銀行の支店、市内の街灯などに電力を供給しています。
自然エネルギーが数百万人の早死を防ぐ
「レポートの重要なメッセージのひとつは、多くの都市が化石燃料の燃焼から直接被害を受けていることを理解している点にあります。エネルギーを効率化し、自然エネルギーへと移行することが唯一の解決策なのです」と、アディブは述べます。
もっとも強力な動機付けのひとつは、大気汚染です。化石燃料からの粒子やその他の大気汚染は、文字通り都市を窒息させます。それらは人間の髪の毛の直径のほんの一部程度の大きさに過ぎませんが、世界保健機関の研究によれば、都市上空にそれらが存在することで数百万人の早死と数十億ドルのコストの原因になることが報告されています。アジア太平洋地域の人口の92%は、健康に著しいリスクをもたらすレベルの大気汚染に曝されています。世界でもっとも汚染レベルが高い30都市のうち、22がインドにあります。レポートでは、中国だけでも1.4兆米ドルの保健コストがかかっていることが述べられています。
前国連事務総長で韓国気候大気協議会議長のバン・キムン氏は、化石燃料の燃焼と市民の健康のつながりを強調します。「持続不可能で無謀なエネルギー消費は、深刻な大気汚染につながり、人類の健康への第4の脅威をもたらし、今日、私たちが直面する最大の環境および健康のリスクとなっています。こうした背景に対して、クリーンでより持続可能なエネルギーモデルへの転換は、もはや選択の問題ではなく、義務です。ソウル市が実践しているように、都市は革新的なアイディアを練り、創造的な政策を実行することで、大気汚染の防止に向けた取り組みの先頭に立っています。私たちは、エネルギー転換に必要とされる手段をもっています。私たちに必要なのは、この転換を現実のものとするための政治的および制度的な意思です。」
アディブは「もし北京が自然エネルギーの目標を設定すれば、都市の生活の質を著しく改善し、域内GDPの10%以上にもなる大気汚染に起因する健康コストへの出費を回避することにつながります」と述べます。
途上国の多数の都市が自然エネルギー拡大をリードしている
「自然エネルギーによる便益は、世界中で同じようにもたらされています」とアディブは述べます。「しかし、違いもあります。開発途上国の都市にとって、自然エネルギーは住民のエネルギーアクセスを拡大する唯一の方法であり、特に都市のスラムや、郊外とその周辺の非公式居住地の住民にとって重要です。」
国連環境計画事務局長インガー・アンダーセン氏は「資源枯渇と汚染を回避し、雇用を創造することで、自然エネルギーは明らかに社会経済発展のエンジンとなります。都市が拡大するほど、強力な自然エネルギーの基盤が築かれ、成長へとつながります。」
自然エネルギーは都市のレジリエンスを高める
レポートのデータは、都市の発展と生活水準の向上が絶えざるエネルギーへの渇望を招いていることを示しています。レポートは、すべての都市の70%が、今日、すでに気候変動の影響を受けていることを示しています。アディブは「都市がエネルギーの生産と利用に対してなにもしなければ、自己破壊を突き進めることになります。これは単純なことで、都市も理解しています。そして、世界中の都市スラムや非公式居住地に住む10億人以上の人々の中でも、もっとも貧しい人たちがもっとも深刻な影響を受けるのです。」
洪水や嵐が到達するとき、救命サービスや病院、情報システムなどの運営の継続を確保するため、エネルギーインフラを運営し続けることがきわめて重要となります。日本の柏の葉スマートシティ地域では、コミュニティに不可欠となるサービスを災害時に確保できるように大規模リチウムイオン蓄電池と太陽光発電を導入しています。これにより、コミュニティの通常のエネルギー消費3日分の60%を供給することができます。「アジア太平洋は、世界でもっとも災害が起こりやすい地域です。分散型自然エネルギーによるエネルギーシステムは、気候変動によってさらに頻繁に起こりつつある集中型のショックに対して、より柔軟かつレジリエントに対応できます。レポートでは、都市がそのことを理解していることが示されています」とアディブは述べます。
地域レベルの参加が変化をもたらす
近年、自然エネルギーを利用したコミュニティエネルギープロジェクトの件数が世界各地で急増しています。コミュニティエネルギーは、よくデンマークやドイツのような欧州北部に関連して語られますが、タイや日本を含め、それ以外の世界各地でプロジェクトが現れつつあります。このトレンドから、気候変動と同様に、民主主義がエネルギー転換を推進する重要な要因であることを確認できます。
「都市は、国および世界レベルで気候変動への取り組みを積極的に推進することができます。都市は、地域の市民や企業とより直接的な関係をもっていることも含め、その他のレベルの政府がもっていない機会を活かすことができます」とドイツの環境大臣スヴェニヤ・シュルツ氏は述べます。「市民参加と公なプレッシャーは、社会・経済・環境の便益を享受する世界中の多くの都市の自然エネルギー目標を高めています。」
「しかし、世界最大規模の都市であっても、各国政府の意思決定構造とパリ協定のコミットメントを達成する責任を置き換えることはできないことを強調しておく必要があります。気候危機からは誰も隠れることができません。」とアディブは締めくくります。
「自然エネルギー都市世界白書 2019」は、世界の都市の自然エネルギーへの転換に関する実績をまとめたはじめての年次レポートです。このレポートは、データへのアクセスを可能にし、より標準化されたかたちで評価し、比較することを容易にします。「このレポートが世界の自然エネルギーへの転換に向けた進展と結果を記録する重要なツールになることを期待します」とアディブは述べます。
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