自然エネルギー白書 2017

Renewables 2017 Japan Status Report

ソーラー・シンギュラリティ

「電源(パワー)の時代」から「気候の時代」そして「太陽の時代」へ

飯田哲也(環境エネルギー政策研究所 所長)

「シンギュラリティ(技術的特異点)」とは、最近のスパコン補助金不正疑惑で初めて聞いたかもしれないが、もともとは2005年に未来学者のレイ・カーツワイルが、人工知能の分野がこのまま発展すれば「やがて人工知能が人間を越える」と唱えてから議論が活発になってきた。

シンギュラリティの特徴は、指数関数的な成長(=倍々ゲーム)と、普及に伴う継続的な性能向上やコスト低下(「ムーアの法則」あるいは技術学習効果)にある。この指数関数の面白いが怖いところは、最初は目立たないようにじわじわと普及して、ある時点から爆発的に拡大することだ。実データで見てみる。

世界で風力発電の普及が始まったのは、1980年のデンマークと米国カリフォルニア州だ。その後、1988年には実質的にこの2カ国だけの風力発電で、世界の電力供給の0.01%を発電した(以下、数字はいずれもBP統計)[1]。それが1998年には0.1%を越え、2008年には1%に到達し、2015年には5%を供給した。10年でほぼ10倍というペースで拡大してきた。

[1] BP統計 https://www.bp.com/ja_jp/japan/report/bp-statistics.html

太陽光発電はどうか。太陽光発電の本格的な普及は1995年の日本からだ。電力会社の余剰電力購入メニューと国の半額補助が後押しした。その後、2002年には世界の電力供給の0.01%に達し、2008年半ばには0.1%を越え、2015年に1%を越えた。およそ6年半で10倍というペースは風力発電よりも速い。

今起きている太陽光発電と風力発電がリードする世界のエネルギー変革は、従来のメカニズムやスピードとは全く異なる。直線的な変化ではなく指数関数的な変化だと捉えるべきだ。

指数関数の世界では、1%は100%の100分の1ではなく、1%は100%への「中間点」である。1%までの「中間点」までは従来の主流派に無視されるが、それを越えるあたりから量的な拡大が急激に目立つようになるため、新規参入者も既得権益による反発も一気に激しくなる。しかし、遅かれ早かれ、従来の秩序や構造を根底から塗り替える「破局的変化」は避けられない。これを「ソーラー・シンギュラリティ」と呼ぶ。

振り返ると、1990年頃までは「電源(パワー)の時代」だった。経済成長のためのエネルギーを巡る論争で、原発と化石燃料が主役であった。これに対して市民・環境派は、大気汚染・事故・核廃棄物などの視点から抗ったが、主要な対抗策は省エネに留まった。

その後、パリ協定の2015年あたりまでは「気候の時代」と呼びたい。気候変動問題がエネルギー政策の主役に躍り出て、原発でCO2抑制という守旧派に対して、炭素税や排出量キャップなど「政策」による抑制を狙ったが、結果として温室効果ガスは増大の一途を辿った。

そして今、「太陽の時代」が訪れ、上の二つの時代から主客が逆転した。今もなお経済成長(というより文明社会の維持・発展)にエネルギーは欠かせず、気候変動問題も大きな脅威である。

しかし、風力発電やとりわけ太陽光発電は、最も安く早くリスクも小さい電源だから指数関数的に成長してゆく。それは、エネルギー安全保障のためでも「パリ協定」のためでもないが、結果として、それらを「付随的」に解決しながら、社会とエネルギーのあり方を根底からひっくり返そうとしている。

今こそ、大局的な時代認識と大きな構想力が求められている時だ。


謝辞

この「自然エネルギー白書2017」は、日本における自然エネルギーの本格的な普及を目的として、認定NPO法人環境エネルギー政策研究所によって編纂・発行されています。編纂にあたっては、外部協力者に執筆を担当していただいており、この場を借りて厚くお礼申し上げます。また、環境エネルギー政策研究所のスタッフも調査・執筆を担当し、インターン・ボランティアにも協力していただいており、感謝いたします。

協力

  • 一般社団法人 全国ご当地エネルギー協会
  • パワーシフト・キャンペーン

監修:飯田哲也
編集責任:松原弘直
Webデザイン:古屋将太

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